長男とスケートを楽しむ中野友加里さん(写真は一部加工)【写真:本人提供】

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「THE ANSWER スペシャリスト論」フィギュアスケート・中野友加里

 スポーツ界を代表する元アスリートらを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る「THE ANSWER」の連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。フィギュアスケートの中野友加里さんがスペシャリストの一人を務め、自身のキャリア、フィギュアスケート界などの話題を定期連載で発信する。

 今回のテーマは「中野友加里と子育て」前編。2015年に一般男性と結婚し、2児の母になった中野さん。5歳の長男と3歳の長女、「家が破壊されそう」と笑うほど、元気いっぱいな子供たちに囲まれながら、育児と仕事に奮闘中だ。前編では母としての忙しい日々を明かし、我が子への愛と夫への感謝についても語った。(聞き手=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

――中野さんは30歳で出産し、現在は2児のママに。母としてはどんな毎日ですか?

「世の中のお母さんも同じだと思いますが、とにかく時間に追われます。自分が思い描いた通りにはいかない。だいたい突発的なことが起きて、予定外のスケジュールになり、焦って、イライラして……(笑)。そんなパターンが多いですが、なんとかここまで来ています」

――1日はおよそどんな流れですか?

「朝は6時起床。これでもギリギリで、急いでお弁当と朝食を作り、自分の身支度を整え、洗濯物を片付け、子供たちを7時に起こします。朝ごはんを食べさせて、8時に家を出て電車に乗り、長男を幼稚園に送り届けます。長女は一緒に自宅に戻り、片付けと洗濯。洗濯機を1日に何回も回す家庭は多いと思いますが、うちも2回は回しています(笑)。

 家事をしていると、あっという間に長男の迎えの時間がやってきます。早い日はお昼前、お弁当を食べる日は食べてからのお迎えです。子供たちはいくつか習い事をしているので、その送り迎えだったり、場合によっては付きっきりになることもあります。出かけた日は、帰ってくるのは夕方5時くらい。そこから夕食の準備に入るわけです」

――すでに怒涛の流れに聞こえますが……。

「でも、ここからです。2人の子育てをされている女優の菅野美穂さんが以前、テレビ番組で『5時に街に流れる夕焼け小焼けの音楽が、自分にとってのゴングみたい』と仰っていて、本当に良い表現だと共感しました。5時は“終わり”ではなく、夜の“始まり”です。猛ダッシュで夕食を準備して、お風呂に入れて、寝かしつける。瞬く間に時間が過ぎてしまいます。

 朝もバタバタですが、私は夜の方がバタバタする感じ。子供は早寝早起きを心がけて8時には寝かし、そこで初めて自分の時間が少しだけ持てます。自分の仕事をしたり、仕事がない時はドラマが大好きなので『TVer』をずっと見ていたり。私自身はなるべく11時半には寝るようにして、6時間以上は睡眠を確保できるように日々過ごしています」

週によっては週7仕事の夫、周りに「ワンオペ育児」と言われても苦にならない

――ご主人も大変お忙しいそうですね。

「月曜から土曜、場合によっては日曜も仕事です。リモートではなく、出勤しての仕事なので、周りには『ワンオペ育児』とも言われます。ただ、私自身はワンオペとも思っていません。夫は家のことを、よく話も聞いてくれるので。送り迎えをしたり、食事を作ったりはできないかもしれませんが、家にいる時はすごく協力的です。

 誰かに話を聞いてもらうことが、お母さんにとってストレス発散の一つになると思うので、話を聞いてもらえるだけで私はありがたいです。もちろん大変に思う時はありますが、家にいる以上家事は私の仕事。今は外での仕事も控え、子供中心の生活なので、私がやった方がいいと思っています」

――夫婦で上手な協力関係が築けているのですね。ご主人のどんなことが支えになっていますか?

「すごく話を聞いてくれて、相談に乗って欲しい時はその答えも明確に返ってきます。自分の体が空いている時は子供の面倒もよく見てもらえるので。働いてもらっている以上、もうそれだけでも私としては十分ありがたいです」

――出産後の心や体の健康はどうでしたか?

「とにかく寝不足との闘いです。今までにない予測不能なスケジュールで動くことになり、いつ子供も泣くか分かりません。でも、ずっと身構えているわけにもいかない。時には気を抜いてしまい、パニックになることが1人目の出産直後はありました。睡眠不足がつらくて、肌荒れがひどくなって……。それが、一番の悩みでしたね。年齢とともに、最近は鏡を見るのも嫌だなと思うようになりました(笑)」

――フジテレビのディレクター時代は徹夜続きで苦労したこともありますが、その寝不足とはやはり違うものでしょうか?

