新型コロナウイルスの拡大が続くアメリカ。それでもオミクロン株の経済への悪影響は今のところ限定的だ(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ株市場が「オミクロン株」の影響を乗り越えようとしている。同国株は、FOMC(連邦公開市場委員会)の結果が明らかとなった12月15日に代表的な指標であるS&P500種指数が過去最高値に接近した後、翌日16日から下落。だがその後は反発を続け、23日には再び史上最高値を更新した。

オミクロン株のアメリカ経済への悪影響は限定的

新型コロナウイルスの変異種であるのオミクロン株感染者がヨーロッパに続いてアメリカでも増え続けているのは周知の通りだ。せっかくのクリスマスシーズンに都市部での外出抑制やイベント中止などが相次ぎ、オミクロン異株への懸念が年末のアメリカ株式市場を一時的に揺るがした。

オミクロン株はこの夏に広がったデルタ株と異なる性質があり、どの程度アメリカの経済活動に悪影響を及ぼすかはなお不確実だ。だがデルタ株が流行した2021年、夏場のアメリカ経済への悪影響は、旅行など一部のサービス業に限定されており、結局サービス消費全体への影響はわずかだった。

コロナと共生しながら必要な対処を行うアメリカでは厳しい都市封鎖には至らず、2021年夏場までの日本のように経済活動にブレーキがかかる可能性は低い。オミクロン株は、デルタ株と同様の局所的なサービス消費の抑制要因にとどまると考えている。

コロナの感染者拡大は、年央に世界のサプライチェーンを阻害したことで自動車などの生産調整をもたらし、この影響が同国経済により直接的な悪影響を及ぼした。もし今後オミクロン株の悪影響が出るとすれば、この経路が再び強まるシナリオが想定される。

一方、コンテナ運賃価格はピークアウト、同国製造業への各種調査などでは、物流やサプライチェーンの逼迫が和らぐ兆しがみられる。さらに2021年に大きく増えたアメリカの財消費の伸びが一服しつつあり、同年見られたようなサプライチェーンの不調が起こる可能性は高くないだろう。このため、オミクロン株の世界経済への悪影響は限定的で、これに対する金融市場の懸念は早晩和らぐと筆者は予想する。

ただ、新型コロナが及ぼすリスクは限定的でも、2021年の経済の高成長を受けて、年初から20%超のリターンを謳歌したアメリカ株が、2022年にも同様のリターンを期待できるかといえば、筆者はかなり懐疑的である。

なぜなら、オミクロン株の悪影響そのものよりも、経済活動への不確実性が高まる中で、ジェローム・パウエル議長率いるFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)がインフレ抑制を重視する政策姿勢を強めていることが、2022年前半のアメリカ株式市場の大きな足かせになりそうだからだ。このため、アメリカ株のリターンは、2022年には前年よりも大きく低下すると予想される。

アメリカの早期利上げで想定される数々の懸念とは?

現在、FRB(連邦準備制度理事会)は従来重視していた雇用最大化よりも、ジョー・バイデン政権からの要請もあり、インフレ抑制を重視することで、タカ派にかなり傾斜している。

このため、2022年にアメリカでは財政金融政策の双方が経済成長にブレーキをかける方向に作用しそうだ。2021年の同国経済の高成長を支えたサービス消費の正常化が2022年に一服することも、2022年前半からのブレーキになると予想される。

2022年前半は、経済成長が減速して企業業績の改善ペースが鈍るなかで、FRBが金融緩和の手仕舞いを進める可能性が高い。すでにアメリカの債券市場において、利上げ期待が強まり、イールドカーブ(利回り曲線)のフラットニング(短期金利と長期金利の金利差が縮小し、イールドカーブの傾きが緩やかになること)が続いている。

なかでも、30年満期の超長期ゾーンの金利低下がとくに目立ち、早期利上げによって経済成長率が長期的に低下するシナリオが織り込まれていると言える。

この債券市場の期待形成が妥当かは議論が別れるところで、債券市場参加者が極端に悲観的に傾いている可能性もある。だがFRBによる早期利上げがもたらす同国経済への悪影響については、2022年前半にかけて、株式市場においても債券市場と同様に懸念されてもおかしくない。

なお、筆者自身は、従来完全雇用実現を優先していた最近のFRB政策姿勢の転換が、政策ミスにつながる可能性が高いと見ている。

早すぎる引き締めで景気減速、選挙での政権敗北懸念も

需要過多よりも供給制約によってインフレが起きているなかで、早期に利上げを行えば、それは早すぎる引き締め政策になりうるからである。

また、2021年までのアメリカ市場における株高は「GAMAM」(Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)など特定巨大銘柄の企業価値評価が高まり株価が上昇したことなどが主な要因だった。FRBの金融政策ミスへの懸念は、こうしたグロース株の株価調整に直結しやすい。

もちろん、筆者の予想が外れて、FRBのテーパリング(量的緩和の縮小)加速と2022年の早期利上げが政策ミスにならず、インフレ沈静化につながり、「タカ派化」が成功とみなされる可能性もある。

FRBメンバーが2024年まで想定している利上げペースは緩やかなので、利上げが過剰な引き締めとなる「オーバーキル」に至らず、ファインチューニングとして成功するかもしれない。ただ、FRBの利上げが政策ミスであるかのかの判断には、相応の時間がかかるので、FRBの政策対応への疑念が強まりやすいだろう。

さらに、中間選挙(2022年11月8日)を控えて支持率が低下しているバイデン政権の政策対応が株式市場で懸念される可能性もある。

すでに、インフレ抑制をFRBにあからさまに要請したことが、失政の1つかもしれない。そして、バイデン政権が注力してきた「ビルドバックベター」(よりよき再建)と称される財政パッケージについて、バイデン大統領が民主党内をまとめられず、同法案が実現しないリスクもなおくすぶっている。2022年のアメリカ政治が混乱することを、示唆していると言えるだろう。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人個人に属するもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)