日本がメキシコに勝った。

 開始早々の6分に久保建英が先制ゴールを奪い、12分にVARで得たPKを堂安律が決めた。前半はそのまま2対0で終了し、後半68分にはメキシコが退場者を出した。田中碧のフィードと堂安の背後へのランニングがシンクロし、相手を10人に追い込むことに成功した。

 2点のリードがあり、相手は10人である。
 残り時間は20分と少しだ。
 メキシコを追い込むことができている。
 慌てる必要はない。

 ああ、それなのに──そこからのゲーム運びは、必ずしも良いものではなかった。数的優位に立ったからといって、たくさんのチャンスを作れなくてもいい。2対0のままでも十分だ。前がかりにならざるを得ない相手がスキを見せたときに、3点目を狙いにいくぐらいでいい。中2日の連戦が続くことを考えると、せっかく巡ってきた数的優位を活用して、できるだけ消耗を抑えて戦いたいところだった。

 ところが、残り20分強の攻防は落ち着かないものとなった。メキシコに押し込まれたわけではないのだが、主導権を握っているとも言えない時間帯が続く。

 テレビで観ている僕も、余裕を持てていない。古い記憶がよみがえっている。18年ロシアW杯のベルギー戦だ。後半開始直後の連弾で2対0に持ち込みながら、69分、74分と失点し、90+4分に被弾してベルギーに逆転負けを喫した。

 2対0のまま押し切った試合も、追加点をあげて3対0で勝った試合も、何度も観ている。それなのに、最初に頭に浮かぶのはロストフで刻まれた記憶なのだ。

 これはもう、僕自身に原因があるのだろう。客観的に見れば圧倒的に有利な立場なのに、リードしていることに余裕を持てないのだ。85分に1点差に迫られてからは、どうしようもない居心地の悪さを覚えた。

 選手たちも同じだったように思う。失点は左サイドの直接FKからだったが、自陣での不用意な反則を避けるべきなのは、誰だって理解できているセオリーだ。しかも、アディショナルタイムに入った後半終了間際にも、右サイドで直接FKを与えている。ここは谷がファインセーブでしのいだが、ゲームの終わらせかたはお世辞にもいいとは言えなかった。ピッチで戦っている11人も、余裕を持つことができていなかった。

 それでも、2対1で勝利をつかむことができた。メキシコを振り切ることができた。

 この勝利で日本は連勝となり、勝点6でグループ首位に立っている。メキシコとフランスは勝点3で、メキシコは得失点差がプラス2,フランスはマイナス2だ。日本の得失点差はプラス2だが、総得点3で、メキシコとフランスの5に劣る。

 数字を比較すれば、いくつかのシナリオが成立する。ただ、条件は日本に有利だ。

 勝利が絶対条件のフランスは、日本戦に決勝戦の意気込みで臨んでくるだろう。ベストメンバーで今大会に臨むことはできなかったが、彼らには彼らなりのプライドがある。序盤から主導権を強奪しようとしてくるに違いない。

 そこで日本に問われるのは、「いなし」の感覚だろう。相手のパワーを真正面から受け止めるのではなく、ゲームをコントロールしていくのだ。メキシコ戦で11対10になった時間帯に、本来やるべきだったサッカーを見せるのである。

 そうやって勝ち上がっていくことができれば、このチームの選手たちはひとつ上のレベルの経験を重ねることになる。選手たちだけでなく日本サッカー全体が貴重な時間を過ごし、私たちは国際舞台で勝ち上がっていく経験則を得る。少なくとも、東京五輪の次に迎える国際大会で、2対0になった際にどうやってゲームを終わらせるのかについて、選手が迷うことはなくなるはずだ。