開業から五十数年、長く低迷してきた香川のドライブイン「大川オアシス」が、いま突然の人気に沸いています。海を一望できる眺望だけでなく、夢の世界のようにキラキラした純喫茶メニューが、SNS映え重視の現代で“見つかった“のです。

バス会社のドライブインがSNSで“見つかる”

 戦後日本が高度成長を遂げる中、モータリゼーションと呼ばれる自家用車の普及とともに、幹線道路沿いには広大な駐車場とゆったりした客席を備えた「ドライブイン」が昭和30〜40年代に数多く建設されました。その後、コンビニエンスストアの増加や道の駅の整備、あるいは道路整備に伴う旧道化などの社会変化もあって激減、今ではその存在も貴重なものとなりつつあります。

 その中で2022年現在、香川県さぬき市にあるドライブイン「大川オアシス」に多くの人々が訪れています。コロナ禍前と比較しても150〜200%の売り上げがあるとか。


海を望む高台にある大川オアシス(宮武和多哉撮影)。

 国道11号沿いの高台にあるこのドライブインは、座席から一望できる瀬戸内海の景色がウリ。それだけでなく、アメリカ・シカゴの「ダイナー」を参考にしたというレトロかつモダンな建物も魅力です。天窓から館内に太陽光が降り注ぎ、ステンドグラスに彩られた螺旋階段は夢の世界に続くかのような美しさです。併設のカフェで出されるクリームソーダやパフェ、クラブハウスサンドなどの純喫茶メニューは、どれを頼んでも抜群にSNS映えする美しさで、今風に言うと「エモい」以外の言葉が見当たりません。

 この大川オアシスの存在は、「怪しからんくらい絶景だった!」という来訪者の“映えツイート”がきっかけで、2020年頃から知られるようになってきました。その映え写真に海外の日本好きの人々も注目。五十年以上変わらず営業していたドライブインが、SNS映えが重視される時代に突然“見つかった”と言えるでしょう。

 しかし大川オアシスは、前述のツイートでも「廃墟のよう」と称されるほど、長らく厳しい時期が続いていました。ドライブインはクルマ社会の象徴でもありますが、この場所はバス会社によって設立され、長らく路線バスや長距離バスの拠点としても機能していたのです。

大川オアシスの親「大川バス」 高速道開通→衰退をかろうじて凌ぐ

 香川県東部でバス事業を展開する大川バス(大川自動車)が大川オアシスを開業した1964(昭和39)年は、日本中が東京オリンピックの話題で持ち切りとなっていた頃。開業直後には、2車線に拡幅されたばかりの国道11号を、聖火が通過したといいます。

 大川オアシスは、その親会社の影響もあり、バスの要衝としての役割も果たしていました。香川〜徳島を移動する際にはちょうど中間地点でもあり、当時運行されていた「高徳特急バス」(高松駅前〜徳島駅前)や観光バスは、ここを休憩地点として活用。三本松(東かがわ市)方面に向かう通常の路線バスも1時間に1、2本ほど発着していました。

 もちろんマイカー派にも重宝され、地元の方いわく、デートなどのちょっとしたドライブで「とりあえず大川オアシスで折り返し」という形がよくとられていたとのこと。この場所はいろんな方々にとって、まさに「オアシス」だったと言えるでしょう。


大川オアシス、カフェスペースのオープンキッチン(宮武和多哉撮影)。

 しかし2003(平成15)年には高松自動車道が全通し、渋滞が多発していた国道11号は一転して閑散とすることに。さらに、ここを発着していた路線バスも2008(平成20)年までに大川バスの全路線が撤退し、高徳特急バスも「高徳エクスプレス」と名前を変えて高速道路経由に。周辺のドライブインや喫茶店は次々と閉業するなか、さらに至近距離に道の駅が開業したことで、大川オアシスの売上は半減してしまいます。

 それでも、広い宴会場を擁していたため地元需要を掴んで生き残っていたものの、2020年からのコロナ禍でそれも途絶え、長らく経営を続けてきた店長さえ「もう駄目だ」と覚悟を決めていたそうです。

「奇跡の発見」はスタッフの努力の賜物?

 そうしたなか、前出の通り大川オアシスはコロナ禍中で“SNS映えするドライブインとして知られるようになり、賑わいを取り戻しました。一見奇跡のようですが、その陰には、スタッフの長年の努力が見て取れます。

 来客が減少する中でも大川オアシスの窓やステンドグラスはピカピカに磨かれ、建物は古びていたものの、状態を維持していました。SNS映えするソーダのグラスには曇りひとつなく、手間のかかるカフェメニューが提供されています。いまも厨房ではお年を召されたスタッフの方々が、慣れた手つきでサンドウィッチやパフェを作り、サイフォンでコーヒーを淹れています。細部に至るまで「そのままの状態」を維持してきたからこそ、SNSでひょっこり“見つかる”という幸運を掴んだと言えるでしょう。

実は四国は「ドライブイン天国」なのだ!

 実は他にも四国では、高知県仁淀川町「ドライブイン引地橋」、徳島県三好市「レストハウスウエノ」、愛媛県西条市「周越ドライブイン」などが今も幹線道路沿いで営業を続けています。狭隘な立地のためライバル業態が出店できなかったり、名の知れた名物メニューを擁していたりと、それぞれオンリーワンとも言える理由で生き残っているのです。


徳島県の「コインスナック御所24」。レトロな自販機がズラリ(宮武和多哉撮影)。

 また、自動販売機による「オートレストラン」も健在です。徳島県阿波市「コインスナック御所24」でボンカレー(ごはん付き)の自動販売機がまだ稼働。しかも昭和40年台後半から長くイメージキャラクターを務めた笑福亭仁鶴さんの電光パネルがそのまま残り、2021年に仁鶴さんが亡くなった後は訪問者が絶えなかったといいます。自動販売機を活用した業態は、もともとソーシャルディスタンスを保ったまま利用できるとあって、コロナ禍の中でも利用者があったそうです。

 高知市では、ラーメン、天ぷらそば、トーストサンド、寿司盛り合わせの自販機が揃う「コインスナックプラザ」が、JR高知駅から1km圏内、近辺にコンビニ・スーパー多数という立地にも関わらず営業を続けています。これら四国のドライブインやオートレストランは、逆境のなかにあって、その特色を保ち続けています。