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客からの暴言や暴力などを意味する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍でもっとも被害が大きかった業種のひとつにドラッグストア業界がある。

「2020年2月末ごろからドラッグストアの店頭からマスクがなくなった。店にマスクが入荷すると、お客さんに取り囲まれる状況。品切れになると、従業員が『お前のマスクはどこのマスクだ、それを売れ』と理不尽なことをよく言われた」

こう振り返るのは、流通などの労働組合でつくるUAゼンセンの西村正光さん。UAゼンセンが2020年に実施した組合員アンケートによると、直近2年でカスハラ被害にあったドラッグストアの労働者は63.9%。このうち約7割にコロナを理由とする迷惑行為があったという。

しかし、店側がカスハラに抗議しても、客から「逆ギレ」されるだけかもしれない。厚労省にはドラッグストアを経営する企業から次のような相談が届いたという。同省ハラスメント防止対策室長の中込左和さんが語る。

「お店が独自に『カスハラは許しません』というポスターを掲載したら、お客さまが『なんだ、クレーマー呼ばわりするのか』と、かえって激昂してしまったそうなんです」

●魔法の言葉「役所の指示です」

コロナ禍では各省庁が店舗向けのポスターをつくった。たとえば、経産省などによる「買物をするときのお願い」というポスターには、「従業員の方々も頑張っておりますので、協力して買物をしましょう」という文言がある。

「(先ほどのドラッグストアも)『このポスターは役所から掲示するように言われているのでここに掲示しています』ということで掲示すると、『ああそうだね』『大変だね』とお客さまからの理解が得られたそうです」(中込さん)

当事者が言うと反発を招くが、「お上」からならカドが立たないというわけだ。

厚労省も2022年2月、企業向けのカスハラ対策マニュアルや啓発ポスターをつくった。

「今年度はマニュアルを周知して、『お客さまは神さまだから絶対』のような指示を出す上司がいたら、違いますよ、カスハラ対策をやっていただく必要があるんですよ、と事業主さんの啓発から一歩ずつ進めていきたい」(中込さん)

発言はいずれも5月23日の交通運輸政策研究集会でおこなわれた、カスハラについてのパネルディスカッションでのもの。