八村塁の弱点だった3Pシュートが劇的に進歩。2歳年上の先輩のアドバイスは「考えるのをやめてアグレッシブに」
八村塁(ワシントン・ウィザーズ)はトップから打った3ポイントシュートがネットに吸い込まれるのを確認すると、舌を大きくペロリと出し、両手を叩いて喜びを表現した。
2月17日(現地時間)のブルックリン・ネッツ戦、試合終盤でのこと。個人的な理由でシーズン前半を欠場した八村にとって復帰18試合目となるこの試合で、今季初めて競った試合の第4クォーターにフル出場した。
そして、第4クォーターだけで7本中6本のフィールドゴールを成功させて13得点。試合を通してチーム最多の20得点をあげる活躍で、ウィザーズの勝利に貢献した。試合後に舌を出した場面について聞かれると、「楽しんでできました」と笑顔を見せた。
3Pシュートを決めたあと、舌を出して喜ぶ八村塁
ウィザーズは今シーズンからヘッドコーチ(HC)が新しくなり、オフシーズンのトレードなどで新しい選手たちも加わった。
シーズン途中から合流した八村にとって、ここまでは自分のリズムを取り戻すとともに、チームの新しいシステムに慣れて、新しいチームメイトとのケミストリーを築くことを優先していた。新HCのウェス・アンセルド・ジュニアも、いきなり八村に過度な期待をすることなく、少しずつチームに馴染めるように控えから起用し、出場時間も徐々に増やしていた。
八村が少しずつ調子をあげていく一方で、チームではシーズンに影響を与える出来事がふたつあった。
ひとつはチームのエース、ブラッドリー・ビールが1月末に手首の故障を負い、今レギュラーシーズン残り全試合を欠場となったこと。さらに2月10日には、チームメイトのうちベテラン4選手がトレードになったことだ。
実は、トレード前のウィザーズはローテーション入りするレベルの選手の数が過剰気味で、出場時間を分け合わなくてはいけないなか、個々の選手にとってもチームとしてもリズムを作りづらい状態だった。欠場者が多かったシーズン序盤はまだしも、昨シーズンのスターターだった八村やトーマス・ブライアントが戻ってきたことで、チームのバランスが崩れていたのだ。
3P成功率は突出した高確率トレードは、そんなチームのバランスを修正するためにも必要なことだった。ベテランの4選手を出して3人獲得し、そのうちのひとりは20歳の育成期の選手だったことでロスターが整理された。
ビールの離脱とトレードの結果、八村ら若手選手たちにとっては出場時間が増え、役割の面でもより大きな機会が与えられることになった。
そんななかでの、八村の活躍だった。第4クォーターの13点は速攻からのダンクが2本、リバウンドからのティップインが1本、チームメイトとのピック&ロールのコンビプレーからのダンクが2本、そして冒頭の3ポイントシュートと、八村らしい幅広い攻撃パターンを見せたことも注目に値する。
試合後、アンセルドHCは八村の第4クォーターでの活躍について、「これまで短時間での輝きを見ることはあったが、こうやって長い時間の活躍を見ることができたのは明るい材料。自信をもってシュートを打ち、自信をもってプレーし、チームメイトたちも彼のことを信頼していた。彼にとってまた一歩、前進となった試合だった」と評価した。
特に好調なのが、3ポイントシュートだ。この試合でも2本打って2本成功の成功率100%。シーズン通算では39本打ち、18本成功させ、46.2%の高い成功率をあげている。本数が少ないためリーグランキングに名前は出てこないが、同じペースでシーズン全82試合に出場していれば、上位を争うことができるだけの確率だ。
ゴンザガ大時代やNBA1年目には、八村が外にいるとマークマンが安心して下がって守っていたことを考えると、大きな進歩だ。八村も「ここ(ウィザーズ)に来て以来、ずっと練習してきたおかげで上達し、自分でも自信をもって3ポイントを打てるようになりました」と胸を張った。
もっともその一方で、自分にとって3ポイントシュートがすべてではないとも語る。
「3ポイントは自分のゲームの一部であって、一番の武器というわけではない。もちろん3ポイントがあればドライブも簡単になり、リムをアタックすることもできるようになりますけれど......」
つまり、3ポイントシュートは得意とするプレーをするための入口に過ぎない、というわけだ。
八村にとって最大の課題とは?以前から攻守でオールラウンドに活躍し、勝利に貢献する選手を目指している八村にとって、新チームメイトにいいお手本の選手がいる。昨オフにラッセル・ウェストブルックとのトレードで加入したカイル・クーズマだ。
NBA5シーズン目のクーズマは、八村の2歳年上の26歳。身長もほぼ同じ、攻守で複数のポジションができるところも同じ。2シーズン前にはロサンゼルス・レイカーズの優勝に貢献するなど経験も豊富な彼は、参考になるところが多いと八村も語る。
「僕よりも何年か(長く)NBAでプレーしているので、先輩として僕もいろいろアドバイスとかをもらっています。彼も1番から5番まで守れたり、オフェンスもできる選手なので、彼のドライブとかそういうところはすごく勉強になっています」
そのクーズマは八村のことを、「向上心が強く、アドバイスや批判によく耳を傾けている。本当にうまくなりたいんだということがわかる」と評価する。
クーズマが八村にアドバイスするのは、「考えるのをやめてアグレッシブにいくこと」だという。昨シーズン、ウェストブルックからも何度も言われてきたことで、八村にとっても最大の課題だ。
そしてそのためのカギは、自信と、チームとしてのエナジー。ネッツ戦でもチームとしてボールをシェアし、いい流れがあったことでいいリズムから攻撃ができたと語る。
オールスターウィークエンドが明けると、残りレギュラーシーズンは24試合。現在ウィザーズはイースタン・カンファレンス11位で、プレーオフ最後の2枠を争うプレーイン・トーナメントの圏外にいるが、上位チームとの差はわずか。ビールがいないからといって、プレーオフをあきらめるつもりはない。
「まだプレーオフに進むチャンスは十分にあるので、プレーオフに向けてプッシュしたいと思います」