ジュニアゴルファー時代の三ヶ島かな【写真:本人提供】

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インタビュー後編 昨年国内ツアーVも「まだ1勝」

 女子ゴルファーの三ヶ島かな(ランテック)は、昨季の国内ツアー最終戦で初優勝を飾った。2016年のプロ1年目からコンスタントに成績は残しているが、一時は「職場を失う」と不安になっていた。三ヶ島へのインタビュー「後編」では、危機感を抱いた理由、今季開幕戦ダイキンオーキッドレディス(3月3〜6日、沖縄・琉球GC)を前にした思い、長く活躍するために大事にしていることを聞いた。(取材・文=柳田 通斉)

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 三ヶ島は、昨季最終戦のメジャー大会・JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでツアー初優勝を飾った。重圧のかかる最終ラウンドも安定したショット、勝負強いパットで2位小祝さくらに4打差をつけた。だが、本人の思いは「まだ1勝」だ。

「もっと何度も勝っていきたいです。今季の目標は複数回優勝。例年、スロースターターではありますが、早い段階からチャンスをつかみたいです」

 一方で、メジャー大会制覇に伴う3年シード獲得は大きいと考えている。プロになって2度経験した「試合に出られなくなるかも」という怖さを3年間は感じなくていいからだ。

 三ヶ島は高校卒業後、プロテストを受験した。小、中、高とレベルの高い九州大会を勝ち抜き、全国大会でも好成績を残したことで、「テストは一発合格で、ステップ・アップ・ツアーに出てQT(ツアー予選会)の受験料を稼ぐ。そして、最終QTを上位で通過し、翌年からツアー出場」と考えていた。だが、最終プロテストは29位で不合格。いきなり、プランが崩れた。

「目の前が真っ暗になりました。ステップ・アップ・ツアーには出られないし、QTに出るためだけでなく、生きるためのお金も試合以外で稼ぐことになりました。なので、地元(福岡県内の)ゴルフ場でキャディーやポーターをして、終わった後にラウンドや練習をさせてもらう日々になりました」

極限状態で掴んだプロテスト合格「ご飯が喉を通らず…」

 それでも、当時はプロテスト不合格者でも受験できたQTを最終5位で突破。2016年シーズンはツアー開幕戦から出場できたが、このテスト不合格で2年後のシーズン中に苦しむことになった。18年、JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)が「原則として、19年からはQT受験資格をプロテスト合格者らに付与される『JLPGA正会員』に限る」と規定を改正したからだ。

 ツアーに出ている三ヶ島らの場合、前年に続いて賞金ランク50位以内に入ってシード権を獲得するか、ツアー優勝すれば「正会員」にはなれる改正もあったが、18年前半の三ヶ島は成績が振るわなかった。

「開幕から調子が上がらないままに、最終プロテストを迎えることになりました。それに2日前までツアーの試合に出ていて、翌日の月曜日に全く知らないコースを初めて練習でラウンドしました。真夏で熱中症気味の中、幡野夏生ちゃん、篠崎愛ちゃんと3人で回って、どっちに打てばいいかを教えてもらいました」

 三ヶ島は18ホールを回って、さらに不安になっていた。コース設定が想像以上に優しかったからだ。

「スコアが出る設定になっていて、『こんなに緩いとまずい』と思いました。実際にテストが始まっても毎日、前半のハーフを29や28で回る選手が出ていました。なので、最低でもアンダーを出しておかないといけない状況。それに私はシード選手で、テスト前から『もう1枠は埋まっているね』と変なプレッシャーをかけられていましたので」

 第3Rを終えて、三ヶ島は通算8アンダーで13位タイ。プラス2打で合格圏を外れる状況で最終Rを迎えた。調子は良くなかったが、66をマークして通算14アンダーの7位でフィニッシュ。念願の合格を勝ち取った。

「本当に苦しかったです。ご飯が喉を通らずにオロナミンCを飲んでしのぎました。シード選手なのに、テストを受けないといけない辛さと『情けない』という思いもありました。ようやく合格して、涙が止まりませんでした。今は1度落ちて良かったと思えますが、当時はとても辛かったです。一緒に練習ラウンドをしてくれた2人は恩人です」

実力者揃いの女子ゴルフ界、大切なのは「楽しいと思い続けること」

 同年の合格者には、前年のプロテストに落ちた「黄金世代」の渋野日向子、原英莉花、初受験の稲見萌寧も名を連ねた。3人は19年シーズンから勝利を重ね、昨季終了時までに渋野が6勝と全英女子オープン優勝、原が4勝、稲見が10勝を飾っている。

 翌19年テストに合格したプラチナ世代の古江彩佳は6勝、西村優菜は4勝、吉田優利は2勝、その1学年下の笹生優花は2勝と全米女子オープン優勝だ。一方の三ヶ島は18年以降もシード権を守っていたが、優勝には届かず。昨年の初優勝会見の際は、「若い子がうまいし、無理なのかなと思うこともありました」と打ち明けた。

 だが、その壁は突破できた。20年から契約した青木翔コーチの勧めで、持ち球をドローからフェードにチェンジ。ショットの安定感がさらに高まった。

「青木さんとは『まずは、予選落ちを減らそう』ということになりました。30位以内で通過したらトップ10に入れる可能性も高くなる。実際に全体的な底上げはできましたし、やっていることは間違いないという手応えはありました」

 しかし、青木コーチとの契約は昨季限りで終了。今季はコーチを付けずにプレーすることになった。

「青木さんは、『ゼロをイチにできたら卒業』という感じの人で、私の場合は勝つことでした。正直、2年見てもらったので、離れて不安はあります。ただ、同じ福岡県出身で話しやすいですし、『いつでも連絡してきて』と言われています。なので、困った時は頼ろうと思います」

 ただ、強力な年下選手、同世代、年上選手としのぎを削るシーズンを戦い抜くには、タフな心身が求められる。優勝経験者でも、出場機会を失いかねない戦国時代。25歳の三ヶ島は言った。

「やっぱり、長くやっていくには気持ちが大事だと思います。ゴルフを『楽しい』と思い続け、向上心を持ち続けることです。そういう気持ちがないと体力もつかないわけで、私の場合は『1勝したからもっと勝ちたい』という思いで、このオフも練習とトレーニングを重ねてきました」

 2月に入り、初優勝の地でもある宮崎で合宿をし、状態とモチベーションを高めてきた。あとはプレーするのみ。まずは、年をまたいでの2連勝を目指し、ダイキンオーキッドレディスを勝ちにいく。

■三ヶ島かな(みかしま・かな)

 1996年7月13日、福岡県須恵町生まれ。沖学園高卒。10歳でゴルフを始め、約1年後には全国小学生ゴルフ大会女子の部24位。中学、高校も全国レベルで活躍し、国内女子ツアーの最終予選(QT)を5位で突破して16年からレギュラーツアーに参戦。17年には賞金ランク41位でシード選手となり、18年7月にプロテスト合格。得意クラブは7番アイアン。20-21年統合の昨季は、獲得賞金8906万6929円で賞金ランク18位。血液型AB。

(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)