「実は私…」一夜を共にした直後、26歳女の“ある発言”に男が一瞬で萎えたワケ
-理性と本能-
どちらが信頼に値するのだろうか
理性に従いすぎるとつまらない、本能に振り回されれば破綻する…
順風満帆な人生を歩んできた一人の男が対照的な二人の女性の間で揺れ動く
男が抱える複雑な感情や様々な葛藤に答えは出るのだろうか…
◆これまでのあらすじ
商社マン・誠一は、婚約者・可奈子が仕向けた刺客だということを知らずに、魔性の女・真珠にのめり込んでいく。真珠と誠一は一線を越えてしまい、遂に溺れる…!?
「溺愛」
「僕は真珠が好きなんだ」
30歳にもなって、こんなに熱い気持ちが自分の中に芽生えるなんて思いもしなかった。
「そんなに好きなの…?」
僕が真っ直ぐに思いをぶつけると、真珠(マシロ)は遂に僕の気持ちを受け入れ、無言で僕の手を引きゆっくりと歩き始めた。
エントランスが開き、エレベーターの中へ。
幾多の扉が開き、重厚なセキュリティを一つ一つ突破していく度に、真珠との精神的な距離も縮まっていくような感覚になる。
お互い一言も発することなく階数表示を眺め、エレベーターの中には妙な緊張感が張り詰めている。
階が上昇するごとに、繋いだ手に力が入る。僕はもう片方の手でスマホの電源を切った。
ドアが開き、僕が遂に彼女の家に足を踏み入れた瞬間、緊張は最高潮に達した。
そして、真珠が鍵をかけた瞬間…
真珠と誠一は遂に一線を超える…!?そして2人はどうなる…?
僕たちだけの空間が完成し、表面張力ギリギリまで張り詰めていたものが一気に溢れた。
僕は後ろから真珠を強く抱きしめると、彼女の肩から力が抜けるのがわかった。
常に自信に満ち溢れ強気だった真珠が、僕の腕の中ではか弱い女のように感じられた。
切ない表情で僕の方を振り返って見つめる真珠があまりにも美しくて、僕は思わずキスをした。僕たちは玄関で立ったまま、たがが外れたように唇を重ね続けた。
これ程までに自分の衝動を抑えられなくなったのは、初めてのことだった。
お互いのことが好きだということがしっかりわかってしまうようなキス。
もう、言葉は必要なかった。
靴を揃える暇もなく、吸い込まれるように寝室へ。
真っ暗な部屋の中でバカラのランプだけが、ベッドサイドで妖艶な光を放っている。
僕たちはベッドになだれ込み、お互いを求め合った。キスをする度に、僕は真珠の魅力に溺れていく。
-もう、どうにでもなれ…
この後、強面のおじさんが現れて殴られたとしても、真珠がハニートラップだったとしても、婚約者に全てがバレたとしても、それでも構わない。
あらゆる理性が溶けて本能に蝕まれていく。自分が堕落していく恐怖が大きな快楽に飲み込まれていく。
周囲の反対を押し切り駆け落ちする愚かな人間の気持ちが今ならわかる。
「真珠、愛してる…」
目の前の全てがぼやけ、溶けていき、お互いの境界が曖昧になって遂に一つになったとき、僕は真珠に愛を告げていた。
それは至極自然なことだった。
“好き”という凡庸な言葉に収まりきらないくらい肥大した気持ちは、愛していると表現する他なかった。
あらゆる柵を投げ捨てた僕らの間にはもう、遠慮も駆け引きも無用なのだ。剥き出しになった本能に全てを委ねると、正直な気持ちが自然に溢れ出てしまう。
何が起きているのか、どうしてこうなったのか、懐疑する暇もなく、夢なのか現実なのかわからない白昼夢のような快楽の中で、僕たちは何度も名前を呼び合った。
朦朧とする中で、名前を呼ばれる度にこれは現実なのだと実感する。
そして愛を告げる度に、この行為が今までのそれとは全く違い、決して性欲の為だけのものではないということを痛感するのだった。
僕を見上げる真珠の目は潤み、何故か涙がこぼれ落ちた。その涙がなんの意味を持つのか、僕にはわからなかった。
真珠が泣いてしまった理由とは…?そして二人は予想外の結末を迎える。
真珠:「理性と本能」
誠一は私を強く抱きしめた。私の理性を壊してしまいそうなくらい、強く、強く抱きしめた。
誠一が私を抱きしめる度に、彼の気持ちが痛ましいほど伝わって来る。
深い関係にならぬように全身に張り巡らせていた棘を、誠一は一つ一つ取り除くように、大切なモノを扱うように、優しく丁寧に触れてくる。
-そんなに優しく髪を撫でないで…
粗雑に扱ってくれたら良かったのに。そうすれば、性欲に突き動かされた哀れな男だと笑うことができたのに。最低な男だと嫌いになることができたのに。
-そんなに愛おしそうな目で見つめてこないで…
悲しみに満ちた唇を重ねる度に、疑念が確信に変わる。
-好きだ…
そして遂に、私たちは身体をも重ねた。初めてのことなのに、最後を噛み締めながら。絶望の中で一つになった。
こんなに気持ちのこもった行為は初めてだった。
誠一が私に愛を告げる度に、同じ言葉が喉元までこみ上げる。吐き出せたら楽なのに、そうすれば全てがひっくり返ってしまう気がして、言葉にならない思いを込めて私は何度も彼の名前を呼んだ。
そして、言葉に出せない思いが涙となって溢れた。
どうすれば良いというのだろうか。お互いが抱えている気持ちが純粋であればあるほど、罪深い気がするのだ。
私たちの間に確かに芽生えている“好き”という純粋な気持ちを、真っ直ぐに感受できたらどんなに幸せだろうか。もういっそ、溺れてしまいたい。
苦しみもがくことを諦め、このまま誠一に全てを委ね、二人で堕ちてしまおうか。
正気を失いそうになった瞬間、ふと可奈子の顔が頭をよぎる。
-真っ直ぐに生きてきた彼らを、彼らの完璧な人生を、邪魔してはならない…
私は今、確かに“本当の恋”というものの存在を感じているけれど、恋に溺れた先に幸せな結末など待ってはいないはずだ。これはドラマでも映画でもなく現実なのだ。他人の不幸の上に幸せは成り立たない。私たちは目を覚まさないといけない。
行為が終われば夢から醒めるはずだったのに、誠一は先程と変わらぬ愛のこもった目をして私を見つめた。そしてまた優しいキスを繰り返し、私を抱き寄せた。
私の目からは再び涙が溢れたが、抱き合っている限り泣き顔は見られない。誠一に気付かれないように、私は静かに涙を流し続けた。
心の中で「好きだよ」と何度も念じた。言葉に出さない限りは、罪にならない気がしたから。
そして、たっぷりと誠一の温もり感じた後、覚悟を決めて彼の身体を突き放した。
-サヨナラ…
私は赤くなった目を見られないように、誠一に背を向けて窓を全開にした。冷たい夜風が全身に突き刺さり、目が醒めるような寒さだった。
誰がいつ買ったかもわからないタバコの箱を乱暴に開けて、震える手で火をつける。大きな溜息ということを悟られないように煙を吐き、タバコを吸いながら深呼吸を繰り返した。
「真珠、タバコ吸うんだ」
「うん、誠一ってやっぱり私のこと何も知らないのね」
「え?」
「私、可奈子の友達なのよ」
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天国から地獄へ突き落とされた誠一。全てを知った誠一のとった行動とは