粉体秤量を自動化する「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」発表 カワダロボティクスとエクサウィザーズ

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協働ロボットを開発・販売しているカワダロボティクス株式会社
とAIサービス開発を手がける株式会社エクサウィザーズ
は2022年11月21日、共同開発したシステム「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」を発表した。

両社の技術を組み合わせ、化粧品・医薬品・食品業界、化学業界における製造・品質検査、研究開発の工程において必要となる粉体秤量作業を高速自動化することで、現場の生産性向上に寄与する。双腕ロボットを使うことで「すり切り」動作などを適用できる。単腕ロボットを使って同様の作業を行う場合に比べて秤量工程全体の所要時間を約3割短縮でき、人と同程度の所要時間で高精度な秤量ができる。販売形態等は顧客と相談している段階。2023年1月以降の提供開始を予定する。

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●カワダロボティクス ヒト型協働ロボット「NEXTAGE」



ヒト型協働ロボット「NEXTAGE」
「NEXTAGE(ネクステージ)
」はカワダロボティクスが開発・販売しているヒト型協働ロボット。モノづくり分野でのヒューマノイド活用を目指して開発されたロボットで、双腕による作業と頭部ステレオカメラによる3次元位置認識ができる。80W以下の小出力アクチュエータでコンパクトに構成されており、人共存環境で人同等占有空間で作業ができる。国内100社以上の生産現場に導入されており、電子・機械部品の組み立て作業や日用品の梱包、ラボ工程などに用いられている。



NEXTAGEは「NXA」と「Fillie」を併売中
2022年3月には、より柔軟な動きとスピードを重視した軽量安価なモデルとして新型の「NEXTAGE Fillie(ネクステージ・フィリー)」を発売した。現在、2018年にFA顧客のニーズを受けてモデルチェンジした従来機種「NXA(エヌエックスエー)」と併売されている。ハンドなど機能を拡張するための周辺機器やソフトウェアも他社から「パートナーオプション
」として販売されている。カワダロボティクスから見ると、今回の「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」は、このパートナーオプションの一つというかたちになる。



カワダロボティクス 事業企画室室長 藤井洋之氏

●社会課題を解決するAIサービス開発を行うエクサウィザーズ



「マルチモーダルAI」による自動化が「exaBase ロボティクス」の特徴
エクサウィザーズはAIサービス開発を行うスタートアップ。金融、保険、ヘルスケア、製造業、検査、通信、物流など様々な分野で上流から下流まで、年間300件以上のAIサービス開発を行なっており、2021年12月にはマザーズに上場した。ロボットビジネスは同社が得意とする「マルチモーダルAI」の適用分野の一つとして、2017年から手がけている。これまでにタオルの折りたたみ、バラ積みピッキング、粉体・液体秤量などのデモを公開しており、従来技術では自動化が難しかった部分にAIを加えることで新たな自動化を進めている。

「exaBase(エクサベース)
」はエクサウィザーズが提供するAIプラットフォームの総称。ロボット向けAI「exaBase ロボティクス
」は対象の画像データ、機器やロボットの制御データなど複数のセンサー情報を学習データとして活用してAIモデルを生成することで、複雑なプログラムを組むことなく人の作業を実現させることができる技術。以前は「COREVERY」と呼ばれていた技術だ。公開されている範囲では、株式会社ツムラにおける粉体製造業の現場向け秤量自動化AIシステムや、日立金属株式会社における外観検査の自動化ロボットAIシステム等に使われている。



不定形物への対応が可能

●製造業における「粉体秤量」工程を高速自動化



exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE
会見ではカワダロボティクス 事業企画室室長の藤井洋之氏、同 技術部 技術二課 SIグループ係長の寺粼清氏、エクサウィザーズ EdgeAI部 Robot AIグループ 技術専門役員の浅谷学嗣氏、同 Robot 企画部 Robot企画グループ AIコンサルタント ビジネスディベロップメントリード 直野廉氏らが解説した。



エクサウィザーズ Robot 企画部 Robot企画グループ AIコンサルタント ビジネスディベロップメントリード 直野廉氏
粉体秤量作業とは、容器の中に入っている薬品などの粉を、決まった量だけ取り出したり混ぜたりする作業だ。自動化のためには「スパーテル」と呼ばれる薬サジを使った定量取り出しだけでなく、容器の重量計測やセット、キャップの開閉などを行う必要がある。今回の「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」はこの工程を一気通貫で自動化する。



ロボット正面のボトルを置くところは秤になっている
一言で「粉」といっても物質によって振る舞いが異なる。エクサウィザーズの直野氏は「例えば、きな粉と塩を思い浮かべてほしい。きな粉はダマになって固まりやすく難しい。2種類なら専用機でもこなせるが、扱う種類が増えると設定が難しく、人で行なっている。また研究部門では高単価の人が1日数時間この作業を行なっている」と紹介。



様々な種類の粉に対応可能
「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGE」では、容器や対象の粉が変わっても対応できる。何グラム取りたいかを指定すると、指定重量の粉をとってくれる。特徴は、人間でも難しく、あるいは時間がかかり、集中力も必要とするような「mg単位」の秤量も人間と同精度で行うことができるところ。また、複数センサー情報からそれぞれの粉の違いを判断して、Aiが自動で掬い方も変える。

