眼科医が子どもの近視矯正「オルソケラトロジー」のメリット・デメリットを解説

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「子どもが眼科検診で近視を指摘されてしまったけれど、治療法はある?」「まだ小学生なのにコンタクトレンズを装用するって大丈夫?」など、子どもの近視について悩んでいる親御さんも多いのではないでしょうか。今回は「オルソケラトロジーの方法や実際の流れ」などについて、Medical DOC編集部が眼科医の高橋大樹先生(前橋みなみモール眼科院長)にお話を伺いました。

手術不要の近視矯正治療、オルソケラトロジーとは?

編集部

オルソケラトロジーについて教えてください。

高橋先生

オルソケラトロジーの効果は2つあります。1つは「近視を矯正し裸眼で見える状態にすること」、もう1つは「近視の進行を抑制すること」です。眼球は直径が大きくなると近視が進むのですが、とくに成長期は眼球の成長も早いため、その時期にオルソケラトロジーをしておくと近視抑制効果が大きく得られます。オルソケラトロジーの近視抑制は何も対策しなかった場合と比べて50%程度と言われています。なお、オルソケラトロジーは「ナイトレンズ」と呼ばれることもあります。

編集部

「ナイトレンズ」ということは、夜にコンタクトレンズを着けるのですか?

高橋先生

はい。眠っている間、一般的なコンタクトレンズとは異なる特殊なデザインの「高酸素透過性コンタクトレンズ」を装用します。睡眠中、角膜の形にクセをつけることで、日中は眼鏡やコンタクトレンズなしで過ごすことができるようになります。

編集部

なぜ、角膜の形にクセをつけると近視が矯正されるのですか?

高橋先生

近視を矯正するためには、目に入ってくる光の屈折を変える必要があります。睡眠中に角膜のカーブを変えることによって光の屈折が変わり、翌朝レンズを外した後は角膜が矯正された状態になるため、日中は裸眼で生活することができるのです。

編集部

矯正された「角膜のクセ」は、どのくらい持続されるのですか?

高橋先生

個人差はありますが、最初は持続時間が比較的短く、一晩中コンタクトレンズを装用していても「効果は数時間」という場合があります。しかし、装用を繰り返すうちにクセもつきやすく、また持続しやすくなってくるため、装用開始から約1週間後には1日を通して効果が持続するようになることが多いですね。

オルソケラトロジーによる子どもの視力矯正治療のメリット

編集部

オルソケラトロジーのメリットを教えてください。

高橋先生

日中は裸眼で過ごすことができるので、眼鏡やコンタクトレンズを使わずにスポーツを楽しむことができます。とくに、相手と衝突をすることがあるサッカーやバスケットボールなどは眼鏡だと危険ですし、コンタクトレンズは競技中に乾いて外れてしまうこともあるため、その点はオルソケラトロジーに分があるでしょう。また、水泳などの水中でのスポーツやアクティビティができるというのもメリットですね。

編集部

反対に、デメリットはありますか?

高橋先生

視力が安定するまでは、見え方が変動することがあります。また、コンタクトレンズを装用していただくので、ドライアイや感染など昼間に装用するコンタクトレンズと同様の合併症が起こる可能性があります。オルソケラトロジーに特有の副作用としては、夜間にまぶしく感じたり、にじんで見えたりする「ハロ・グレア」が挙げられます。

編集部

オルソケラトロジーは誰でも受けられるのですか? あと、「子ども」とは何歳くらいからになるのでしょうか?

高橋先生

2018年4月に日本の「オルソケラトロジーガイドライン(※)」が改正され、それまでは20歳未満での使用が「禁忌」だったのですが、「慎重使用」が可能となりました。海外においても、小学生からオルソケラトロジーを導入されているケースが一般的で、日本でも大学病院での臨床研究において「有意な危険性なし」と報告されたこともあり、当院でも「7歳から装用可」としています。ただし、角膜形状や眼疾患、近視の度数によっては、適応外となる可能性もあります。

※日本眼科学会「オルソケラトロジーガイドライン(第2版)」
https://watanabe-eye-umeda.net/imagesWP/pdf/guideline.pdf

編集部

オルソケラトロジーの適応について教えてください。

高橋先生

オルソケラトロジーの適応は「近視の度数」と「角膜のカーブの強さ」で決まります。一般的に近視の度合いは「視力の低下」をイメージすると思いますが、オルソケラトロジーの適応条件は「視力」ではなく「度数の大きさ」です。近視の度数が大きすぎたり、乱視が強すぎたりすると適応外となります。また、もう1つの要素である角膜のカーブの強さについて、普段の生活ではほとんど意識しない数値ですが、角膜のカーブが緩いと少し近視の度数が大きいだけで適応外となります。

オルソケラトロジーによる近視矯正治療の流れ

編集部

実際の治療は、どのような流れで進むのでしょうか?

高橋先生

まずは適正検査をおこないます。オルソケラトロジーのレンズの装用に適しているか、近視の度合いや目の健康状態を調べるのが適性検査です。検査で問題なければ、トライアルレンズを装用していただき、フィッティングと度数を調整してトライアルレンズを1週間装用します。その後、必要に応じて度数を調整して再びトライアルレンズを装用する、という流れで度数を決めていきます。

編集部

その後はどうなりますか?

高橋先生

トライアル後の視力の状況と本人の満足度から、治療の継続の意思確認をおこないます。希望される場合は、度数を確定してオルソケラトロジーのレンズをオーダーして、定期的に目の傷がついていないか、あるいはレンズを左右逆につけていないかなどをチェックしながら治療を継続します。希望されない場合は、トライアルレンズを返却していただいて終了です。

編集部

オルソケラトロジーの費用はどのくらいかかりますか?

高橋先生

オルソケラトロジーは保険適用外なので、医療機関によって異なります。当院では、トライアル前の検査が3000円、トライアル費用は無料、治療は定額制で片目が月5000円、両目が月1万円となっています。定額制でない医療機関の場合は、初期費用で10万円くらいの医療機関が多いようです。詳しくは、お近くの医療機関に確認してみてください。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

高橋先生

最近の子どもはスマートフォンやタブレットなどの使用機会が多く、近視になるケースが増えています。オルソケラトロジーは、「眼鏡をしたまま友達とぶつかって、怪我をしてしまった」「学校で目をこすったら、コンタクトレンズが取れなくなった」という心配もありません。子どもが寝る前につけてあげて、学校に送り出す前に外してあげるという、大人がしっかりと管理できる近視矯正治療です。また、子どもの頃に近視対策をしておくと、将来起こり得る網膜剝離や緑内障などの病気のリスクを軽減することができます。開始時期については、近視が進みやすい成長期に入る前から始めるのが理想的です。ぜひ、お近くの医療機関でまずはトライアルだけでも試してみることをおすすめします。

編集部まとめ

オルソケラトロジーは安全性や効果がデータとして示されており、親にとっても安心できる近視矯正治療とのことでした。子どもが学校の学校健診などで近視を指摘されたときに、こうした対応を知っておくことで、お子さんの将来にもいい影響がありますね。

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