仲村「私は自由にやりたいというか、意見を言わないタイプでした。思うことがあったとしても、意見することを避けてきました。でも、新公演のレッスンでは先輩も同期も後輩も意見を出してくれていました。自分も何か言わないといけないと思っていました。何か言うのは勇気が必要だけど、このレッスン中、どこかのタイミングで勇気を出さないといけないと決心していました。みんなが本音でぶつかってくれるなら、こっちも本音でぶつからないと。いい公演を作るためには自分も変わらないといけなかったんです。あの瞬間は、つい口から出ちゃったというのが正解かもしれません。でも、チームSのみんなはちゃんと受け止めてくれるから、言ってよかったです。今までの私はみんなに甘えていました」

 本番を前にした最後のレッスン。「めちゃめちゃ伸びてる」と先生に褒められた5人のうちに仲村は入った。別の練習では「出来る組」に入れられた。選抜に入ったことがない仲村和泉が、である。自分のなかにあった壁が破壊されてから、レッスン場に向かう恐怖がなくなっていたし、表現する楽しさを感じるようにすらなっていた。過呼吸を起こすこともなくなった。

仲村「褒められたことは素直に嬉しかったです。でも、先生が求めているのはもっと上のレベル。課題はたくさんあります」

 5月28日。チームSは新オリジナル公演を迎えた。多くのメンバーは「このまま本番を迎えて大丈夫なのだろうか?」と不安を抱えていた。仲村は「早くステージに立ちたい」と考えていた。自信が不安を上回っていた。

 本番10分前、緊張感でいっぱいの楽屋に牧野アンナが現れた。数人の名を挙げて、これまでの伸びを褒めた。最後に自信を与えるために。

仲村「先生は、『最初のレッスンで目に色がないと指摘して、心が折れたように泣いていた仲村が、今では成長してチームSトップクラスの表現力を身につけた』と言ってくださいました。そう言われて、嬉しかったです。でも、本番10分前に言うのはズルいですよね! みんな泣いて、目が真っ赤でした」

 10分後、本番が始まった。

仲村「本当に楽しかったです。ファンの皆さんにいいものを届けたいと思ったし、ゲネプロや通しリハーサルと違って、ファンの皆さんがそこにいてくれたから純粋に楽しめました」

 その日は昼、夜と2回公演があった。夜の部が終わると、メンバーに手紙が配られた。牧野アンナからの直筆メッセージだった。

仲村「劇場の中でこっそり読みました。表現力のことを褒めてくださっていました。先生の字ってめちゃめちゃきれいなんです。心に沁みました。何回も何回も読み直しました。今はバッグに入れて持ち歩いています。お守りみたいにして」

 初日の公演が終わると、同期の井上瑠夏と食事に出かけた。軽い打ち上げのようなものだった。

仲村「2人とも牛丼が好きなんです。初日が終わったら行こうって約束していて、久しぶりにハイカロリーな物を食べました。チーズ牛丼の並に豚汁とおしんことねぎ玉をつけて(笑)。『このレッスン期間、大変だったけど乗り越えたね』ってしみじみ話しました」

 初日は終わった。でも、これからもアイドル人生は続いていく。

仲村「レッスンを振り返ると、自分が探していたものが見つかった期間だったと思います。この世界、すぐに自分の武器が見つかる人とそうじゃない人がいます。私はすぐに見つかりませんでした。でも、今は表現力が武器だと言えるようになりました。さらに磨いていきたいです」

 NMB48のセレクションに落ちて6年。仲村和泉は名古屋でアイドルをやるという世界線を生きている。来年3月には23歳になる。

仲村「年齢のことは考えます。結婚した同級生もいますし。卒業を考えたこともあったけど、まだやり残したことがあります。やっぱり選抜に入りたいです。このグループに入ったからには実現させたいし、目指さないといけない場所だから。険しい道のりだとは思うけど、新公演で私のことを見つけてもらえたら嬉しいですね」

 そう語る仲村の目には色が宿っていた。

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