ガラスの豆皿でいただく初夏献立【神谷よしえさんの「旅する豆皿」#4】

豆皿&レシピを紹介するのは…

フードアドバイザー・調味料ソムリエプロ / 神谷よしえさん
大分県宇佐市出身。母が設立した「生活工房とうがらし」を、2015年に株式会社生活工房とうがらしとして継承。食を軸として“人と人を繋ぎ、産地と料理人を繋ぐ”をモットーに、全国各地で食にまつわる講演やセミナー、催事などをおこなっている。趣味はおにぎりを握ること。Facebookページの『ごはん大好き』は、世界に6万人のフォロワーを持つ。

新緑の季節にはガラスの豆皿が似合います

日本の工芸をベースにした暮らしの道具を取りそろえる「中川政七商店」とフードアドバイザーの神谷よしえさんが、各地の郷土の産品や料理に合わせたアレンジレシピと豆皿の魅力を教えてくれる本企画。4回目は、どんなお料理と豆皿をご紹介くださるのでしょうか。

神谷さん:
「新緑が美しい季節になりました。この時期のイベントといえば五節句のひとつでもある『端午の節句』。男の子の健やかな成長を願う行事ですが、別名『菖蒲の節句』ともいわれ、厄除けとして菖蒲湯に入ったり、大人は菖蒲酒を飲んだりする習慣があります。男の子がいないご家庭でも、季節の行事のひとつとして楽しんでみませんか。

そこで今回は、初夏や端午の節句をイメージした献立とガラスの豆皿を大阪府、東京都、青森県からそれぞれご紹介します。繊細な美しさと透明感のあるガラスの器は、爽やかな今の季節にピッタリ。さまざまな色合いや形を楽しめるガラスの豆皿で、新緑の季節や端午の節句に合わせた献立を味わってみてください」

副菜:【大阪府】なすの煮びたし

神谷さん:
「大阪のなすといえば、泉州産が有名です。泉州水なすは丸みを帯びて皮と実がやわらかく、水分量が豊富なのが特徴。灰汁も少なく、生でも甘さを感じられるので、少しずつ暑さを増すこれからの季節にはさっぱりといただけます。

また、なすは油で焼くと甘さが引き立ち、ふっくらおいしくなります。めんつゆと絡めるだけのシンプルな味付けにすることで、なすの旨味をより一層楽しめるのではないでしょうか。お好みでおろし生姜や大葉をたっぷりかけてもOK。夏は冷蔵庫に常備しておくと、素麵やご飯のトッピングとして気軽に使うこともできますよ」

材料(作りやすい分量)

・なす……小1/2本
・めんつゆ……大さじ1杯
・サラダ油……大さじ2杯
・おろし生姜……適宜

作り方

1. なすは輪切りにして水にさらしておく
2. なすの水気をよく拭いて、サラダ油をひいたフライパンで焼く
3. 焼いたなすをめんつゆと絡め、おろし生姜を添える

日本中にガラスを広める起点となった大阪の硝子

神谷さん:
「ガラス製品は、江戸時代に海外から長崎県に伝わりました。その後、大阪に伝わり発展したものが大阪の硝子です。ガラスの量産には、原料や燃料を運ぶ交通網が重要だといわれています。大阪でガラス産業が育ったのは、水路が発達していたことが大きな要因だそうです。

吹きガラスで作られた大阪の硝子の豆皿は、高度な技で細い色ガラスを巻き付けた模様が特徴的。薄く華奢な作りに、職人技を感じますね」

副菜:【東京都】ガリトマト

神谷さん:
「“東京に野菜の名産なんてあるの?”と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は初夏に収穫される谷中生姜をご紹介します。生姜は料理の薬味として使われる野菜ですが、谷中生姜は風味がよく、いろいろな料理に合わせやすいんですよ。

谷中生姜を甘酢で漬け込み、トマトと和えてオリーブオイルを垂らすだけで、ほどよい酸味と甘みを感じる爽やかなひと品に仕上がります。谷中生姜が手に入らない方は、新生姜やガリを代用しても大丈夫。暑い日には素麺の上に錦糸卵と一緒に添えてもいいですね。きれいな色合いになります」

材料(作りやすい分量)

・甘酢生姜(ガリ)……大1個分
・プチトマト……6個
・オリーブオイル……少々

作り方

1. 甘酢生姜を千切りにする
2. トマトは半割にする
3. 甘酢生姜とトマトを合わせ、オリーブオイルを加えて和える

揺らめく波紋が印象的な江戸硝子

神谷さん:
「大阪から伝わったガラス工芸が、東京で発展したものが江戸硝子です。東京に伝わったのは、1711年頃。江戸硝子の歴史もとても長く、伝統的なガラス工芸といえるでしょう。

