「今、何してるの?」他の女とお楽しみ中、婚約者から“恐怖の着信”。男の衝撃的な言い訳
-理性と本能-
どちらが信頼に値するのだろうか
理性に従いすぎるとつまらない、本能に振り回されれば破綻する…
順風満帆な人生を歩んできた一人の男が対照的な二人の女性の間で揺れ動く
男が抱える複雑な感情や様々な葛藤に答えは出るのだろうか…
◆これまでのあらすじ
商社マン・誠一(30)は、婚約者・可奈子(25)がいるにも関わらず、魔性の女・真珠(26)に夢中になる。2人は恋に落ち、とうとう一線を越えてしまうが、実は真珠は、可奈子が仕向けた刺客だということを真珠の口から聞かされショックをうける誠一だったが……
「純愛」
『もしもし真珠ちゃん?どうしたの?誠一さんの声が聞こえたような…』
床に落ちた真珠のスマホから響き渡る可奈子の声が、火照っていた僕らの心身を急速に冷やした。
真珠の部屋でベッドを共にした後、その場で真珠が僕の婚約者である可奈子に電話をかけ始めたのだ。
とっさに制止したが、僕の声が可奈子の耳に入ってしまったようだ。
僕は思考停止して、スマホを見つめ続けた。
すると、今度は僕のスマホが震え始めた。
-着信:可奈子
僕はとっさに応答ボタンを押してしまった。
『誠一さん、今誰といるの?今から会えない…?なんだか眠れなくて』
可奈子のか細い声が、細くて鋭い針の如く僕に突き刺さり、僕の心を痛めつける。
「どうしたの…大丈夫?」
『夜分遅くにごめんなさい。なんだか胸騒ぎがして…今すぐ会いたいの』
「わかった。今から向かうよ」
どうすることが最善なのか考える余裕などなかった。それなのに、相手が望む言葉をスラスラと口走っている自分が空虚に感じられる。
先程まであんなに情熱的に真珠への愛を語っていたというのに、可奈子はいつだって僕を“理性的で紳士な男”にさせる。
「ごめん、ちょっと行ってくる…」
またすぐに戻ってくるつもりで、急いでタクシーに飛び乗った。
とりあえず可奈子を慰めれば、また後でじっくり真珠と向き合える、そう思っていたのに…
深い関係になった真珠と誠一。2人の仲を切り裂こうとする婚約者・可奈子。誠一はどちらの女性を選ぶのか…!?
僕は可奈子と真っ直ぐに対峙する自信がなく、彼女の家から程近い『プラネタリウムBAR』を予約した。
ただ単に、明るい場所で顔を突き合わせる度胸がなかったのだ。
「誠一さんっ…」
白金台の自宅前でタクシーを止めた瞬間、泣き顔の可奈子が目に飛び込んできた。バーに到着するまでの数分間、可奈子は無言で僕にすがり付いていた。
「ここ…」
プラネタリウムバーに到着すると、可奈子の顔が急に華やぐ。
「初デートで来ましたよね。門限が早い私と出来るだけ一緒にいるために、お酒が飲めない私でも楽しめるバーを家の近くで探してくれて…」
-そういえば、そうだった…
可奈子との歴史が不意に、鉛のように重くのし掛かった。
プラネタリウムバーは真っ暗で、僕たちを照らすのは星の光だけ。僕の動揺も、微妙な表情も、何もかも隠してくれることを星に願った。
「で、どうしたの…?」
真珠の前では情けないほど取り乱してしまったというのに、どうして可奈子の前ではこんなにも堂々と平常心を装えるのだろうか。
「なんだか急に、胸騒ぎがしたんです」
「え、なんで?」
「わかりません。マリッジブルーかしら」
可奈子は力なく笑った。しかし、可奈子は僕の右手を力強く握ってきた。暗闇の中で、可奈子の薬指についた大きなダイヤモンドが何かを訴えるようにギラリと輝いている。
「誠一さん、今日は何をしていたの…?」
「軽く飲んでたよ」
「真珠ちゃんと…?」
さすがの僕もこのストレートパンチには些か動揺し、わざとゆっくりとお酒を飲む間に、頭を高速回転させた。
