日本女子バレー日本代表が予選突破に正念場を迎えている。4戦を終えて1勝3敗。決勝トーナメント進出へ残るドミニカ共和国戦での勝利が必須になった。

 初戦のケニア戦でエース古賀紗理那が右足首を捻挫するアクシデントなどもあり、苦しい戦いが続いている"中田ジャパン"のここまでの戦いについて、元日本代表でロンドン五輪銅メダリストの迫田さおりに聞いた。


ケガからの復帰戦となった韓国戦で、チームトップの27得点を挙げた古賀紗理那(中央)

――まず、古賀選手のケガというアクシデントがあった初戦のケニア戦はいかがでしたか?

「初戦のケニア戦のスタートはやっぱり硬さがありました。そういう状態になることは選手たちも予想していたでしょうし、『どう突破していくかな』と思っていましたが、私の印象としては、石川真佑選手の思い切りのいいスパイクが流れを変えたと思います。決まる、決まらないは別として、普通のトスはもちろん、二段トスなども思い切り打っていたのがよかった。サーブでも、石川選手はサービスエース、ケニアのレシーブを崩しての連続得点につなげていましたね。

 古賀選手のケガには、チーム全員が驚いたでしょうし、少なからず動揺もあったと思います。それでも、しっかりストレートで勝てたことは、『初戦が大事』という共通認識ができていたこと、今まで取り組んできたことの積み重ねによるものだと思います」

――その後、格上のセルビアとブラジルには力の差を見せつけられた印象があります。

「古賀選手が一時離脱したことで出場機会が増えた、リオ五輪の経験がある石井優希選手、技術が高い林琴奈選手を含め、『どのようにもう一度組み立てて、1点ずつ取りにいくか』を、チーム全員で話し合って臨んだとは思います。ただ、大会の途中で1度歯車が狂ってしまうと、戻すのに時間がかかります。いつもだったら拾えるボールを目で追ってしまったり、足が動かなくなってしまったりという場面が多く、もったいなかったですね」

――ブラジルやセルビアなど、上位チームと日本の差をどのように感じましたか?

「上位チームは圧倒的にミスが少ないですね。日本の選手たちがスパイクでレシーブを弾いても、その乱れたボールを強烈なスパイクで返してくる。苦しめているはずなのに、なぜか日本の得点にならないという場面が多かったです。ブラジルは、日本戦の途中でセッターがケガをしましたが、そこからさらにギアを上げた感じがしました。世界のトップを走り続けている経験値がなせるものでしょう」

――そして予選ラウンドの大一番の韓国戦。フルセットの接戦になり、日本は第5セットでマッチポイントを先に握りながら、連続失点で熱戦を落とす悔しい結果になりました。ただ、古賀選手が復帰し、チーム最多の27得点を挙げましたね。

「私は現地で取材していたのですが、会場に日本の選手団が入ってきた時に『あれ、選手の人数が多いような......』と思って数えたら、フルメンバーの12人が揃っていたんです。『古賀選手が戻ってきている!』と驚きましたよ。ピンチサーバーなどで無理をさせないという考えもあったでしょうが、ユニフォームを着ているということは、出場する強い覚悟を決めているんだろうと思って見ていました。

 もちろん、ケガが完治していないことはみんながわかっていますが、コートに立ったら言い訳にはできません。しかし古賀選手は、そんな心配も関係なく、『オリンピックにすべてを懸けてきた』というプレーを見せてくれました。25点を取るまでのプランを組み立てていることを感じましたし、ボールが動いてない時の声のかけ方もすばらしかった。我慢の時間をみんなで共有して、誰かが決められなくても『もう一度! みんなで頑張ろう』と鼓舞していました。チームに与える影響力の大きさを感じましたね」

――韓国戦の第1セットは、初めて黒後愛選手とセッター籾井あき選手がスタメンから外れるなど"奇襲"を仕掛けたもののハマらず、メンバーをケニア戦のスタメンと同じに戻しましたね。

「それでも、特に黒後選手は、スタメンから外れたことによる心理的な影響も感じさせませんでした。普段は免除されているサーブレシーブにも加わって、いいスパイクを打っていた。サーブで狙われることが多くなりましたけど、よく我慢していましたね。自分の役割を果たすことの大切さを、コートで表現しようとしていると感じました。

 噛み合わなくて苦しい場面もあり、第1セットを取られて、第2セットも同じような展開が続きました。思うように点数が決まらないことで、チーム全体に重苦しい空気が漂ったこともあったでしょうね。もっと苦しい展開になってもおかしくなかったのが、最終的に惜敗はしたものの、フルセットまで戦えた。第2セットを取り返した時のように、みんなで我慢して、諦めずに戦えたことは、この先につながるはずです」

――韓国戦の第5セットで日本がマッチポイントを握った場面で、セッターの籾井選手は3連続で石川選手にトスを上げました。黒後選手は後衛の真ん中でサーブレシーブを担い、古賀選手は後衛のライトで、そこからのバックアタックも試していなかった形ですが、他に選択肢はなかったのでしょうか。

「荒木(絵里香)選手に上げる選択肢はあったかもしれませんね。ただ、コート内の選手たちの中に、『この勝負所を石川選手に託したい』という思いがあったんじゃないかと思います。それが決まらないと、『他の選手を選択したほうがよかったんじゃないか』という意見も当然出てきますが、決めたことを貫くこともチームとして必要なことではあります。

 もちろん試合を決められなかったことは残念です。でも、それを一番悔しいと思っているのは石川選手本人。次戦のドミニカ戦だけでなく、石川選手が今後キャリアを重ねていく中で、この場面の悔しさは大きな糧になるでしょう」

――古賀選手、黒後選手、石川選手は初めてのオリンピックですが、プレーの印象はいかがですか?

「トスがうまく合わない場面もありますが、落ち着いていて、高いブロックに負けないパワーと技術を見せてくれていると思います。そんな若い選手たちを牽引する荒木(絵里香)選手はさすがの存在感ですね。韓国のキム・ヨンギョン選手のスパイクをブロックで止めるなど、各国のエースに立ち向かう姿はとても頼もしいです」

――予選突破をかけたドミニカ戦に向けて、今の日本に必要なものは?

「もちろん戦術は練っていくと思います。しかし正念場では、精神的な部分がチームの出来を左右します。どれだけ本気で『絶対に勝つ』という思いで臨むことができるか、最後の最後までボールを落とさないといった執念を見せることができるか、だと思います。

 端的に言えば"泥臭さ"や"貪欲さ"ですかね。例えば古賀選手が、韓国戦の第4セットで何本もトスを呼び、得点が決まったら『よっしゃー!』と叫んで、全身でその喜びを表現する。そういった目に見える姿勢が大事になります。全員がその気持ちは持っていると思うので、コート内でも思い切りそれを表現して、勝利を掴み取ってほしいです」