中国BYDが「3台のBEV」を日本の乗用車市場に導入…全国に100店舗の販売ネットワークを整備する計画も

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■日本市場にもEVの選択肢を

2022年7月21日、中国の新興自動車メーカーであるBYD(比亜迪汽車)の日本法人であるビーワイディージャパンは、都内で日本の乗用車市場への参入を発表した。

BYDは、1995年に中国広東省深圳市に設立された携帯電話部品などITエレクトロニクスや自動車、ソーラーパネルなどの新エネルギー、都市モビリティといった領域でグローバルに事業を展開するBYDグループ(比亜迪股份有限公司)の自動車部門。2003年の西安泰川自動車の倒産に伴い、BYDグループが買収して設立された会社である。

BYDは、2008年に世界初の量産PHEV(プラグインハイブリッド車)を発売するなど、早くから電動化モデルの開発・生産に着手し、バスやトラックのBEV(バッテリー式電気自動車)も生産。2021年には中国で約60万4000台のNEV(新エネルギー車=BEVやPHEV、燃料電池車の中国における総称)を販売し、2021年1~6月には前年同期の3倍を超える約64万台を販売。9年連続でNEV販売台数で首位に立っている。

【画像】2023年に導入されるBYDの3台

中国市場の外では、なかなか見ることができない中国車だが、BYDはすでにシンガポールやオーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、コスタリカ、コロンビアにも進出。ヨーロッパ市場も、2020年にノルウェーで販売を開始。つい先日もオランダ市場への参入を発表し、着々と市場を拡大している。

日本法人のビーワイディージャパンは、2005年に設立され、これまでにEVバスやEVフォークリフトなどを販売。2015年に京都市内の路線バスから導入したEVバスは、国内シェアの約7割に上っている。

乗用車も、2021年2月にミニバンタイプのBEVである「M3e」が2台、2022年3月に同じくミニバンタイプのBEVである「e6」というモデルが2台、京都の都タクシーに導入された実績があるが、いよいよ個人ユーザー向けのモデルで、日本市場に参入するのだ。

BYDが日本の乗用車市場への本格参入を決断した背景には、日本政府が2035年までに国内で販売される新車を100%電動車とするという方針を打ち出している一方で、BEVの販売シェアは約1%(2021年)にとどまっているという現状がある。またビーワイディージャパンによる調査で、「車両価格の高さ」や「充電設備の不足」、「航続距離への不安」、「選択肢の少なさ」などが、購入を妨げる要因となっていることがわかったという。

そこでBYDは、高い安全性と十分な航続距離を備えた、さまざまなタイプのBEVを、手ごろな価格で日本市場へ導入することを決定した。



■まずはCセグメントSUVから

今回、日本市場に導入予定であることがアナウンスされた電気自動車は、ミドルサイズe-SUVの「ATTO 3(アットスリー)」と、e-コンパクトの「DOLPHIN(ドルフィン)」、そしてハイエンドe-セダンの「SEAL(シール)」の3モデル。このうちアット3は、2023年1月に発売予定で、ドルフィンは2023年中頃、シールは2023年下半期の発売が予定されている。

アット3は、全長4455㎜×全幅1875㎜×全高1615㎜、ホイールベース2720㎜の、BEV専用プラットフォーム「e-プラットフォーム3.0」を採用したCセグメントの前輪駆動モデルで、電気モーターは150kW(204ps)/310Nmを発揮。フロア下にはBYDが独自開発したリン酸鉄リチウムイオンバッテリーである「ブレードバッテリー(刀のようなバー状の電池)」を58.56kWh搭載し、WLTCモードで485㎞の航続距離を実現している。

5人乗車と、通常時で440Lのラゲッジ容量を実現したアット3は、中国市場では2022年2月に発売され、すでにシンガポールやオーストラリアなどで好評を博している。手ごろなサイズは日本市場にもフィットしそうだ。

ドルフィンは、その車名の通り内外装にイルカをイメージさせるデザインを採用した個性的なコンパクトハッチバック。全長4290㎜×全幅1770㎜×全高1550㎜、ホイールベース2700㎜のBセグメントの前輪駆動モデルで、乗車定員は5人となっている。

スタンダードとハイグレードの2タイプがあり、スタンダードは電気モーターの出力が70kW(95PS)、バッテリー容量は44.9kWhで、航続距離は386kmとなっている。一方ハイグレードは、150kW(204ps)を発揮する電気モーターを搭載し、バッテリーは58.56kWhと大きく、航続距離は471㎞を実現。クラストップレベルの航続距離は、注目を集めそうだ。

シールは、2022年5月にデビューしたばかりのBYDの最新作。英語で「アザラシ」を意味する車名からもわかるように、ドルフィンと同様に海からインスピレーションを受けたデザインをまとった、個性的な上級セダンとなっている。

全長4800㎜×全幅1875㎜×全高1460㎜、ホイールベース2920㎜と大柄なボディの5人乗りセダンは、スタンダードとハイグレードの2タイプが用意される。スタンダードは230kW(312ps)の電気モーターをリヤに搭載した後輪駆動モデルで、ハイグレードは230kWのリヤモーターに加えて、フロントに160kW(217ps)の電気モーターを積んだ4WDモデルとなっている。バッテリー容量は、どちらも82.56kWhで、航続距離はWLTPモードで555㎞を実現した。

BYDは、中国市場ではPHEVも販売しているが、日本市場にはBEVのみを導入する予定。2025年を目処に、日本全国に100店舗の販売ネットワークを整備する計画である。まだ車両価格や具体的なサービス体制など未定の部分も多いが、日本のEV市場で存在感を発揮することができるのか、要注目である。

〈文=竹花寿実 写真=佐藤正巳〉