クラシック名盤シリーズ『クラシック百貨店』管弦楽曲編、7/21発売 柳美里のコメントが公開

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クラシック音楽の名盤シリーズ『クラシック百貨店』第3弾、管弦楽曲編の20タイトルが、2021年7月21日(水)発売になった。 

『クラシック百貨店』はクラシック愛好家へのアンケートに基づく人気ランキングで選盤されているが、管弦楽曲編のランキングでは、3位が《G線上のアリア》を含む、J.S.バッハの管弦楽組曲、2位は、ムソルグスキーによる組曲《展覧会の絵》、そして、1位はストラヴィンスキーのバレエ《春の祭典》という結果になった。1位のストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》では、サンクトペテルブルグの音楽界を代表する指揮者、ワレリー・ゲルギエフとマリインスキー劇場管弦楽団の演奏による作品が選盤されている。 

そして、このクラシック百貨店・管弦楽曲編のCDブックレットには、1997年『家族シネマ』で芥川賞を受賞、昨年、『JR上野駅公園口』で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した小説家、柳美里がエッセイを書き下ろしている。柳は、本シリーズの発売に際し、クラシック音楽と自らの関わりについて下記のようにコメントを寄せた。 

柳美里 撮影:宍戸清孝

わたしが通っていた小学校では、下校時間にドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》の第2楽章〈ラルゴ〉が流れていた。日本では「家路」「遠き山に日は落ちて」というタイトルで親しまれていることから、生徒たちに下校を促そうと学校関係者が選曲したのだろう。 

わたしは小学校に入学して間も無く「バイキン」というあだ名で呼ばれ、激しいイジメに遭っていた。下校時には、心身ともに傷だらけになっていたが、家に帰ったところで、父親も母親も夜の勤めだったので、明け方近くまで幼い弟妹たちと過ごさなければならなかった。家と学校に居るしかなかったのに、家にも学校にも居た堪れなかったのである。 

わたしは、ぼんやりと死を考えながら、暮れゆく教室の窓辺で《新世界より》を聴いていた。友だちと手を繋いだり、肩を組んだり、追いかけっこをしたりしながら校庭を渡って校門を出て行く生徒たちの姿が見えた。 

わたしを生に踏みとどめさせてくれたのは、あのイングリッシュ・ホルンの音色である。 

わたしの生きられる時間と場所が限られていても、「いま」と「ここ」が悲しみと苦しみでいっぱいだとしても、決して絶望することはない。「いま」と「ここ」は、全ての過去と未来を包摂していて、それは永遠へ、まだ見ぬ故郷へと繋がっているのだと、《新世界より》の旋律は、死の縁にいたわたしに気付きと慰撫を与えてくれた。

 クラッシック音楽は、余裕のある人の趣味ではない。「いま」と「ここ」で声を失っている人、生きることと死ぬことの間で立ち尽くしている人にこそ聴いてほしい。

クラシック百貨店シリーズは、今回の管弦楽曲編に続き、8月4日には室内楽、歌劇&声楽曲編の20タイトルの発売を予定。ブックレットには、中山七里のエッセイが掲載される。 

なお、今日の管弦楽曲編の発売を記念して、公式Instagramでは、Bluetooth・光デジタル出力が可能なCDプレーヤーがあたるプレゼント・キャンペーンがスタートしている。