クルマの解体屋は中古部品の生産所…「品質に問題がある」は過去の話!?

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■新品価格の半額以下で買うこともできる

筆者の愛車は19年前の初代プリウス。16年前に、ある人が別の車を買ったからと、最初の車検受けた直後なのに無料でいただいた。なにぶんトラブルがあると厄介なハイブリッドなので点検や車検はずっとディーラー任せ。ただし修理や部品交換は、旧車雑誌の編集なんてしていたから、板金塗装以外はほぼ自分でこなす。何でも経年劣化は避けられないのだが、幸いにもこれまで行った部品交換は補助バッテリーやゴムを使った足まわりの部品などいくらでも安い部品を探せるものばかり。ところが今年、リモコンキーや運転席側ボタンでドアのロックや解除を行う電磁ロックの後ろ右ドアだけが壊れた。さすがに汎用部品はないので、トヨタに部品が出るかを聞くと「アッシー(付随する部品付き)で2万円前後だが古いので取り寄せ不可能。パーツリストからオーダーできるのはモーターを内蔵したアクチュエーター単体で、価格は1万円前後」とのこと。走行に直接かかわらない部品に1万円はちょっと痛い。

素直に1万円出すか、手を伸ばして手動でロックや解除を行うか悩み、ふと旧車雑誌の編集していたころを思い出した。「そうだ、中古部品なら何度も取材で行った解体屋さんに格安であるじゃないか」。早速隣町の解体屋さんに連絡してみると「20年くらい古いクルマの部品だとネットオークションに出すことが多いので、そこで見つけたらショップ登録してあるからどこの解体屋さんかわかると思います。もし同じグループで連絡つくようなら手配してみます」とのこと。そしてパソコンで探し続けたらあった、即決価格1500円。トヨタで扱ってないアッシーの状態。しかも電話した隣町の解体屋さんの出品物。だけどネットオークションに記載された送料はできれば払いたくないから取りに行きたい。その旨を連絡すると「わかりました。いったん出品取り消しにして送料着払いにしますから、それから落札してください」と伝えられた。新品で1万円の部品が、中古ながら動作保証付き1500円で買えた。


●白い樹脂ケースに覆われたドアのキャッチ部はここに付いている。非分解のケース内にあるモーターが壊れるとロック解除も施錠もできない


●ドアの内張りを外してボルトを5本外すと交換できる。書くと簡単だけど、内張りを外すときは隠しネジがないか、クリップ部を破損させないか心配し、キャッチ部品の脱着にはトルクスという六角星型ドライバーが必要。不慣れだと軽く1時間はかかるが、業者に依頼すると工賃は1万円前後必要となるから努力した



■解体屋さんは中古部品の生産所

最近の例として、20年くらい前のクルマの部品なら新品価格の1~2割程度で買えることもあるのを報告してみた。では、普通のユーザーがあまり直接やり取りすることがない自動車の解体屋さんとは、どんな所なのだろうか?

筆者が初めて解体屋さんなるところに足を踏み入れたのは、時代が昭和から平成になったころだから30年以上昔のこと。そのときはまだ自動車リサイクル法などという法律がなかったから、野原に廃車や事故車が4~5段に積まれた壁がある中で、何をどうしているのか皆目見当つかない未知の分野だった。

だから最初は挨拶がてらクルマのどんな部品を扱ってるのか聞きに行き、何度か通って顔見知りになると、クルマの壁の中でフォークリフトと重機を使って自動車を鉄クズやアルミ素材に戻す一連の作業が行われるのがわかった。使いたい部品があるときは伝えて、その場で価格交渉とかもできたが、主に訪ねてくるのは近くの自動車修理屋さん。法律で規制される以前は積まれた廃車を見てまわり、あのクルマの部品をいくらくらいで売ってくれとか、小規模ながら中古部品の供給源だったのだ。

