●「7×7」の法則でゲーミングPCをつくってみる

今回はASUSTeKのグラフィックスカード「Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6」をテストする機会を得たので、じっくり紹介しておきたい。これは脱メインストリーム、ハイエンドゲーミングに足を踏み入れようという方に最適。最新世代の性能だけでなく、GPUを静かに冷やすことにも長けた製品だ。ゲーミングで重要なフレームレートとともに、ゲームに没頭できるプレイ環境を求めるなら狙いたい製品と言える。

ASUSの「Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6」

○GPUにはRadeon RX 6750 XTを採用

7×7の法則をご存知だろうか。「7」グレードのCPU、「7」グレードのGPUの組み合わせという意味で、ハイエンドゲーミングPCを目指す方の一つの基準と言える。10年前ならGPUの「7」はアッパーミドルクラスだったのだが、PCパーツの価格高騰がまだ続いている現在、8〜9万円の製品をアッパーミドルと呼ぶにはそぐわない感もあり、もはやハイエンドと呼んでよいのかもしれない。また、GPUはCPUよりもグレードが細分化されているので、「7×8」もハイエンド。それよりも上、「9×9」はエンスージアストなグレードと見るのが一般的だろうか。

今回のDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6が積んでいるGPUは7グレードの「Radeon RX 6750 XT」。Radeon RXではモデル名の千の桁がアーキテクチャの世代を、百の桁がグレードを示す。十の位が50なのはリフレッシュモデルの意味だ。Radeon RX 6000シリーズの最初のリリースから月日が過ぎたことで、テコ入れ的にも、少しでも上を目指す方に向けてのアピール的にも、アーキテクチャはそのまま強化リフレッシュした新GPUとしてリリースされたものである。

Radeon RX 6750 XTのリファレンス動作クロックは、ベースクロック2,150MHz、ゲームクロック2,495MHz、ブースト最大クロック2,600MHz。Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6の製品としての定格クロックはゲームクロックが2,512MHz、ブースト最大クロックが2,618MHzだ。GPUの空冷オーバークロック(OC)モデルなのでCPUのように100MHz刻みの大きなOCにはならないが、GPUではこれでも効果は十分にある。そして製品保証のあるOC動作であることも安定して高いパフォーマンスを得たい方に重要なポイントだろう。

カードの上部ブラケット寄りに小さなディップスイッチを搭載。パフォーマンス優先のPモード、静音性重視のQモードを切り換えられる

グラフィックスメモリはGDDR6を12GB搭載している。MODやテクスチャパックを導入しない前提では、およそWQHD解像度までのプレイで余裕のあるメモリ容量と言える。メモリバス幅は192bit。このクラスは以前なら256bit幅が一般的だったが、Radeon RX 6000シリーズでは高速なキャッシュ「Infinity Cache」を用いることで、192bitバスで256bit相当の実効メモリ帯域を確保する。

そのほか、昨今ではレイトレーシングなども注目されている。レイトレーシングと言うと競合GPUが知名度でリードしているが、Radeon RX 6000シリーズもハードウェアのレイ・アクセラレーターを搭載しており、リアルタイムレイトレーシングの利用が可能だ。GPU-Zでは「Ray Tracing」の欄にチェックが入っていることもこれが確認できる。

GPU-Zの「Ray Tracing」の欄にチェックが入っている

○大口径デュアルファンで大風量を実現

さて、Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6はデュアルファンで全長29.5cm。長さ30cm未満なので、長さの点ではクリアできるPCケースが多い。最近では「7」クラスのGPUを搭載するグラフィックスカードでおトリプルファン化が進んでいるが、一方でPCケースは机の上に置ける小型のものが好まれる傾向にある。PCケースに収められなければ使えない。

それに、Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6はデュアルファンながらファンの口径が大きい。ファンの口径が大きければ風量を稼げる。ただし、その分だけ高さがあるカードとなっている。Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6の高さは13.9cm。写真のとおりブラケットから大きくはみ出している。そしてこのカード上部にはPCI Express補助電源ケーブルを配線するためのスペースも必要なことを忘れてはならない。幅20cm超のタワーケースなら通常は大丈夫だと思われるが、スリム幅をウリにするタワーケースではもしかすると収められないかもしない。

ブラケット上端からさらに2cm近くはみ出している

PCI Express補助電源コネクタは8ピン×2

また、Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6は厚みもある。スペックでは5.5cm、2.7スロット分とされているが、実際のところ拡張スロット3つ分を専有することになる。もちろんここに被ったスロットは利用できない。ATXマザーボードならそれほど致命的な問題にはならないかもしれないが、microATXマザーボードの場合は注意しよう。microATXはそもそも最大で4スロット分の拡張カードスペースしかない。3スロット使ってしまったら残り1スロット、レイアウト次第ではゼロということもあり得る。

