東京エレクトロンの河合利樹社長は「半導体は社会になくてはならないものになってきた」と語る。写真は宮城県大和町の東京エレクトロン宮城の社屋(写真:東京エレクトロン)

テレワークなどが拡大し、コロナ危機下にあっても好調な業績を維持しているのが半導体業界だ。人と人との接触を減らすための新たなICT(情報通信技術)が登場するためには半導体の技術革新も欠かせない。

日本勢が優位を保つ半導体製造装置の分野で何が起きているのか。国内最大手の東京エレクトロン・河合利樹社長に戦略を聞いた。

半導体は社会に欠かせない

――コロナ前とコロナ後で社会や人々の生活はどう変わりましたか。

通信や医療といった分野の重要性が改めて認識された。テレワークやオンライン授業、オンライン診療のほか、コロナの広がりをデータで解析してクラスター防止につなげるような動きも起きている。

食料の物流でもデータ分析は使われていて、アマゾンなどでは人が関わらなくても(商品を)届けられるような仕組みができている。

コロナが広がっても経済は止められない状況下で、情報通信技術の重要性が再認識された。今まではどちらかというと「便利」や「発展」という意味合いで使われていた情報通信技術が、産業のみならず社会への貢献という意味でも着目されてきた。

――いまや欠かせないものになったと。

そういうことだ。私はいつも「第4次産業革命のコメ」と言っているが、産業の領域を超えて社会になくてはならないものになってきた。

本格的なビッグデータ時代はこれからだ。例えば自動運転技術に使うセンサーなども、これまでは人が認知できるかどうかというレベルだったが、人の認知能力を超えてきている。当社が重視しているのは、世界をリードする技術革新力を持ち続け、供給すること。それによって社会や業界の発展につながるとともに、会社を発展させることができる。

――データや情報通信産業の役割が拡大する中で、半導体はどうなっていきますか。

IoT、AI、5Gといった技術によって、世界で使われるデータ量は年率20%以上で伸びていく。それに伴い、もっと早く、信頼性高く、もっと大容量で、低消費電力の技術への要求が高まっている。それらの要求を満たす半導体は成長を見込める。

2019年に4000億ドル超だった半導体デバイス市場は、2030年には1兆ドルになると言われている。1947年にトランジスタが誕生して70年ほどでこれだけの大きさになった半導体市場が、次の10年で倍以上になる。


コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

――2021年3月期の業績は売上高1兆2800億円、営業利益2750億円と、前期比で増収増益を見込んでいます。

データ量の増大に伴う半導体需要と技術革新の要求が拡大しているからだ。半導体市場は竹の節のように需給バランスの調整を見ながら成長していく。2019年にメモリ投資の調整があったのは、たまたま調整するタイミングだったからだ。

(今期の予想は)そろそろ次の投資が必要な段階になってきたので、このような予想になった。コロナ(の影響)などを見極めたうえで、このくらいの成長は見込めると考えた。チャレンジングだが、自信はある。

中期経営計画に変更はない

――新型コロナウイルスは業績にどの程度の影響があったのですか。

(2020年の)年始に、半導体前工程の製造装置市場で(前年比で)10%台後半の成長を見込むと話した。それが10%くらいの成長まで下がったので、その程度の影響はあった。


かわい・としき/1963年生まれ。1986年明治大学経営学部卒業後、東京エレクトロン入社。2001年欧州子会社に赴任。2015年副社長兼COO。2016年から現職(撮影:梅谷秀司)

ただ、東京エレクトロンの1つのパターンとして、急速な技術革新が見込めるエリアに強い傾向がある。だから市場成長が10%程度だったとしても当社としてはそれ以上の成長率(半導体セグメントで売上高13.1%増予想)を見込んでいる。

具体的には、今一番伸びているEUV(極端紫外線)露光による半導体工程の直前にあるコータ・デベロッパーという装置でシェア100%だ。露光工程の直後のエッチングや洗浄といったところでも存在感がある。

要するに、最先端の技術革新を生む分野において、東京エレクトロンの装置を通らない半導体はないということだ。そういった強い分野を押さえているからこそ、市場成長以上の成長を達成できる。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では、「開発投資に対する考え方」「コロナショックからの回復の道筋」「半導体製造装置で競争を保てるか」についても詳しく話している。