それから15年ほど過ぎた2005年に、自動車解体業も都道府県知事の許認可を受けなければ営業できない「自動車リサイクル法」ができた。それまで廃車を買ってくるなり集めたあとは、業者ごとに異なる環境や手法で鉄スクラップやアルミ素材を出荷していたのだが、土の上では土壌汚染につながるので舗装された場所以外では一切の作業ができなくなり、さらに重量物を扱うことから落下など危険防止のため部外者の立ち入りができないよう鉄の壁を全面に築き、分解途中で排出されるオイルや冷却水などをそのまま下水などに排水しないように流れ出る水分を集める油水分離槽を設置、水以外は産業廃棄物業者に引き取ってもらわなければならなくなった。また作業現場には屋根が設置されるなど、安全面や自然環境の配慮などの投資は必須で、どれひとつでも設備が整ってなければ自動車解体業ができなくなってしまった。

こうして解体作業を仕事として行うための設備投資が強いられながら、さらに仕事として行うハードルが高くなったのが電子化だ。今では自動車を新車でも中古車でも購入すると必ず車検証同様に付属する「自動車リサイクル券」がある。これはどう使われるのかというと、廃車の不法投棄の防止や作業困難なエアバッグ処理、エアコンのフロンを大気に放出しないよう集めるなど、法に定められた作業が行われたことをリサイクル券の番号をパソコンなどを使って電子申告し、法律に則った適正処理化を見える化している。

地方自治体などから不法投棄された車両の撤去の依頼など、リサイクル券発行以前の車台番号など少数の例外はある。一カ月に何千台も処理する業者には面倒な手続きだが、リサイクル料金は新車時にユーザーが支払っった料金をプールして管理されていることから、申告すれば1台あたり数千円の処理料金が収入にもなる。


●まだまだ根強い人気の日産パオも再利用できる部品は外されるが、検索してみると現在パオの中古部品はなかった


●エンジンとミッションは組み合わされたまま降ろされ、それから熟練スタッフの手で分離される。もちろん事前に動作確認が行われて保証が付くのだが、板金、修理屋さんを対象にしていて個人宛には配送してもらえない。年式にもよるが、エンジンを分解して修理するより交換したほうが安いことも珍しくない



■新しい車種は安くないことも!?

リサイクル法以前の1980年代から九州を中心に、中古部品の在庫を共有しあう解体屋さんのネットワークは存在した。このネットワークは全国規模に発展したが、筆者の感覚だと2000年前後までは複数の解体屋さんの情報をファクシミリを使って紙でやり取りしていたから効率的とは呼べなかったようだ。それが2000年代に入ると常時接続のインターネットとパソコンを使って中古部品の電子化、データベース共有数量が一気に増えた。それまでは地元の板金、修理業者のための廃車処理だったのが、全国的に需要が見込まれる部品を取り外す生産という作業が工程に加わった。ネットワーク会社も群雄割拠した時代があったが、吸収合併のあとは、全国どの解体屋さんも中古部品の品質管理レベルがほぼ同様なので安心して購入できる。

では、新品より安い中古部品は品質が劣るのかというと…もともと買うのが板金、修理屋さんらプロなので保証付きの部品がほとんどだ。プロを裏切るような部品を生産することは、全国十数件ほどだが解体屋さんを取材してきた筆者は考えられないと断言できる。今回買ったドア内部の部品なら交換後は見えなくなるので、あとは正常動作すればまったく問題ない。

しかしボンネットやドア、バンパーなど外装部品は色の名称が同じでも、変色具合が微妙に違ったりするのでポン付け(そのまま交換)する場合は慎重に選びたい。ちなみに外装部品など大型パーツは個人宅への配送は不可。交換を依頼する板金、修理屋さんなど事業者を通すしかないし、逆に中古部品の利用を提案することもできる。任意保険の会社によっては、リサイクル部品と称する中古部品を使う特約もあるから、保険料金の節約にもなる。