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「exaBase ロボティクス 粉体秤量 for NEXTAGEでは、どういった粉を扱うかによってAIアルゴリズムを選択して組み合わせる。具体的には粉体表面までの距離と画像情報を計測して3次元形状を取得。そこにどのようにスパーテルを差し込めばいいのかを学習して、ロボットの動作を出力している。ボトルの重さは秤で計量しており、表面情報からはどのくらいの量(体積)が入っているかがわかる。そこから比重も計算できる。その情報と粉の隆起状態も掛け合わせて利用することで、粉ごとに扱いが異なる適切なすくい方を出力して、粉体を量り取ることができるという。



ロボットハンドのRealsense(距離画像センサー)でビン内の粉表面の情報を取得
複数種類の粉が混ざってしまうコンタミネーションのリスクについては、スパーテルを持ち変えることで物理的に防ぐ。これによって都度洗浄の時間と手間を省くこともできる。



ロボットが扱うスパーテル(薬さじ)
システム全体が1.5m四方におさまる双腕ロボットを使うことで、単腕ロボットを2台使うのに比べると占有面積も小さくできるという。またシステム立ち上げのリードタイムも短くできるとのことだ。



システム全体。ロボットコントローラー含めて1.5m四方に収まっている
エクサウィザーズは今後、AIを活用したロボットの展開を進めていく。エクサウィザーズ浅谷氏は「ニッチな産業ほど人がいなくなる」と述べ、今回の粉体秤量や液体秤量作業などの自動化に取り組んでいきたいと語った。一回でほぼ狙った量を取り出すことができるのは他社にはない強みだという。実際に実験を行なっていく過程で、ロボットがどんどん一度に定量をすくえるようになり、わずかな量だけ加えるような「すり切り」動作はほとんど行わなくなってしまったとのこと。

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●ティーチングとAIによる動作の両方で顧客課題を解決



エクサウィザーズ EdgeAI部 Robot AIグループ 技術専門役員 浅谷学嗣氏
エクサウィザーズはこれまでも展示会等で定量計量のデモを多く行っている。初期は主に人の動きを再現することを目指した模倣学習でデモを行なっていたが、今の仕組みは違っている。エクサウィザーズ浅谷氏によれば「今回のように繰り返しが多い作業の場合は『一回取ったら何グラム取れた』というデータを何回も繰り返し取得することで予測モデルを立てている。もっと大量にkg単位で計測するようなものや実際の複数回秤量が大変なものについてはシミュレーションを使って強化学習を行わせている。ターゲットの量によってアルゴリズムは変えている」とのこと。場合によっては全てAIでやるのではなく、物理的に定量化するといった作り込みも行なって、顧客ニーズに応える必要があるとのこと。

ちなみに2022年6月に開催された「FOOMA JAPAN2022 国際食品工業展」で技術商社のたけびしブース内でエクサウィザーズが出展した、スコップを使った100g〜数kg単位の粉体秤量展示はシミュレーションと強化学習を使って実現したものだったとのこと。



AIで生成する動きはビンの中にスパーテルを差し込んで取り出すところ
なお今回の動きのうち、AIで自動生成している動きは、ビンの中を見て、スパーテルを差し込んで中身の粉をすくい、取り出すところまで。必要に応じて実行する「すり切り」動作もAIによる生成だ。あとのロボットの動きは従来のティーチングによる作り込みで行っている。



カワダロボティクス 技術部 技術二課 SIグループ係長 寺粼清氏
AIによる自動生成と従来型ティーチングのつなぎ込みについては、「NEXTAGE」の標準制御ソフトウェアである「Nx Production」のサブルーチンとしてエクサウィザーズ開発のAIを動かすというかたちになっている。「Nx Production」では動作制御の切り分けが簡単で、カワダロボティクスでは今後もこういったAIスタートアップとの協業や、外部機能の取り込みや連携は積極的に行いたいとのことだった。



システムフロー

●既に十数社と商談中、強いニーズを背景に導入を進める



ロボットなので集中力が途切れることなく、夜間作業も可能
今回の取り組みはエクサウィザーズからカワダロボティクス に声をかけて実現した。両社は今後、12月5日から26日まで1日三回(10時-12時、13時-15時、15:30-17:30)、エクサウィザーズ社内でデモを行う。3スロットとも同じデモで、1スロット1社のみ。粉体秤量における課題を持つ企業に参加してもらいたいとのことだ。問い合わせ先はこちら
から。

精度に関しては顧客からの要望に応じて追加開発や調整が可能だという。既に十数社と話を進めており、粉体秤量自動化のニーズは高まっていると感じているとのこと。2025年くらいの新工場立ち上げ時の自動化における粉体秤量の相談などが多いという。

実際のシステム導入においては、単品だけではなく、前後工程と繋ぐ必要がある。そのため全体コストはシステムインテグレーション次第で大きく変わってくるとのことで、価格は応相談とのこと。エクサウィザーズとカワダロボティクスと顧客だけではなく、間にSIerを入れる可能性もあるため、どういうかたちで販売するかについても顧客と個別相談となる。

エクサウィザーズだけでなく、カワダロボティクスにも粉体秤量のニーズは「10年前からあった」という。導入台数等については既に十数社から話がきていることから「両社がどこまで対応できるか次第ではないか」とカワダロボティクスの藤井氏と寺粼氏は語った。導入先については、高コストの研究室での秤量や、ラインでの秤量作業まで色々あるとのこと。どこに注力していくかは今後の反応を見て2社で決めていくという。