作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの音楽番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00〜19:55)。5月29日(日)の放送は「村上RADIO 〜ラバー・ソウルの包み方〜」をお届けしました。

2019年6月16日(日)に放送した、ビートルズの初期のヒットソングのカバー楽曲を取りそろえた特集「The Beatle Night」に続くビートルズ特集の第2弾。今回は、ビートルズの転換点の1つとなったアルバム『ラバー・ソウル』(英国盤)を、ほぼ収録順に村上DJが選曲&解説。発売当時、16歳だったという村上さんが、自身の小説のタイトルにも使用した「ドライブ・マイ・カー」や「ノルウェイの森」が収録されるアルバムを、多彩なカバー楽曲で紹介しました。

この記事では、その中から後半3曲、“今日の言葉”についてお話された概要を紹介します。



◆「Wait」Ben Kweller Featuring Albert Hammond Jr.

次は『ラバー・ソウル』12曲目の「Wait」。シンガーソングライターのベン・クウェラーがアルバート・ハモンドJr.のギターをフィーチャーして共に歌います。

ところでビートルズのどこがすごいかっていうと、やはり1つのバンドに天才が1人じゃなく、2人揃っていたところですよね。ジョンとポールです。2人とも作詞作曲ができて、それも同じくらいクオリティの高い歌を次々にさらっと作ってしまう。そんなバンドってまずないですよね。

おまけにその2人が――最後のほうはちょっとおかしくなっちゃうけど――協力しあって、お互いを高めあいながら2人で音楽をこしらえていきます。もちろんライバル心みたいなのも少しはあるんだけど、それを良い意味でのモチベーションに変えていきます。

どうしてそんなことが起こったのか? 

どうしてリヴァプールのマージーサイドみたいな地味な地区で、2人の天才がたまたま巡り会うことになったのか? 僕にはわかりません。惑星直列というか、奇跡という以外にないですよね。

そして、それが奇跡であることがだんだん明らかになってきたのが、この『ラバー・ソウル』というアルバムあたりからなんです。

◆「If I Needed Someone」Beat-Lele

13曲目「If I Needed Someone」。

この曲はジョージ・ハリスンが作った曲です。この頃からジョージも本格的に作曲に取り組むようになります。でもジョンとポールは自分たちが曲を作るのに夢中で、なかなかジョージは曲を採用してもらえませんでした。これも良い曲なんだけど、やっぱりどこか地味ですよね。「Something」みたいな胸にぐっと来る曲が生まれるまでには、今少し時間がかかります。

この曲を演奏する「ビートレレ」というバンドは、ハワイのローカルバンドで、主にビートルズのカバーをレパートリーとしているようですが、変わっているのはパーカッション以外の楽器がすべてウクレレであることです。バリトン・ウクレレ、テナー・ウクレレ、8弦ウクレレなんかを使っています。そんないろんな種類のウクレレがあるんですね。これは、ハワイのCD屋さんで見つけて買ってきました。

このバンドは、リヴァプールまで遠征して、無名時代のビートルズが出演していた有名な「キャヴァーン・クラブ」で演奏してきたそうです。本格的ですよね。

<収録中のつぶやき>

8弦ウクレレなんていうのがあるんだね。12弦ギターのウクレレ版みたいなものかな。リヴァプールの人たちもびっくりしただろうね、ハワイからこんなウクレレを持って、4人でやってきて(笑)。

◆Run For Your Life

最後の曲、「Run for Your Life」は時間がないのでパスします。

<クロージング曲>

「In My Life」Spyro Gyra


この『ラバー・ソウル』というアルバムが出るまで、ビートルズはただの流行アイドル・バンドだと一般的に思われていました。今はすごく人気があるけど、そのうちに消えていくだろうと。しかし、このアルバムが出たあたりから空気が少し変わってきました。

「ひょっとしてこいつら、本当にすごいんじゃないか」と人々は考え始めたんです。ビートルズにとっても、ロック音楽にとっても、それはひとつの大きな転換地点となりました。

今日のクロージングの音楽は、スパイロ・ジャイラの演奏する「In My Life」です。

スパイロ・ジャイラ、懐かしいですね。日本に来たとき聴きに行きました。1982年の斑尾(まだらお)でのジャズ・フェスでした。リーダーのサックス奏者、ジェイ・ベッケンスタインが夜のジャム・セッションで乗りまくっていて、楽しかったです。

さて、今日の言葉は作家スコット・フィッツジェラルドの言葉です。

これは一人娘のスコッティーに宛てた手紙の中に書かれたものです。娘が学校でうまく作文が書けなくて困っていたときに、お父さんとして与えたアドバイスです。

「ほかの人たちと違うことを語りたかったら、ほかの人たちとは違う言葉で語りなさい」

僕は小説を書き始めた頃にこの言葉に巡り会い、それ以来これを座右の銘として小説を書き続けてきました。本当にそのとおりなんです。ほかの人たちと違うことを語りたかったら、ほかの人たちとは違う言葉で語らなくてはなりません。

とはいっても、なにも突飛な言葉である必要はありません。ほんのちょっとだけ、普通と違えばいいんです。でもその「ほんのちょっとの違い」を見つけるのはそう簡単なことじゃありません。でも訓練すればできるようになります。がんばりましょう。

考えてみたら、ビートルズの音楽だって「ほかの人たちとは違う言葉」で僕らに語りかけていたんですね。

今日はこれまで。また来月。



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聴取期限:2022年6月6日(月)AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:村上RADIO 〜ラバー・ソウルの包み方〜

放送日時:5月29日(日)19:00〜19:55

パーソナリティ:村上春樹

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/