部品の有無をネットで探すこともできるのが今の時代のメリットだ。専用ホームページ上で車検証を片手にアクセスし、部品検索だけならメーカー、車名、型式、タイプと選ぶと中古部品の写真と価格を見ることができる。もし10年前後経た古いクルマなら、内装外装・電気部品を問わずほとんど新品の半額以下で購入できる可能性が高い。だが現行車やミニバンなど一部人気車種の中古部品は日本全国どこの板金、修理屋さんも求めてるいるので入手困難、買えてもあまり安くないこともある。また、意外な人気部品のひとつとして、フロントガラスを求める人は少なくない。石が当たった小さなヒビ割れでも車検は通らないけど新品は高いし、社外新品で安いガラスは変色のおそれがあるので、状態がよければ新品より確実に安い中古の純正ガラスを求めるからだ。

専用ホームページ
http://www.recojapan.com/


●一部の解体屋さんはオルタネーターやクーラーコンプレッサーの性能をテストする機器を備えている。テスト結果が数値で出るので買うときも安心だ


●抱えられる程度の小さな箱に納まるなら個人宅に送ることができるが、エンジンやミッションなど重量物、大きな外装部品などは運送会社が事業者宛しか扱わないのが昨今の物流事情



■知っていて損はない解体屋さん

今回、撮影協力してもらったのは、栃木県足利市にあるエコアール。ここは筆者が13年前に偶然ネットで見つけたところ。そして大手10件以上の解体屋さんを見てきた筆者が驚いたのは、その規模だった。事務や現場含めて20~30人を超えるとかなり大きいと思っていたが、ここは従業員100人以上がつねに勤務している。

なにより高速道路とガソリン代を使っても行きたいと思った理由は、大手自動車用品販売チェーン店に負けない設備が整ったピットを備えた「エコアールDS館」というショップを併設していること。関東で見聞きした限り、こうした直営店を経営している解体屋さんは埼玉の昭和メタルくらいしか筆者は知らない。ちなみに扱い台数は多いときで月に3000台以上、部品在庫数も3万点以上ある。中古部品だけなら、ヤフオクでもリサイクル部品グループネットワークからでも買うことができるが、それでも実店舗に行って実際に見たり触れたりするのは別の楽しみが増えるし安心だ。

なぜ修理するときに解体屋さんを紹介するのか。食べ物でいえば野菜をスーパーから買うのと、農家から直接買う違いみたいなものがあるからだ。ある程度通って、それこそスタッフと顔見知りになれば、いろいろ融通利かせてもらえることが少なくない。どんな融通かは、いちがいには言えないのだが、たとえばなかなか入手しづらい車種の部品とか流用できる部品の情報とか、知っていて損はないことを教えてくれることもある。

規模や扱い部品量が多いので、北海道から関西までだが解体屋さんを取材しに行く先々で「エコアールってどんな感じ?」と同業者も興味津々。タイヤやホイール、その他の電装部品などはDS館を物色していれば楽しいし、中古部品なら車検証を持って本社建物の「フロント」と呼ばれるスタッフに相談してみればいい。一度は訪ねる価値があると断言しておこう。


エコアール
〒326-0324 栃木県足利市久保田町838-1
TEL 0284-70-0780
FAX 0284-72-1711
Email:info@eco-r.jp
9:00~17:00
定休日 第二・四・五の土曜日と日曜と祝日
http://www.eco-r.jp/


●本社に隣接するDS館には、主に中古のタイヤやホイールなどが多数展示販売されている。指定工場でもあるからタイヤ交換だけでなく、修理や外装部品の交換も行えるし、何より個人宅には配送不可能な、重くて大型部品の交換も依頼できるのがうれしい

エコアールDS館
〒326-0324 栃木県足利市久保田町880-1
TEL 0120-27-3440
FAX 0284-70-0199
平日9:00~19:00(作業受付18:30まで)
土日祭日9:00~18:00(作業受付17:30まで)
定休日 月曜日
http://ds-eco-r.jp/