在宅介護ロボットの開発と社会実装の倫理的課題 日本・アイルランド・フィンランドの調査結果を千葉大学が発表
3か国合計1,004人より集まった回答から、日常におけるロボットとの関わり方の違いから在宅介護ロボットについて重要視する観点、プライバシー保護や研究の在り方など、在宅介護ロボットに関する各国での認識の特徴が明らかになった。

調査票の表紙。調査票は日本語、英語、フィンランド語、スウェーデン語で開発
●研究の背景
超高齢社会の日本では介護者の不足に備え、在宅介護ロボットの開発と社会実装が喫緊の課題とされている。高齢化が進展しつつある諸外国は、日本の介護ロボットの取り組みに関心をもっている。
日本では既に様々な介護ロボットが開発されており、介護ストレスの緩和や安全安心の獲得などのベネフィットは大きいと言われている。しかし、高齢者とロボットの接触による転倒・骨折、プライバシーの侵害、行動制止といったリスクもあることから、倫理的課題は大きく、社会実装や普及には至っていない。さらに、在宅介護ロボットの開発ではユーザーとなる高齢者が研究開発に参加し、効果を検討することが必要だが、認知症などによって意思決定能力が低下した高齢者の参加も必要とされることから、より丁寧な倫理的配慮が求められる。
そこで在宅介護ロボットの研究開発と社会実装に関する倫理的課題をどのように認識しているかを明らかにするために、日本・アイルランド・フィンランドの3か国での比較調査を実施した。調査対象の各国の総人口に占める高齢者の割合や認知症の有病率、国家としての認知症対策の設定の違いは、以下の表の通り。
【調査対象とした国の特徴】:
・日本
・高齢化の状況(65歳以上の人口割合):
世界で最も高い高齢化率(28.4% 2019)
・高齢者に対するケアの状況:
介護保険制度、地域包括ケアシステムの推進
・アイルランド
・高齢化の状況(65歳以上の人口割合):
欧州での中では高齢化率が遅い(13.4% 2016)
・高齢者に対するケアの状況:
第三セクターに任せ、自治体の基盤も弱い
・フィンランド
・高齢化の状況(65歳以上の人口割合):
OECD平均約15%を上回る(21.9% 2018)
・高齢者に対するケアの状況:
自治体を中心に福祉サービス・インフラストラクチャーが充実
●日本528人、アイルランド296人、フィンランド180人が回答
研究では「在宅介護ロボット」を『形状はさまざまであるが、高齢者とその周囲を感知し見守る機能や、双方向で会話ができるコミュニケーション機能などの高齢者と介護者の支援機能を持っている機器、システムの総称』と定義し、日本や海外で過去に実施した調査等を改良して、日本・アイルランド・フィンランドの高齢者・家族介護者・在宅ケア専門職を対象に無記名で各項目を4段階で評価するアンケート調査を行った。
主な調査項目は「ロボットとのかかわり」「在宅介護ロボットの使用意思」「在宅介護ロボットの開発に参画する際のリスクとベネフィットに関する認識」「意思決定能力低下時の在宅介護ロボットの使用の意思決定や代諾に関する認識」「在宅介護ロボットの使用におけるプライバシー保護に関する認識」など。合計1,004人から回答が得られ、その内訳は日本528人、アイルランド296人、フィンランド180人。
【研究成果】:
・日本の結果から国民がロボットに対する親しみの感情を持てるような機会を作ることが、今後在宅介護ロボットを開発し広く実装するために大切であると明らかになった。
・アイルランドの結果から、人々の介護に関するボランタリズムを育むことで、在宅介護ロボットの研究・開発に参加に関する意識が高まることが示された。
・フィンランドの結果から、第一に在宅ケア専門職による質の高いケアが在宅介護ロボットの実装を促進することが示され、在宅ケア専門職の教育そのものがロボットの実装においてもたいへん重要であることが明らかになった。
・アイルランドとフィンランドの両国では、在宅介護ロボットの使用にかかわらず人間同士の交流を大切にする介護を受けられる権利の保障が重要視されていることが分かり、日本においても高齢者の尊厳や権利擁護について啓発することが在宅介護ロボットの開発や実装においても必要であると認識できた。
●アンケート各項目の集計結果
以下、グラフ中の★がついている項目は3か国間で有意差があったことを表す。★:p
(山田 航也)
