東京五輪が終わって、ビーチバレーボール界も他の競技と同様、次の2024年パリ五輪へ向けて動き始めている。

 五輪後、初の国内ツアーとなるマイナビジャパンビーチバレーボールツアー2021『第2戦 平塚大会ガラナ・アンタルチカ杯』(8月28日〜29日)が、神奈川県平塚市の湘南ベルマーレひらつかビーチパークで行なわれた。


パリ五輪へ向けて再スタートを切った坂口佳穂(右)と、今大会でペアを組んだ鈴木千代(左)

 今大会では多くの選手が、これまでとは違うペアを組んで参戦。東京五輪出場が叶わなかった坂口佳穂(25歳/マイナビ)も、村上礼華(24歳/ダイキアクシス)とのチームを解消し、鈴木千代(27歳)とペアを組んで出場した。

 鈴木は15歳から競技を始めた経験豊富なプレーヤー。今年6月には日本代表としてAVCコンチネンタルカップ・東京五輪アジア大陸予選に出場。開催国枠以外の、もうひと枠の獲得を目指して戦ったが、五輪出場権は惜しくもモノにすることができず、同大会後にはビーチからの引退を決めていた。しかし、坂口が「一緒にプレーして、勉強させてほしい」と鈴木に頼み込んで、今大会限りのパートナーとなった。

 その坂口&鈴木ペアは1回戦、坂本実優(30歳)&沢目繭(27歳)と対戦した。坂本&沢目ペアは、高さはないものの、粘りのある守備と緩急織り交ぜた攻撃が武器という試合巧者。そんな相手に対して、坂口&鈴木ペアはなかなか波に乗れなかった。急増ペアゆえのミスも目立ち、第1セットは14−21で落とした。

 だが、第2セットに入って坂口&鈴木ペアもようやくエンジンがかかり始める。風の向きやレシーブのポジションを鈴木が細かく指示し、プレーの連携が向上。鈴木得意のツーアタックも冴え、完全にペースを握ると、21−13で第2セットをとった。

 第3セットも主導権を握ったのは、坂口&鈴木ペアだった。坂本&沢目ペアに流れが傾きかけても、鈴木が攻撃の幅を作り、坂口の強打で相手を翻弄した。そして、坂口が中盤にブロック、終盤にはサービスエースも決めて、15−12で第3セットを奪取。坂口&鈴木ペアがセットカウント2−1で逆転勝ちした。

 準決勝の相手は、溝江明香(31歳)&藤井桜子(30歳)ペア。東京五輪後に新しく組んだチームだが、2人は都立駒場高校の同級生で、2008年のビーチバレージャパン女子ジュニア選手権のチャンピオンという難敵である。

 それでも、坂口&鈴木ペアは1回戦よりも2人のコンビネーションが増して、鈴木が低いトスで攻撃のテンポを構築。坂口のサービスエースも決まって、第1セット序盤はリードを奪った。

 このまま坂口&鈴木ペアのリズムで進むと思われたが、中盤、長いラリーから溝江が強烈なスパイクを決めると、そこから溝江&藤井ペアの勢いが加速。藤井のサービスエースなどでポイントを重ねられ、16−21で第1セットを失った。

 第2セットに入っても、坂口&鈴木ペアは流れを取り戻すことはできなかった。安定したトスからパワーのあるスパイクで攻撃を仕掛ける溝江&藤井ペアに終始後れをとって、16−21で第2セットも落とし、セットカウント0−2で敗れた。

「サイドアウトから点につなげたかったが、うまく修正できなかった。相手のほうが上手だった」と鈴木。坂口も「サーブで相手に押されて、押し返すことができなかった。もっと早い段階で相手の特徴に合わせたブロックとディフェンスができればよかった」と反省の弁を口にした。

 また、鈴木にとってはこれが引退試合となった。坂口は「最後の試合に勝てなくてすみません」と涙も見せた。

 しかし一方で、坂口が得たものは大きかった。

「プレーや戦術だけでなく、パートナーへの声かけも、(鈴木)千代さんから学びたい」と言っていた坂口は、試合中でも頻繁に鈴木と会話をしていた。おかげで、戦術の変え方、声をかけるタイミング、基本的なことなど「新たな発見があった」と話す。

 そんな坂口を見て、鈴木も「試合中も(坂口から)いろいろと前向きな戦術のアイデアが出てきて、(坂口)佳穂もたくましくなったなぁと感じた(笑)」と言う。

 鈴木は続けて、坂口のプレーヤーとしてのよさについてこう語った。

「ポジティブさ、笑顔でプレーできる強さはすばらしい。それがないと、ワールドツアーでは勝てない」

 このチームはこれで解散し、今後の坂口のペアについてはまだ決まっていない。だが、彼女の目標に変わりはない。

「世界で戦いたい。トップに立ちたい。そう思ってビーチバレーをしているので、目指すべきところは一番上です」

 先輩からの貴重なアドバイスを胸に、新たな戦いに挑む坂口。先を見据える瞳の輝きは増していた。