ブラケット幅を大きくはみ出すため、3スロット分を専有する

Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6のクーラーユニットに特別な名称はないようだが、用いられているファンには「Axial-tech」という名称が付いている。Axial-techファンは軸部分を小さくブレードを長くしたデザインに加え、ブレード先端の外周をぐるりと繋いだ「バリアリング」が下向きの空気圧を高めると言う。通常、ファンで吸われた空気はすぐに拡散してしまうが、Axial-techファンはその逆でエアフローを中央に集中させると説明されている。

独特のデザインをしたAxial-techファンを採用し効率的なエアフローで冷却する。アイドル時などGPU温度が55℃を下回る状態ではファンの回転を止める0dB テクノロジーも利用できる

ヒートシンクは、ブラケット寄りと後部寄りの2つに分かれ、それぞれファンの直下に配置されている。そしてGPUの熱をこれらヒートシンクに導くのがヒートパイプ。ブラケット寄りにあるGPUからは前後にヒートパイプが延びており、前後のヒートシンクに導かれる。カード後部からは5本のヒートパイプが確認できる。



ヒートシンクとヒートパイプのレイアウトがよく分かる上部、下部

ヒートパイプの先端が見えるカード後部

また、GPUクーラーがこれだけの重量物となると、カードの反りを抑え剛性を高めるためのバックプレートも重要な装備となる。

強固なバックプレートも搭載している

このように、Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6のGPUクーラーはデュアルだが大口径、ヒートシンク部は奥行きを抑えた一方で高さ方向と厚み方向に拡大し、ヒートパイプやファン技術でも冷却性能を高めている。

●ゲーム性能と快適環境を一緒に考えてみる

○7×7でWQHD、最高画質のプレイ環境が手に入る

さて、ここからはDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6の性能を見ていきたい。冒頭で「7×7」を紹介したこともあるので、CPUにはAMD Ryzen 7 5700Xを組み合わせている。Ryzen 7 5800XとDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6で、どのくらいのパフォーマンスになるのか。今回は実ゲームでのフレームレート計測を中心に紹介していこう。

もう一つの7にはAMD「Ryzen 7 5700X」

コスパに優れたASUSのAMD B550マザーボード「TUF GAMING B550-PLUS」と組み合わせた

VRMの発熱を抑えることが長時間のゲームプレイでは重要。TUF GAMING B550-PLUSはシンプルだが大きなヒートシンクでVRMを冷却する

まずはスコアで性能比較のしやすいベンチマークを見てみよう。3DMarkのスコアは以下のとおり。

3Dパフォーマンスはやはりハイエンドクラスで、とくにFire Strikeで3万点台に乗せている点は心強い。DirectX 11でWQHDのFire Strike Extremeのスコアも16,000点台なので、十分に高画質設定が狙えるだろうと想像できる。

また、FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークも以下に示す。

3DMarkで指摘したとおり、フルHDおよびWQHDは最大画質設定でも快適に楽しめるという評価が得られている。FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークは、現在でも比較的処理の重いベンチマークなので、ほかのタイトルでもおおむねWQHD、最高画質設定で実用的なフレームレートが得られそうだ。一方、4Kについても「やや快適」評価なのである程度視野に入ってくる。

それでは実際のゲームタイトルを用いた、フレームレートベースの結果を紹介していこう。(※エルデンリングのみ60FPS制限を解除していない)

Far Cry 6

Horizon Zero Dawn

Far Cry 6とHorizon Zero Dawnの2つについて。ゲームエンジンは異なるものの、フレームレートの傾向は似ている。2,560×1,440ドット(WQHD)までは最高画質でも60fps超が十分に得られている。3,840×2,160ドット(4K)&最高画質はFar Cry 6の平均55fpsならまずまずプレイ可能だが、Horizon Zero Dawnは最低フレームレートが示すとおり、超高負荷のシーンでカクつきを感じる。そのような場合は最下段のグラフのとり設定を落としてやるとよい。

Tom Clancy's Rainbow Six Extraction

Tom Clancy's Rainbow Six Extractionについて。フルHDなら最低fpsでも120fps超を記録している。WQHDでは平均で120fps超、シーン負荷によっては最低78fpsも出ている。このタイトルの場合、120fpsを目指すか60fpsでよいか悩むところだ。ただし、画質プリセットが幅広く用意されており、設定画面の各項目がよく分からないという方でも求めるフレームレートが得られるプリセットを見つけることができるだろう。

