オフサイドルールが改正されるという。オフサイドになる範囲を狭めて、得点機会を増やす、というのが国際サッカー連盟(FIFA)の狙いだと報道されている。

 本当にそうだろうか。

 オフサイドの適用範囲が緩くなるのは、攻撃側にとって確かにプラスだろう。しかし、守備側は「オフサイドか否か」という微妙なシーンを減らせばいい、と考えるはずだ。割り切ってリトリートをして、相手の攻撃を跳ね返そうというチームが、一時的だとしても増える気がする。GKとCBがしっかりしていれば、それが失点の急激な増加を防ぐ手立てになる。結果的に手堅い試合が増えて、スペクタクルな濃度が薄れていくのではないだろうか。FWとDFの駆け引き、オフサイドをめぐるチームとしての駆け引きも、減ってしまうかもしれない。

 もうひとつ考えられるのは、VARの介入頻度の高まりである。

 FIFAの思惑どおりに得点シーンが増えたら、おそらくは微妙なシーンが増える。VARは「最小限の介入で最大限の成果」を合言葉にしているが、何度も何度も試合が止まることも想定される。

 コロナ禍では飲水タイムが設けられている。選手の体調管理のために必要なものだが、45分ハーフの試合がクォーター制になっているように感じる。そのうえVARによる検証が繰り返されると、サッカーが本来持っていたスピーディーな展開が、どんどんと削がれる気がしてならない。

 そもそも、サッカーは得点がたくさん決まることと試合の面白さが、必ずしも重なり合わないスポーツだ。0対0や1対0といったロースコアの試合でも、観衆や視聴者を楽しませることができる。

 たとえば、日本代表がアウェイへ乗り込み、1対0でリードしていたとする。そのまま逃げ切れるのか、追いつかれてしまうのか、それとも2点目を取って突き放すのか。1対0のまま終盤へ突入したら、ハラハラドキドキである。

 ロースコアの戦いでは、派手な撃ち合いとは違う種類の興奮を味わうことができるのだ。FIFAが得点を増やすことがエンタテインメントとしての魅力を高めることと考えているのなら、あまりに短絡的だと言わざるを得ない。

 新ルールは22年7月以降の導入とのことだが、そうなったらVARの導入をJ2やJ3へ拡大すべきではないだろうか。現在はJ1でしか実施されていないが、J2やJ3でも「得点か否か、オフサイドか否か」を巡って意見の分かれるジャッジがある。しかし、VARがないために不利益を被ってしまうチームが、ときに現われてしまっている。

 映像による検証がされていなかった20世紀は、ミスジャッジも試合の一部だった。それによって因縁対決や注目のマッチアップが生まれたりしたものだが、テクノロジーが支配する現代では「ミスは可能な限り訂正されるべき」との理解が広まっている。

 J2はJ1へ、J3はJ2への昇格を争うリーグだ。VAR導入となればマンパワーとスキルアップが欠かせないが、もはやJ1だけでいいというわけにはいかないだろう。

 大局的な視点に立てば、ルール変更はサッカーを進化させるきっかけになる。GKがバックパスを手で扱えなくなったことで、サッカーは間違いなくスピーディーになった。GKへのバックパスで時間を稼ぐ、ということもできなくなった。

 今回もプラスに作用する面はあるかもしれない。しかし、FIFAは改正した先にどのようなサッカーを思い描いているのか。彼らの未来図は選手のため、観衆のためという視点に立っているようには見ない。そこに今回の改正の問題点がある。