芸人、ミュージシャンを経てYouTuberに転身したオリエンタルラジオ・中田敦彦氏に、今後の展望を聞いてみた

オリエンタルラジオ・中田敦彦氏のYouTubeチャンネル『中田敦彦のYouTube大学』が、10月12日、登録者数300万人を突破した。

チャンネル開設から300万人達成までに要した日数は979日で、「嵐」に次ぎ歴代2位。中田氏は2ndチャンネルにおいて、今後は週休5日、1日3時間労働を宣言。仕事は、自身の運営するオンラインサロンとYouTubeの運営のみに専念する。

芸人としてブレイク後、YouTuberに転身した彼は、新刊『幸福論「しくじり」の哲学』において「成功=幸福」ではないと言う。彼が見据える未来について話を聞いた。

YouTubeスターに凌駕された”現実”

――新刊で、オンラインサロンとYouTubeに明け暮れる日々について書かれています。

YouTuberに転身する前から複数のレギュラー番組は抱えていましたし、僕はメディアで顔を見るほうの芸人だったと思います。

でも、2017年あたりから方向性を変えました。それは『PERFECT HUMAN』(オリエンタルラジオが率いる音楽グループ、RADIO FISHの楽曲)がヒットしても、漠然といしした不安がまったく消えなかったからです。

「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日)に出演しても、つねに「人の番組に出させてもらっている」という感覚がありました。

番組に自分を“最適化”してねじ込み、他人に自分のキャラクターを売り込みながら出演することに限界を感じていたというか。

実際に15年間実験してみたけれど「どうやら僕はテレビ向きじゃない」と実感したことも大きいですね。

テレビは今、50代以上の視聴者に向けて同じタレントが出演し続けている状態です。

いわば、コンテンツが新陳代謝されていない。

それに対して、「芸人が入れ替わらないのは、若い世代の人間がふがいないから」という論調もありますが、はたして本当にそうなのだろうか、と。

僕らはデビューして2〜3年で冠番組持たせてもらいましたが挫折し、そこから再び実力をつけてゴールデンの特番を持ちました。

でも結局、視聴率はとれず。そのときに見せられた数字で、30代の視聴率は取れているけれど、50代が取れていないと知りました。

あ、このプラットフォームでは、単純に求められていないんだ、と思いましたね。

「自分が単体でできるコンテンツ」を必死に探した結果、YouTubeやオンラインサロンにたどり着いたという流れです。

――ほかのSNSを利用する選択肢はありましたか。

候補には上がりました。

YouTubeもすぐバズったわけではなく、何度も何度も失敗しています。


「YouYubeで何度も何度も失敗しています」と話してくれた中田氏

もともと『PERFECT HUMAN』のミュージックビデオ(MV)をアップロードして再生回数を上げ、それを人気の証明としてテレビに出演しようと企てていました。

結果7000万回再生されて話題作りには成功しましたが、フィッシャーズや、はじめしゃちょーといったイキのいいYouTuberたちは、たった3カ月間で同じ再生回数を稼ぐんです。

それを知ったときに、『PERFECT HUMAN』と同じクオリティーの楽曲を3カ月ごとに作り出していくのは厳しい、と感じましたね。

僕が集大成で出した「元気玉」さえ、彼らはあっという間に凌駕していく。

もうそういう生命体が現れている時代なのだな、と実感して。

この出来事は僕にとってすごくスリリングで、このままでは彼らに駆逐されると思いました。

そこで、RADIO FISHのメンバーでバラエティーに似た企画をYouTubeで配信してみたんです。でも、これもまったくうまくいかない。

「もう俺、1人でやる」と躍起になってスマホ1台を部屋に置き、毎日アップロードしてみたけれど登録者数は1万人止まり。

ほかのSNSも試しましたが、InstagramのライブやLINEライブは若者向けでした。鳴かず飛ばずのチャンネルを潰したり、配信するメディアを替えたりしながら、一時はもう本気で「ダメかな」と思って。

