笑顔を見せながら楽しそうに練習に取り組む選手たち。写真:代表撮影

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 6月1日、ベガルタ仙台の練習場には様々な声が響いていた。

 ペース走や体幹トレーニングといったハードなメニューでは「ラストだ! 元気出していこう!」、ボール回しで互いを呼ぶ声、シュート練習では決まった時の「ナイスシュート!」、GKが止めた時の「ナイスセーブ!」。

 普段の練習であれば当たり前の、何気ない光景なのかもしれないが、久しぶりに怪我人を除く全員が揃って行なった練習となれば、それらの声が持つ意味は大きかった。
 
 例えば6グループに分かれてのペース走では、中断期間中に仙台へ復帰した西村拓真がグループを間違えるハプニングがあったが、彼を「こっち、こっち!」と呼ぶ富田晋伍や金正也の声も、明るく響いていた。勿論、新型コロナウイルスの感染防止のため、ソーシャルディスタンスをとるなど最大限の配慮をしたうえで、それらの声は発せられている。

 世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受けてJリーグの公式戦日程が中断を余儀なくされ、仙台も4月4日から約1か月間、チームとしての活動はオフになった。そして5月14日に宮城県は緊急事態宣言が解除されたことなどを受けて、18日からチーム練習を再開。しかしこの時点では、3グループに分かれて、スタート時間をずらす形で練習は進められていた。

 長いオフの自主トレーニング期間も選手たちはそれぞれのやり方で身体を動かしていたが、「やはりひとりでやるのは厳しかった」と、キャプテンのシマオ・マテは振り返る。グループ練習期間を経て、6月1日についに全体練習へ移行したことについて「やはりチームスポーツ。チームメイトとトレーニングできることが、モチベーションとしては大きなものです」と笑顔を見せる。シュート練習では反応が遅れた時に川浪吾郎から「シマオ、シェイプアップ!」と言われる場面もあったが、そうした声も含め、仲間たちとの練習に嬉しさを隠せない様子だ。

 この日の練習は、特別に報道陣に公開された。3グループに分かれて体幹トレーニング、ボール回し、シュート練習をローテーション形式で行なった時間帯もあったが、それも同じピッチ内で、同時に進行。そして最後に、紅白戦を実施した。コートサイズは少し縮められたものの、久しぶりの11対11のゲームに選手たちは活気づいた。赤粼秀平や道渕諒平がゴールを決めるなど、盛り上がりを見せてこの日の練習は終了した。
 
 リーグ戦中断前の4-4-2から新布陣の4-3-3でのゲームだったが、戦術的なものはこれから思い出し、上積みする……といったところ。まずは多くのメンバーが同じ場に揃い、紅白戦ができたことへの喜びが、プレーに表われていた。「練習が再開して初めてのゲームで、あまり考えずにやりました」と蜂須賀孝治は素直な心境を明かす。

 木山隆之監督もまた、その紅白戦の様子を見守りながら、「僕自身も見ていて、プレーをすること、試合をすることは楽しいと感じましたし、やっている選手たちもきっと感じたと思うので、そういう気持ちを大事にしながら、よりレベルアップしていきたい」と全体練習にまで戻ってきたことの喜びを噛みしめていた。
 
 再開後のリーグ戦では過密日程が予想され、ひとりでも多くの選手たちの力が必要になる。スペインで回復をはかっているイサック・クエンカのような負傷者の復帰も待ちながら、指揮官は「少しどっしり構えて、いろいろなことに柔軟に対応していけたら」と、選手やスタッフとともにこの先を見据える。

 7月4日のリーグ戦再開まで、チーム内競争も、戦術の浸透も、まだまだこれから。しかし、多くの“声”が戻った6月1日、仙台はまた新たな一歩を踏み出した。

取材・文●板垣晴朗(フリーライター)

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