「当時は寝られないつらさも、いつかは終わりが来ました。でも、子育ては終わりが見えないので、いつ寝られるか分からない。寝られる時に睡眠を確保できるとベスト。家に夫がいると安心したり、気持ちが和らいだりしたかもしれないですが、過ぎ去った今はどうってことないかなと思えます。子供の成長の方が大事なので。元気に成長してくれるだけで幸せなことです」

――子育てをする上で持っているモットーはありますか?

「当たり前のことですが、健康第一ですね。コロナ禍で、より体が資本になる時代。現役時代も大会に向けて体調万全で臨めることが第一優先だったので、何よりも健康を考え、丈夫な体に育ってほしい。あと、このご時世で家にずっといると、子供も親もストレスになってしまうので、できるだけ外に出るように意識しています。散歩して、日光浴をするだけでも気持ち的に変わるので、一緒に歩いて体力をつけるようにしています」

スケートから学んだ教訓「継続は力なり」、尊敬する先輩ママは荒川静香さん

――必ずしも公園まで連れて行かなくても散歩ひとつでもリフレッシュになりますね。

「私としては、自然を学んでもらいたいという想いもあります。ちょうど自宅近くに川があるので、川沿いを歩いて、勉強も兼ねて季節を感じてもらえれば、と。もともと子供たちが虫や花が好きで、家でいつも図鑑を読んでいますが、図鑑と照らし合わせて、実際のものを見つけることをよくやります。今、我が家に子供が拾ってきたカタツムリがいて……。私は苦手なのですが、カゴに入れて飼っております(笑)」

――健康を考える上での食事にこだわりはありますか?

「私は、有機栽培とかオーガニックとかにあまりこだわりがないんです……(笑)。幸いなことに子供が肉よりも野菜の方が好き。珍しいかもしれませんが、『野菜をたくさん入れて。いろんな野菜を食べたい』と言ってくれるので、なるべく野菜中心の生活です。好き嫌いもない。お肉やお魚も食べますが、野菜を好んで食べてくれるので、作り甲斐があります」

――野菜好きな子供たちが一番喜ぶ中野さんの手料理は何でしょう?

「ちょうど、8月に長男の誕生日だったので、何を食べたいか聞いてみたら、『筑前煮が食べたい!』って」

――5歳の男の子が。し、渋い……。

「私も『えっ、筑前煮!?』みたいな。私は構わないのですが、最近は我が家の食卓には筑前煮の出番がすごく多いです(笑)」

――フィギュアスケート界の同世代の選手も子供を持っている方が多いですが、子育てで勉強になる方はいますか?

「もう、みんなママやパパになっちゃって、時の流れを感じますね。その中で『やっぱり、できる方だな』と思うのが荒川静香さんです。ご自分もアイスショーで滑り続け、なおかつテレビなどの仕事をたくさんしながら、2人のお子さんもしっかりと育てられている。スーパーパワフルです。日々の子育てにプラスして、滑るなんてすごい体力です。いったい、いつ寝るんだろうと思います。

 実は、荒川さんとは下の娘が同い年で、習い事も一緒なんです。なので、よく顔を合わせて話をするのですが、これだけの忙しさでありながら、お子さんのことにしっかりと向き合っている。お料理の話をしても『子供がこれ好きだから』と言って用意されている。私は最近氷に乗ってスピンを回ってみたのですが、『これはもう滑っちゃいけないな』と思うくらい衰えていたので(笑)。本当に尊敬しかありません」

――競技から学んだ財産も多いと思います。フィギュアスケートをやってきた経験が子育てに生きたことはありますか?

「『継続は力なり』ですね。スケートも続けることに意義がありました。何か一つのものを続けるって、実はすごく大変なこと。そして技術を維持しなければいけないことはもっと大変なこと。子育ても似ているのは継続していることなので、それをいかに我慢するか。日々イライラすることもありますが(笑)、これを続けていけば子供が幸せになれる。子供の幸せとして返ってきてくれると思って毎日、生活しています」

(17日掲載の後編に続く)

■中野友加里 / THE ANSWERスペシャリスト

 1985年生まれ。愛知県出身。3歳からスケートを始める。現役時代は女子選手として史上3人目の3回転アクセル成功。スピンを得意として国際的に高い評価を受け「世界一のドーナツスピン」とも言われた。05年NHK杯優勝、GPファイナル3位、08年世界選手権4位。全日本選手権は表彰台を3度経験。10年に引退後、フジテレビに入社。スポーツ番組のディレクターとして数々の競技を取材し、19年3月に退社。現在は講演活動を務めるほか、審判員としても活動。15年に結婚し、2児の母。自身のYouTubeチャンネル「フィギュアスケーター中野友加里チャンネル」を開設し、人気を集めている。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)