「もう満腹だったけれど、お皿に余っていた1切れのピザを食べてしまった」「自分の分だけ食べて切り上げようと思っていたが、つい他の人が残した料理も食べてしまった」という経験がある人は多いはず。一体なぜ人は満腹なのに食べ続けてしまうのか、どうすれば食べ過ぎを防ぐことができるのかについて、西オーストラリア大学人間科学部で上級講師を務めるアマンダ・サリス氏が解説しています。

Step away from the table - why you keep eating when you're full

https://theconversation.com/step-away-from-the-table-why-you-keep-eating-when-youre-full-170649

サリス氏は満腹なのに食べ続けてしまう問題について考える上で、脳が発する「満腹信号」について探ることが重要だと指摘。本来、人間の脳は必要以上に食べ過ぎてしまわないように、「十分な栄養素を摂取した」と判断すると満腹信号を送ってそれ以上食べないように通知します。

脳が「満腹だ」と感じる手がかりには、食べ物によって胃や腸が伸びると送られるストレッチ信号、食物の栄養素に反応して分泌されるコレシストキニンやペプチド YYなどの消化管ホルモン、血管を通って脳に到達する消化した食物の栄養素、脂肪組織によって放出されるレプチンなどがあります。

脳はこれらの情報を「満腹アルゴリズム」に取り入れて、ある時点で「もう食べるのはやめろ」という信号を送ります。そのため、栄養素が足りない場合ば満腹でも食べ続けることがありますが、残念ながら栄養素は十分に摂取できているにもかかわらず、満腹になっても食べるのがやめられない場合もあるとのこと。



サリス氏は人々の満腹アルゴリズムが十分に働かない理由について、「体の満腹信号は無視しやすいのです。特に、多様でおいしい食べ物に誘惑されていたり、食べることへの社会的期待を感じていたりする場合は食べ過ぎやすい上に、アルコールを摂取しているとさらに満腹信号を簡単に無視できます」と述べています。他にも、「食べ物を無駄にしてはいけない」とする倫理観や、「食後にデザートを食べる」という習慣なども食べ過ぎを助長するそうです。

また、満腹信号に関連するホルモンや脳内化学物質は人間の気分に影響するため、孤独やストレス、恐怖、疲労といったネガティブな感情を改善しようとして食べ過ぎてしまう場合もあります。もしも満腹になっても食べるのをやめられない状態が続くなら、うつ病や不安、ストレスなどが原因となっている可能性もあるとサリス氏は指摘しています。他にも摂食障害や子どもの頃のネガティブな経験(逆境的小児期体験)など、過食の原因となる要因はさまざまだとのこと。



うつ病や不安、摂食障害などは科学的に確立された治療を受けることで改善することができるほか、サリス氏は以下のような方法も食べ過ぎるのを防ぐ上で役立つとしています。

・「満腹日記」を書く

食事のたびに「満腹になったかどうか」を記録して、満腹でない状態で食べるのをやめたのか、満腹状態で食べるのをやめたのか、あるいは満腹を越えて食べ過ぎてしまったのかを把握する。

・食べ過ぎの原因を探る

「今回は食べ過ぎてしまった」と感じた時に、自分に何が起きているのかを分析する。何かに不満を持っているのか、ストレスを抱えているのか、疲れているのか、何かを先延ばしにしているのか、本当に必要なことの代わりに食べ過ぎてしまったのかを考える。

・超加工食品の量を抑える

塩分や糖分、脂肪などを大量に含む超加工食品の摂取量を制限し、健康的な食事をとるように心がけることで、食べ過ぎる前に満腹信号を出すために必要な栄養素を摂取することができる。

・必要以上に食事を用意しない

そもそも「食べ過ぎてしまう」という状態が起こらないように、必要以上の食事を用意せず、お皿に一人分の料理しか盛らないようにする。残り物はすぐに冷凍または保存することで物理的に隔離し、満腹になったら速やかにテーブルを離れる。