江戸硝子は、ガラスの波紋が印象的です。手作りならではの揺らめきを感じさせますよね。繊細な技術から生まれるシンプルな作りの江戸硝子の豆皿は、どんな料理にもしっくり合い、おいしさを引き立ててくれますよ」

副菜:【青森県】ごぼうサラダ

神谷さん:
「青森はごぼうの生産量が全国トップ。冷たい気候で育ったごぼうは身が締まり、旨味や栄養がとても豊富なんです。縁起のいい食べ物として、お節料理やハレの日のメニューにもよく使われますよね。地に深く根を張るため、しっかり根付き安定することを願う食材として古くから使われてきたそうです。そのごぼうを使って、馴染みのあるごぼうサラダを簡単に作れるレシピをご紹介します。

ごぼうの調理は面倒なイメージを持つ方も少なくありませんが、レンジを使うと簡単です。食感が残っているくらいの固さにすると、噛み応えもあり、旨味や味わいが出るのでおいしくいただけますよ。太さに応じて、レンジの時間を調整してください」

材料(作りやすい分量)

・ごぼう……約20cm
・マヨネーズ……大さじ1杯
・酢……大さじ1杯
・すりごま……小さじ1杯

作り方

1. ごぼうは千切りにして水にさらしておく
2. 耐熱容器にさらしたごぼう入れて、レンジ500Wで1分ほど加熱する
3. 2に酢、マヨネーズ、すりごまを加えて、混ぜ合わせる

絶妙な淡い色合いの津軽びいどろ

神谷さん:
「津軽びいどろは、平成8年に伝統工芸品に指定された比較的新しいガラス工芸です。ホタテの養殖が盛んだった青森近海で、昭和24年に設置網に取り付けるガラスの浮き球を製造するメーカーとして『北洋硝子』が創業。かつては業界トップシェアを誇っていたのですが、浮き球はプラスチックに取って代わり、同社のメインアイテムは浮き球から花瓶や食器にシフトしていったそうです。

色が多様なテーブルウェアに対応すべく、さまざまな色ガラスの開発に取り組んでいた職人が、海辺を歩いていたときに“砂を原材料に加えてみよう”とふと思いついたのが津軽びいどろのはじまりだといわれています。実際に七里長浜の砂で試してみると、とてもきれいな色が出たのだそうですよ。確かに独特の淡い色合いが美しくて、思わず眺めてしまいますよね」

飯物:鯛めし

神谷さん:
「縁起がいい食材として広く知られている鯛を使う鯛めしです。手軽に作れるように、お刺身の切り身を使います。切り身の半分はご飯物、残り半分はお刺身で使うとより豪華に食卓を飾ってくれますよ。

鯛は淡泊な味ですが、お醤油や白だしで旨味が存分に引き出されます。また、飾りには木の芽を使いますが、大葉でもいい香りが楽しめますよ」

材料(作りやすい分量)

・米……2合
・鯛……切り身4枚(刺身になったものでよい)
・白だし……大さじ2杯
・みりん……大さじ2杯
・酒……大さじ2杯
・木の芽(山椒の若芽)……適宜

作り方

1. 米は洗って研ぎ、ザルにあげて30分以上置いておく
2. 炊飯器に米を入れ、調味料を入れて水加減をして鯛を入れて炊飯する
(小さな鯛などを使う場合、うろこ取りなど下処理をして丸ごと入れて炊く)
3. 炊き上がったら茶碗によそい、木の芽を盛り付ける

汁物:若竹汁

神谷さん:
「たけのこは、ぐんぐん伸びることから縁起物とされています。端午の節句でもよく食べられる食材のひとつですね。

今回は、やわらかく食べやすいたけのこの穂先の部分を使います。はまぐりやあさりを入れると、さらに旨味が増してごちそう感のある汁物になりますよ」

材料(作りやすい分量)

・ゆでたけのこ(穂先)……適宜
・わかめ……適宜
・白だし……大さじ1杯
・水……300cc
・木の芽(山椒の若芽)……適宜

作り方

1. たけのこを食べやすい大きさに切る
2. 水を鍋に入れ沸騰したら白だしを入れる
3. 切ったたけのこを入れ、わかめを入れて味を調える
4. お好みで木の芽を添える

ガラスの豆皿で爽やかな初夏の食卓を

端午の節句の日は立夏。立夏とは暦の上で夏の始まりの日です。今回は、そんな初夏にピッタリな繊細で美しいガラスの豆皿を紹介しました。絶妙な色みやわずかな手触りの違いを感じられるガラスの器は、初夏の食卓に彩りと爽やかさを運んでくれそうです。

今回は端午の節句を意識して縁起物を使う料理を中心にご紹介しましたが、お子様がいらっしゃらないご家庭でも、ぜひガラスの豆皿で初夏の訪れを感じてみてはいかがでしょうか。

取材・文/鎌上織愛(macaroniライター)
写真/あんりちこ(macaroniライター)