Forza Horizon 5

Forza Horizon 5について。WQHDでも最高画質のエクストリームで最低60fps超を得られている。4Kについては画質調整が必要な印象だ。ただし、4K、高画質設定で60fpsを超えているように、中や低まで落とさずとも十分なフレームレートを得られるタイトルである。

エルデンリング

エルデンリングもWQHDまでは最高画質でプレイ可能だ。4Kについては悩むところ。最高画質はややカクつきを感じるが、高に落として最低48.3fps、平均55.2fpsまで向上した。わずか4fpsほどだが、カクつきはいくぶん抑えられる。もう一つ画質を下げるかこのくらいでよしとするか、実際にプレイしてみて判断いただきたい。

このようにRyzen 7 5800XとDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6の7×7ゲーミングPCは、多くのタイトルでWQHD&最高画質が楽しめる。解像度・画質の設定、あるいは比較的軽いタイトルならば120fps環境も得られるので、120Hz超のゲーミングディスプレイとの相性もよい。最後にアプリケーション性能をPCMark 10のスコアで見てみよう。

ホーム用途のEssentials、ビジネス用途のProductivity、そしてデジタルコンテンツ制作のDigital Content Creationと、それぞれ1万点前後のスコアを得ている。グラフィックスカードが高性能なためとくにDigital Content Creationスコアがよいとして、基本的にゲーミングPCは高性能PCである。普段仕事に使いたい、Youtube動画の編集に使いたいといったニーズもバッチリ快適だ。

○優れた冷却性能でファンの回転数制御も細かく静か

さて、ここからはDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6のGPUクーラー性能を見てみよう。テストはFINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークで行なった。設定は解像度が1,920×1,080ドット、画質設定は高品質としている。ログは2秒(2,000ms)間隔で取得しているが正しく2秒間隔というわけではないのでここでのグラフは秒とはせずカウントという形で扱っている。第1軸は青いラインのGPU温度用で単位は℃、第2軸はGPU使用率とGPUファン使用率で%表記している。GPUファン使用率はそれほど信用できる値ではなく、たとえば計測中の最大値付近の62%時で2,700rpm弱といった具合なので、ここが本来100%なのではと疑問があるが、ログの値どおりにプロットしている。

FF15ベンチマーク実行中のGPUログ

このグラフを見ると、GPU温度は一旦温まってからところどころ上に突き出ている部分が57℃、中央値が56℃、ところどころ下方向に突き出ている部分が55℃だった。GPU温度としては比較的低く抑えられている印象だ。GPUのサーマルスロットリングのしきい値はさらに上にあるものと思われ、常にそれ以下を保っていると考えられる。

GPU温度が小刻みに変化しているが、GPUファン使用率もかなり小刻みに変化している。先に説明したとおり、このログデータと実際のPWM使用率が合っているのかどうかは確証がない。もしかしたら実際には100%付近まで回っていたのかもしれない。ただしこのグラフから言えることは、ファンの回転数制御はかなり細かく行っているということだ。

実際、Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6はバラック組みの状態でもそこまで動作音が気にならないグラフィックスカードだった。もちろん動作音はあるので、より快適なプレイ環境を得るためにはこれを納めるPCケースの特性が重要だ。Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6のGPUクーラーがよく冷えると言っても、Radeon RX 6750XTはハイエンドGPUであり潜在的な熱量は大きい。適切なエアフローを与えてやることで性能、とくに静音性を最大限に引き出したい。

○性能にくわえて快適さ・静かさを基準にするなら

ここまで、ASUSTeKのDual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6の紹介と、7×7の法則に則ったハイエンドゲーミングPC構成でどのくらいのゲーム設定が楽しめるのか検証してきた。Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6は、カード長を抑えてPCケースとの相性問題を比較的抑えたグラフィックスカードだ。冷却性能の点でも静音性の点でも、納得のいく製品と言えるだろう。

Dual Radeon RX 6750 XT OC Edition 12GB GDDR6は執筆時点で実売価格8〜9万円前後だ。Radeon RX 6750 XTを搭載するグラフィックスカードとしては中央値に近く、安いというイメージはないが、高性能なGPUクーラーで静かさも十分なので割高に感じることは少ないだろう。いくらハイエンドを目指すと言えども、グラフィックスカードが10万円を超えてくると予算的にも敷居が増すのも事実。このくらいの価格のグラフィックスカードで、システム総額20万円〜20万円台半ばと見積もってみるのがいいだろう。