デスクワークは体にどのような影響を与えるのか。整形外科医で東京医科大学の遠藤健司准教授は「デスクワークというのは、冷房、暖房のきいた環境で作業できる恵まれた仕事と思われているが、実際は体を動かすよりも重労働。首に大きな負担を与えているので、意識的に休憩を取り、運動することが大切だ」という――。

※本稿は、遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■「立つ」より「座る」ほうが首や腰の負担は大きい

仕事全般で見ると、作業時間がもっとも長いのは、デスクワークだと思います。

健康を意識する時に座り姿勢である座位を理解するのは非常に重要。我々整形外科医は、その座位をかなり研究しましたが、座っている姿勢というのは、立っている時以上に、首や腰にとって負担が大きく、ストレートネックを招きやすいことがわかっています。

出典=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より

もともとゆるやかにわん曲している首が、デスクワークで前かがみになると首が逆にそるわけです。その結果、首の後ろの筋肉がとても緊張しやすい状態になり、それを続けていると硬直してストレートネックに。

最近はストレス社会で、作業効率が悪い、仕事がうまくいかない、となると、肩こりがより悪化して自律神経の乱れにも繋がります。

デスクワークというのは、室内の冷房、暖房のきいた環境で作業できる恵まれた仕事と思われていますが、実際は体を動かすよりもよっぽど重労働。首や肩、腰に強い負荷(ふか)がかかっているのです。長時間動かないで座り続けるというのは、心身ともに重労働であるということを皆さんに理解してほしい。

体を動かすと「ああ、よく働いた、頑張った」と思ってしっかり休むのに、デスクワークは重労働だという意識が低いために、休まずに根(こん)を詰めて頑張り続けてしまう傾向が見られます。

リモートワークはさらに深刻です。パソコンが、椅子が、照明が、という問題ではなく、長い時間同じ姿勢で座り続けることが一番の問題なのです。

我々のような医師や研究者は長時間のデスクワークによる悪影響をよく知っていますが、会社も社会全体もその認識がまだまだ甘いようです。

繰り返します。デスクワークは、重労働です。仕事中も定期的に休憩をとり、仕事から帰ったら、ストレッチや入浴で体をいたわってあげましょう。

■スマホの登場でさらに首の負担が増加

このストレートネック、最近ではスマホ首とも呼ばれています。

ここ10年ほどで、街中でも駅でも電車の中でも、誰も彼もスマホを見ている光景がポピュラーになりましたが、このスマホを見る姿勢が首には大問題。首は体重の約10%と言われる頭の重さを支えていて、前傾が大きくなるごとに負荷が増えていくのです。

美味しい新米を思い浮かべてください。私たちは普段から、体重が50キロの方なら5キロの新米の袋を頭に持っているようなもの。非常に重い。

それが30度の傾きをずっと続けていると、首のつけ根に約3倍の重さが加わってくる。首の後ろ側の筋肉がめちゃくちゃ頑張って悲鳴を上げているような状態なのです。年齢にかかわらず、というより、むしろ長時間スマホを見続ける若者のほうが、リスクが大きいと言えるかもしれません。

イラスト=さかもとすみよ
首の角度と負荷の関係 - イラスト=さかもとすみよ

首に重さがかかる、ということは、首を支える肩甲骨にも負荷がかかり、肩甲骨まわりの筋肉がガチガチに硬直し、動きが悪くなります。肩が内側に入り、背中が丸くなり、肩こり、首こりは言うまでもなく、頭痛やめまい、目の痛みなどの愁訴も。もしかするとブルーライトより体に与える悪影響が大きいかもしれません。

そしてこの姿勢を何年、何十年と続けた先のことを考えてみてください。首の後ろの筋肉が緊張したまま固まるとどうなるか。整形外科には、首を上げられずに苦しむ「首下がり」という症状の患者さんが多くいらっしゃいます。

70歳以降の人に多く見られますが、早い人では50代から兆候が現れることも。今ならまだ間に合います。スマホを見ている間、首にどれだけ負荷がかかっているかを知ったら、視聴時間を減らすとともに、体のメンテナンスを始めましょう。

■「姿勢を維持するための筋肉」は固まりやすい

私たちの体には、動くための筋肉と、姿勢を維持する筋肉とがあります。姿勢を維持するための筋肉は、意識をしないとなかなか動かしにくいもの。うっかり何時間も同じ姿勢を続けていると、姿勢を維持する筋肉の不動化が起こり、そこに酸素が十分行かなくなって不調が生じるのです。