でも、カジサックさんのYouTubeを見て、「自分は本気度が足りない」「コンテンツが精査できていなかった」と思い直したんです。

“二番目に手を挙げる”ことの重要性

――芸能人YouTuberとして動き出すまで、どのような経緯がありましたか。

カジサックさんが、2018年末の段階で「登録者が100万人に到達しなければ芸人を辞める」という発信を続けていました。

世間は冷たい目で見ていましたし、僕自身も「その数値に達している芸能人は1人もいないし、この目標は厳しいだろう」と思っていました。

だけど、登録者数が70万人を到達したあたりから風向きは大きく変わりました。

さらにその頃、僕がラジオの収録中、カジサックさんに関して放ったひと言が誤解を生んでしまい、本人を怒らせてしまう出来事がありました。

関係がもつれて電話をもらうと、「俺の動画に出て、仲直りせえへん?」と、ご本人から提案をもらいました。

そこで、実際に現場に行くと、カジサックさんのYouTubeの撮影は驚くほど刺激的でした。

1つの動画を作るのに莫大なるコストかけて、タレント自ら時間や人員を費やして真剣に撮影している――そのとき、「これは間違いなく100万人を突破する」と予感しました。

彼に「中田は教育系YouTubeやったら、ええんちゃう?」と言ってもらえたことで、有無を言わずにやろうと決めましたね。

――自身のヒットの要因はどこにあると思いますか。

僕は、イノベーター理論(新しい製品やサービスへの市場への普及率を5つのグループに分けて表したマーケティング理論)でいうと、アーリーアダプターなんです。最初にサービスを採用するイノベーターよりもリターンは下がるけれど、リスクも下がる「二番目に手を挙げるタイプ」だと自覚しています。

イノベータータイプの人は前例がなくても始められるけれど、僕はヒットの前例を見てから細かく分析するし、実験と検証をしながら、PDCA(Plan-Do-Check-Act Cycle)を回していく。だからこそ、YouTubeにも1つの成功前例がほしいと思っていたんです。

そんなとき、カジサックさんが実際に動き出して反響があったので、僕も動き出しました。

それがヒットにつながったと思います。

カジサックさんは、ある意味「芸能人YouTuber」のイノベーター的な存在ですね。

皆、失敗を恐れすぎている

――安定した芸人人生を捨て、未知なる挑戦をすることに恐怖はありましたか。

周囲からも日々、「思い切った行動ができるのはなぜ?」とか「失敗したらどうするの?」と聞かれます(笑)。正直、この質問がいちばん多いくらい。

RADIO FISHを結成して音楽を始めたときも、「お笑い芸人が音楽をやるの?」と多くの人に言われました。

でも、基本的に僕は「うまくいかないことが大前提」だと思っているんです。うまくいかないという世界観は、「1トライ、1ミス」の概念。それって、チャンスが「1回限りである」と信じ込んでいるからこそ、不安に感じている状態なんですよね。


「もしハズレたら検証したうえで、また新しい試みをすればいいだけ」と言う中田氏

僕は1トライしたら、1データが取れると思い、失敗してもすぐ2回目の挑戦に続きます。

2トライ、3ミス、3データ……。そうやって続けていくと最後には勝てるんじゃないかと。

それが正しいかどうかはわからないし、成功しない企画もザラにあります。でも、もしもハズレたら検証したうえで、またしゃにむに新しい試みをすればいいだけじゃないですか。

それを徹底的に繰り返せば、行為自体がデータになるので、まったく怖くないですね。

――その強さは、どこから来るんですか?

