昨年、男女共学となったことを機に、高校野球の名門・横浜高校に「チアリーディング部」が誕生した。今年で創部2年目を迎えるが、コロナ禍の影響により応援が自粛されているため、まだ球場デビューは果たしていない。現在は来るべき日に向けて、練習を積み重ねている。

 60名を超す部員を指導しているのが、3人の女性教員たちだ。


世界大会優勝の経験がある顧問の小林礼奈先生(写真左)

 顧問としてスケジュールを管理する篠田美月(化学教諭)、外部との交渉を担当する坂詩織(英語教諭)、そして野球でいう監督の役目を担うのがチア経験豊富な小林礼奈(保健体育教諭)だ。

 なかでも小林は、チアの世界で実績を重ねてきたアスリートである。本庄第一高校(埼玉)在学時代は1〜3年まで中心選手として活躍。3年時にはキャプテンとして「第7回全国高等学校ダンスドリル選手権大会」で団体総合優勝の立役者となった。

 高校卒業後は日本女子体育大に進学し、ソングリーディング部に所属。全日本チアダンス選手権4連覇をはじめ、2年時から3年連続して米国フロリダ州で開催されるワールドチャンピオン大会にも出場。優勝1回、準優勝2回の好成績を残した。

 卒業を前に「野球の強い高校の教師になって、チアの指導をしたい」と、地元の埼玉を筆頭に、東京、神奈川などの教員募集をチェックしていたところ、男女共学となる横浜高校が女性教師を募集していることを知り、さっそく応募した。

「できあがったところではなく、新しいところで今までやってきたチア経験を生かしたいと思っていました」

 学校側もチア部の創設を考えていたこともあり、まさに相思相愛。昨年4月から教鞭を執っている。

 小林がチアに憧れを抱いたのは、甲子園がきっかけだった。

「小学2年から器械体操をやっていたのですが、小学5年の夏に地元の本庄第一が甲子園に出場して、応援に行ったんです。その時のチア部がカッコよくて、自分もやりたいと思って......高校入学と同時にチア部に入りました」


昨年、男女共学になったことを機に創設された横浜高校チアリーディング部

 その後は日本のみならず、世界大会でも活躍した小林だが、野球部、そして甲子園への思いは強い。その気持ちは今も変わらない。

「野球部を応援したいと入ってきた生徒が多いですが、コロナでそれができなくなってしまって、退部してしまう子が何人かいました。今は夏に応援できればと信じて、練習しています。体育館はほかの部でいっぱいなので、エントランスや補習教室を使っています。

 この1年で少しずつ踊れるようになったので、チアの大会にも出たいという子が増えてきました。学校のイベント活動などで経験を積みながら、野球部の応援とチアの全国大会を目標にしています。とにかく1日でも早く、応援の成果を披露させてあげたい」

 チームリーダーの伊藤璃乃さん(2年)は、横浜高校のチア部に入った理由を次のように語る。

「英語と野球が好きだったので、直感で横高に決めました。家から学校まで片道2時間かかりますが、それでも通いたい学校です。私は英語に特化したGS(グローバルセレクト)コースで、外国人教師の授業が楽しい。部活は、チアか応援指導部か迷いましたが、オリエンテーションでチアの先生が『学校や地域の人たちから愛される部をつくりたい』という話を聞き、素敵だと思ってチアに決めました」

 彼女は中学まではジャスダンスをやっていたが、チアの経験は初めてだ。

「初めの頃は、アームモーションというポンポンを持って腕を動かすのに苦労しました。今はどんどんできるようになり、一体感も出てきて充実しています。今は横浜スタジアムで応援できることを信じて練習しています」

 地元・横浜出身の寺嶋心渚さん(2年)は、チア部ができるという話を聞きつけ、横浜高校への進学を決めた。寺嶋さんは中学時代、テニス部に所属しながら、クラブチームでチア経験がある。それゆえ、圧倒的に初心者が多い部の練習方法について物足りなさを感じたこともあったというが、1期生であることに誇りとやりがいを感じている。

「初めてチアをする子の頑張っている姿を見て、『自分も頑張らなくては』と刺激を受けています。目標はチアの全国大会に出場すること。でも、野球部の応援も経験してみたいです」

 もうひとりのリーダー・林日夏里さん(2年)は、6歳から15歳まで横浜市のサークルで基本的なチアの動きを習った経験はあったが、本格的にやるのは高校に入ってから。入部当初は不安があったという。

「上手な子に追いつけるように、家でも体幹を鍛えたり、柔軟などの自主練習をしています。私たちは1期生になるし、チームの基盤をつくらなければいけないと思っています。まだ全国大会に出ることは考えていませんが、とにかく野球部のために応援したいと思っています。

 じつは私、野球についてはまったく関心がなかったんです。松坂(大輔)投手のことも......。受験前に学校のことを調べていたら、野球部が強いのでビックリしました。これまでに5回も全国制覇をしていたんですね。夢は大舞台である甲子園で応援することです」

 応援される野球部員たちは、チアリーディング部が創部されたことをどう思っているのだろうか。主将の安達大和(3年)はこう語る。

「男だけでも心強いのに、女性の声援が加わるとさらに気持ちが高ぶって、いいプレーにつながると思います。それが試合の大事な場面でできれば、勝利にも結びつくはずです。とにかく応援してもらうのを楽しみにしています。なんとか神奈川を勝って、甲子園で応援してもらいたいです」

 周囲の期待を背に誕生した横浜高校チアリーディング部。彼女たちが真夏の空の下で精いっぱい応援する日が来ることを願いたい。