「あぁ、この間行きつけのバーで出会ってさ。可奈子の知り合いだって言うから、可奈子も呼んで3人で飲もうって話になったんだけど、可奈子門限早いからさ…」
「なるほど。だから真珠ちゃん、電話をかけてきたんですね。誠一さんの声が聞こえたから変な想像をしちゃって…」
僕は軽く笑ってみせた。そしてさりげなく可奈子と真珠の関係を探った。
「でもなんの知り合いなの?系統全く違うからさ…」
「大学時代に出会った大切なお友達です。私の数少ないお友達と誠一さんが仲良くなってくれて嬉しい♪」
目の前で無邪気に笑う可奈子を見て、僕は混乱した。
『婚約者が女にだらしない男か検証してほしいと可奈子から頼まれた』と真珠は言っていたが、可奈子が友達を使ってハニートラップを仕掛けるような腹黒い女にはどうしても見えないのだ。
「可奈子って本当に純粋だよな…」
「え…?」
「普通の女だったら、婚約者が真珠さんのような女性と飲んでたら、心配したり疑ったりするよ。それなのに、可奈子は…」
「私は全く心配してないですよ。だって誠一さんのことを、心の底から信じていますから。誠一さんは、私を傷つけるようなことはしない人です。万が一何かが起こったとしても一時の気の迷い。そんな小さなことを気にして揺らぐほどの愛ではありません」
たった一時間前、僕の気持ちは100%真珠に奪われ、可奈子との別れを確かに決意していた。
しかし僕は今、可奈子の信じられないほどの純粋さと大きな愛を目の当たりにし、それ以上何も言うことができなくなってしまっている。
可奈子を家に送り届けたその足で、僕は真珠の自宅へ向かった。
目の前に立ちはだかる六本木ヒルズレジデンスを見上げて、僕は大きなため息をつく。
遂に可奈子が真珠にトドメの一撃を…
真珠「密か心」
あの時、「好き」という言葉を、たった一言発していたら運命は変わっていたのだろうか。
あの時、急いで可奈子の元に向かおうとする誠一を引き止めることができたら、今も隣にいられたのだろうか。
あの時、自分の気持ちに正直になれたら、こんなに苦しい思いをせずに済んだのだろうか。
今、誠一に電話をかけたらどうなるだろうか。
これがドラマなら、今頃駆け落ちしていたのかな。
自分の正直な気持ちを何度も真っ直ぐに伝えてくれた誠一に、どうして応えられなかったのだろう。
-でも、これで良かったんだよね…?
結局一睡も出来ず、朝を迎えた。
朝7時、静寂に包まれた朝を、スマホのバイブレーションが無慈悲に切り裂いた。
-誠一…?
期待してしまった自分が憐れで仕方ない。私は誠一に連絡先を教えていないのだから。
「もしもし真珠ちゃん?本当にありがとねええ!!」
不気味なほどハイテンションな可奈子の声が脳内に響き、私は思わず顔をしかめた。
「真珠ちゃんのおかげで誠一さんの愛を再確認できたわ。本当にありがとう♪真珠ちゃんと一緒にいたのに、私の元にすぐに掛けつけてくれたのが何よりの証拠よね。誠一さん、“愛してる”って何度も言ってくれたの。誠一さんの愛は本物だと確信したわ♪」
「・・・」
「真珠ちゃんは、キューピットよ♪今度みんなでお茶でもしましょう。結婚式も是非いらしてね♪」
私は可奈子に空返事をして、そそくさと電話を切った。
そして、衝動的にスマホを投げつけてしまった。
『行動が全て』
可奈子の元へ急いで向かった誠一、引き止めなかった私。それが全ての答えなのだろう。
僅かな期待を胸に、窓の下を眺め、大きなため息をついた。
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最終回:「誠一は可奈子と真珠、どちらを選ぶのか…!?」