■よい姿勢であっても動かないことがダメージ

根本的に動物というのは、植物と違って弁構造が発達していないので、長時間同じ姿勢でいると、下の部分に水が溜まってしまう性質があります。

たとえよい姿勢であろうと、立っていても、座っていても、寝ている時も、動かないことのダメージのほうがとにかく大きい。どんな椅子が体にいいのか、どんなマットレスが体にいいか、という質問をよくいただきますが、体を動かしやすいもの、というのが正解です。

特に睡眠中は、スムーズに寝返りが打てることが優先順位の一番。寝返りを打たなければ、体重がかかる部分がむくんでしまうので、朝起きた時に、寝違えやぎっくり腰にもなりやすいのです。

たとえば、働き盛りの男性が一日のハードワークを終えて、そのあとお酒を大量に飲んで気絶するように爆睡することがありますよね。爆睡すると寝返りを打てなくなります。

寝返りというのは、同じ姿勢をしていると体がだるくなってくるので、それを自然に防御するための人間の素晴らしい反応なのですが、睡眠導入剤を使用していたり、お酒を大量に飲んだり、疲労が強くなったりすると、寝返りが打てなくなって、むくみや腰痛が起こる、というわけです。

写真=iStock.com/Yuji_Karaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuji_Karaki

■むくみは筋肉のなめらかさを低下させる

軽視されがちなむくみも、侮ってはいけません。

体がむくむと、前回の記事で説明した「ファシア」という筋肉と筋肉の間の“ゆるゆる組織”の動きが悪くなり、筋肉同士のなめらかさが低下します。その結果、ぎっくり腰や首の寝違えを引き起こしやすくなる。

ファシアの異変はレントゲンやMRIに写らないし、残念ながら圧迫がない痛みに関しては勉強不足の医師もいるので、患者さんに十分説明できていないことが多い。だから、何が起こって痛みを引き起こしているのか、どうしたらいいか、が皆さんに伝わらないのです。

■私自身も肩こりに悩んでいた

実は私も肩こりに悩み、専門を方向転換しました

こうして皆さんに、肩こりの危険性と改善法をお伝えしている私自身が、以前はひどい肩こりの持ち主でした。「肩甲骨はがし」を考案した今でこそ、重症化する前にセルフケアできるようになりましたが、本気で勉強をし始めた高校生〜医学生の頃はずいぶん肩こりに悩まされました。

机に向かっても肩が痛くて集中力が続かないのです。それでも若さゆえの根性で、勉強しまくっていましたが……。

医学部を卒業し専攻を考えるにあたってこの生活をずっと続けるのは無理だと考えました。一日中座って医学書や論文を読むのが仕事になったら体が本当にダメになるという危機感から内科を諦め、体を動かせたら少しは楽なのではないか、と思い整形外科に方向転換したのです。

もちろん外科でも長時間同じ姿勢でオペをすることがあるのですが、腰や体の位置を変えるので座って文字を見続けるよりは楽です。それをストレスと感じない人が内科の医師になるのでしょうね。好きなことだったら乗り切れるのかもしれません。

遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)

余談ですが、いつもどこか体を動かしていたいタイプの私の受験勉強方法を紹介します。じっと座って教科書を読んでいるのが苦痛だったので、動きながら勉強する工夫をしていました。中でも効果的に思えたのは教科書に書いてあることをメモ帳に書いて、そのメモ帳を見ながら歩く、という勉強法です。記憶力も向上したような気がします。浪人生の時は、深夜まで勉強してから爆睡して、朝起きてもだるくてやる気にならないので、そのままバッティングセンターに。何球か打つと少しずつ体の調子がよくなって頭も冴えてくるので、それを勉強前の準備運動にしていたこともありました。

目標があって長時間の勉強をしている人、デスクワークの人たちは、よかったら参考にしてみてくださいね。

そんなこんなで私は整形外科医になり、肩甲骨の重要性を知ったことで、ようやく万年肩こりから解放されました。その秘訣を『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)であまさずお伝えしたいと思います。

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遠藤 健司(えんどう・けんじ)
東京医科大学整形外科准教授
日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。東京医科大学整形外科大学院修了後、米ロックフェラー大学、東京医科大学整形外科医長等を経て2018年より現職。著書に『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)、共著に『本当は怖い肩こり』(祥伝社新書)など。
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(東京医科大学整形外科准教授 遠藤 健司)