29年ぶりとなる決勝トーナメント進出を果たした男子バレー日本代表は、リオ五輪で金メダルを獲得したブラジルと準々決勝で戦う。現在32連敗中の王者に、果たしてつけ入る隙はあるのか。日本が29年前に予選を突破した1992年のバルセロナ五輪、2008年の北京五輪にもキャプテンとして出場した荻野正二に、攻略の糸口について聞いた。


イランに勝利して予選突破を決め、カメラ前でポーズを取る西田有志(左)と石川祐希

――日本が予選突破を決めた時、何を思いましたか?

「北京五輪の時は1勝もできませんでしたから、初戦で勝っただけでも本当に大きなことでした。それが3勝して、ベスト8に入るなんて......。バルセロナ五輪の順位は6位でしたが、また決勝トーナメントで日本チームが戦うということが、元代表選手としても誇らしいです。

 予選突破を決めたイラン戦は、フルセットになった時点で正直『厳しいかな』とも思いました。でも、アジアの強豪を相手に接戦を勝ち切ってくれた。疲労が吹き飛ぶほどの、価値がある勝利だったと思います。今のチームには若い選手が多いですが、試合ごとに成長していて、自信を持ってプレーしていることがわかりますね」

――5戦全敗で悔しい思いをした北京五輪でのチームメイトだった、清水邦広選手も奮闘していますね。

「五輪経験がある清水選手がいることでチームが落ち着いている部分はあるでしょう。出場機会はそれほど多くないですが、少ないスパイクをしっかり決めているのはさすがです。ベンチからも積極的に声かけをしていますし、おそらくコートの外や、練習などでもコミュニケーションをよく取っているんじゃないかと思います」

――確かに、予選3戦目のイタリアに負けたあと、清水選手が会場の片隅にメンバーを集めて、少し長めに話をする場面がありました。

「やはりそうですか。イタリア相手に1セットを取れたのは大きかったし、『ここで終わりじゃない。先があるよ』と鼓舞したんじゃないでしょうか。やはり照準はイラン戦だったでしょうから。これは、同じ福井県出身の先輩としての憶測ですが(笑)」

――29年前と比べて、日本のチームの予選の戦いはどうでしたか?

「バルセロナ五輪の時は、現代表監督の中垣内(祐一)さんが絶対エースで、他の選手たちがなんとかつなぐ、というパターンが多かった。でも今回は、両レフトの石川(祐希)選手と郄橋(藍)選手、オポジットの西田(有志)選手がバランスよく打っているので、攻撃力はずっと上ですね。イラン戦の序盤で、石川選手の調子が少し上がらなかった時に耐えられたのも、郄橋選手、西田選手のおかげだと思います。そうして調子を上げてからの石川選手は"これぞ絶対エース"という活躍でした」

――郄橋選手はまだ19歳ですが、ここまでの活躍をどう見ていますか?

「どんなに威力のあるサーブがきても、レシーブでのミスがないですよね。Cパス(セッターに返らないサーブレシーブ)もほとんどないですし、その技術はすごいと思います。リベロの山本(智大)選手、石川選手と3人でサーブレシーブができているのも大きい。仮に石川選手が崩れることがあるとカバーする必要がありますが、ここまで安定しているので、郄橋選手も自分の範囲のボールを取ることに集中できているのでしょう。

 守備のあとに、スパイクの助走に入る"切り替え"も速い。高校、大学でやっていることを、オリンピックでも変わらずにやれていると感じます。スパイクの技術も高く、しっかりストレートに打ったり、ブロックの低いところを狙ったりできている。サーブレシーブに余裕があるから、冷静に相手のブロックを見られているんだと思います」

――今大会はバックアタックもよく決まっていますね。

「あれは、パスの精度が高さも大きく影響するので、セッターの関田(誠大)選手がうまくトスを上げているということ。データ的には石川選手のほうが打数が多く、相手チームからのマークも厳しいところを、関田選手がよく見ています。ミドルを含めた"4枚攻撃"を毎試合やっているので、ファンの方たちも見ていて面白いんじゃないでしょうか」

―― 一方の西田選手はいかがですか?

「ケガの影響を感じさせない、力強いスパイクを打っています。ただ、サーブはまだ本調子ではないようですね。西田選手をはじめ、石川選手、郄橋選手にも、『ミスしてもいいから思い切り打て』という指示がでているのかもしれません。予選でサービスエースを取れた場面では、アウトっぽいボールを相手が触ってくれた場面もあるので、少なくともネットを越えるように意識するといいと思います。

西田選手のサーブはすでに世界トップレベルと認識されていますから、相手選手が身構えてくれる。たまにコントロールで(ショートサーブを)打つといったことを試しても面白いですし、全部のサーブを全力でいかなくてもいいと思います。相手に『前に落とすこともある』と思わせられたら、強打のサーブがより活きてくる。そんな駆け引きを、次戦ではよりやっていってもらいたいです」

――決勝トーナメントの勝ち上がりも期待したいのですが、準々決勝の相手は世界ランキング1位、リオ五輪で金メダルを獲得したブラジルです。かなり厳しい戦いになるでしょうが、勝つ可能性を上げるためには何が必要でしょうか。

「攻めのサーブですね。特にイアオンディ・レアルというキューバからの帰化選手は、僕がブラジルにコーチ研修に行った時にクルゼイロというチームにいたんですが、その頃からあまりサーブレシーブが得意ではありませんでした。特にフローターサーブが苦手かな。スパイクはブロックの上から強烈なボールがくるんですけど、サーブでしつこく狙えば、スパイクも調子を落とすかもしれない。彼を徹底的に狙うことでチーム全体を崩していく戦略はアリだと思います」

――他に注意すべき選手はいますか?

「レアルの対角のドウグラス・ソウザは守備が安定していて、バックアタックがいい選手。彼もコーチ研修時代にプレーを見ましたが、本当に成長しました。ミドルブロッカー陣は210cm弱の選手が揃っているから、クイックを止めることは極めて困難です。だからサーブで攻めることが重要で、セッターにきっちりボールが返ったらサイドアウトを取られるのは仕方がない、と割り切ったほうがいいですね」

――日本もしっかりサイドアウトを取っていくことが重要になりますね。

「そうですね。その際に気をつけないといけないのは相手の多種多様なサーブ。ジャンプサーブも速いし、フローターサーブの質も高い。ただ、これまでのように日本のサーブレシーブのシフトが機能すれば、十分に対応できると思います。ブラジルはブロックもいいですが、20点前後までは競ることができるはず。

 ブラジルは勝負所での集中力も抜群です。ただ、そこで"名前負け"しないでほしい。『ブラジルだからやばい』じゃなくて、『ブラジルとも戦える』と自分たちのプレーを続けること。ブラジルは選手たちの年齢も高いですから、粘ることでチャンスが生まれる可能性もある。あらゆる最善を尽くして、王者に勝ってほしいです」