妻にもよく、「あなたは人に怒られることを何とも思ってない」と言われます。たしかに、ホリエモン(堀江貴文)さんとの飲み会でも、平気で途中フラッと抜けて帰ることがあって(笑)。

元来、メンタルが強いんだと思います。「ギリギリ死ななければ大丈夫」と思って生きていますし、知人からの食事の誘いにも返事を返さないことも。

それでも、相方の藤森慎吾が2011年頃にチャラ男でブレイクしたときは「俺はまだキャラが見つかってないのに」と思い焦りました。妻もいまだに「あの頃は、悩んでたよね」と。

当時、藤森のソロCMに着ぐるみを着てバーターで出演したこともありますよ。僕の顔は見えない状態で。

正直、2012〜2015年まで『PERFECT HUMAN』で2016年に見つけてもらうまで、実に5年間は悶々としていました。

そもそも「武勇伝」でヒットしたものの、その3年後、レギュラー番組がほぼ消滅したときに「お前は、もう終わったな」と面と向かって先輩芸人に言われる状態でした。

一発当たって、下がるときがいちばんキツイ。

でも、そんな時でも、自分のやることをやるしかないと信じていました。僕、ふてぶてしいし図太いんです。罵詈雑言を浴びても、あまり気にせずに眠れますしね。

「ただ、いてくれるだけで、生きているだけで大丈夫」

――しかし、オンラインサロンには、多様な価値観が集うのではないですか。


「サロンメンバーは、意識の高い人々の集まりだけではありません。人はそんなに強くないと実感しています」と語る中田氏

だから、僕のサロンは「ただ、いてくれるだけで大丈夫」「生きてさえいれば大丈夫」というスタンスで続けています。

以前はコメンテーターの仕事を通じて、世間から怖いという印象を持たれていたと思います。当時、僕が批判的なコメントを言うとすぐにネットニュースになりましたし、お笑い界でも怖がられてしまって、もう無茶くちゃでした。

実際に先輩にも物怖じせず意見を述べていましたし、「自分が変わりたいなら今すぐ動け!」と周囲にも言い続けて。

でも、お笑い業界からビジネス業界に飛び込んでみたら、ビジネスの先端を行く人は強さを持っており、気が合いました。

そこからあふれ落ちる人も見てきて、弱さも受け入れるようになりました。

現在3000人ほど在籍するサロンメンバーは、意識の高い人々の集まりだけではありません。人は、そんなに強くないと実感しています。

今では繊細なサロンメンバーを見つけると、「きっと感度が高いんだろう」と思って、事あるごとに助けてもらうようにしています。

――芸人・ミュージシャン・YouTuberとあらゆる職種にキャリアアップを続ける今、何がいちばんの「幸福」だと感じますか?

朝起きて、朝食が美味しかった。本当にそれだけで幸せなことだと思います。

ハッキリ言ってしまえば、どれだけ成功しても不安はつきまとうと思いますね。

資産が10倍になったところで「この資産が消えたらどうしよう」と感じるんじゃないかな。

今後は「承認欲求が満たされること」と「健康」。

この2つこそが、幸福を感じるための重要な尺度になってくるのではないでしょうか。

家族や仲間の中で「お前って本当すごいよな」と言ってくれる人がいたら、それ以上の幸せは本来ないはず。そう思えば、承認って意外と簡単に得られますよね。自分を承認してくれる人を確保したり、飛び込んだりすればいいだけの話ですから。

でも、多くの人は、承認してくれない人のところに行きたがります。自分を認めてくれる人の近くにいるほうがいいと、僕は思いますね。

数年後は絶対にYouTuberをやっていない

――これから先の展開を教えて下さい。


どこかの国に移住しようと思っています。英語で、世界中の人と一緒に動画を作りたくて。

海外のインフルエンサーになると、1つのアカウントで登録者数が3000万人以上いるケースがあります。

英語圏は日本語の約14倍あるし、中国語やスペイン語も影響力があるので、そういう国の人々と関わってみたいですね。

Zoomでも対談できる時代ですし、どんどん今からしゃべって世界に飛び込みたいです。

アメリカやヨーロッパ、東南アジアでも、今、コンテンツとしてどんどんYouTubeやNetflixといった動画配信サービスが台頭しています。

これからの時代、あらゆる職業が変化したり消えていったり、どんどん入れ替わると思うので、僕自身も数年後は絶対にYouTuberをやっていないと思います。