ラブホテル評論家である私のもとには「新型コロナの影響でラブホテルも閑古鳥なのか」「逆にみんな行くところがなくて賑わっていると聞いた」など、様々なメディアから問い合わせが入る。その返答をここプレジデントでさせていただこうと思う。
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■関西圏のラブホテルがコロナで苦しんでいるワケ

毎年春になると京都のラブホテルでは、桜を愛でる外国人観光客で溢れかえり、予約が取りにくくなる。これまでインバウンド需要で深刻な宿不足が叫ばれていた関西圏はとくに、ラブホテルが観光客を取り込もうとする動きが強かった。ブッキングドットコムやアゴダといった世界的なホテル予約サイトに掲載し、手堅く訪日外国人を取り込む。それだけではなく、ホームページを多言語対応にし、フロントに外国語を話せるスタッフを配置するなど、東京五輪や大阪万博に向け、勝ち組になるべく生き残りをかけて大きく舵を切っていたホテルは実際多い。

それは、例えばアゴダで東京のラブホテルの掲載数が約1万8000軒なのに対し、大阪で約1万7000軒、京都で約7400軒という数字からもわかる。

あまり知られていないが、ブッキングドットコムでもアゴダでも「ラブホテル」で検索すると、「大人専用」としてヒットする。「大人専用」のホテルは、ブッキングドットコムでは日本以外にもブラジルやロシア、ベトナム、フランス、メキシコ、ペルー、ベルギー、カザフスタン、アルゼンチン、タイ、マレーシアでも確認できる。

掲載件数が日本に次いで2位に君臨するのは情熱の国・ブラジル。これは、2016年のリオ五輪の影響という説もある。どこの国でも、五輪が開催されるとなれば宿不足になるということなのだろう。

■五輪に向け、観光客にシフトしたラブホテルたち

ラブホテル業界には「3つの黄金バランス」というものがある。不倫・風俗・一般的なカップル。この3つの利用者層で満遍なく回転しているホテルが儲かると言われている。ここ数年は、一般的なカップルの利用が減少してきたため、女子会やパーティーなど、複数人での利用や同性同士の利用、ビジネス利用やおひとり様、観光客を取り込むことでバランスを保ってきた。

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現在ダメージを受けているのは、風俗利用客に多く支えられていたホテルと、観光客にシフトしてしまったラブホテルだ。風俗は濃厚接触必須であり、観光客に関しては、当然ながら国内客もインバウンド客も壊滅的な状況だ。

風俗客で潤うホテルはルームサービスや無料レンタル品などのサービスにそれほど力を入れていない。一方、観光客をメインに扱うラブホテルは、リピーターよりも一見さんの獲得に注力する。つまり、変わった設備や最新アイテム、話題になりそうな変わり種サービスなど、飛び道具的な特徴を前面に打ち出してきた。

それぞれ、利用者層に合ったサービスを展開してきたが、ここにきて「もとからいた顧客を大切にしてきたホテル」が生き残っているのだ。

■コロナに打ち勝っているラブホテルもある

東京五輪の開催が決定し、大阪万博も決まり、切れ者のラブホテル経営者ほど観光客獲得にシフトする傾向が強かった。それは至極真っ当な経営者判断であるし、全力で結果を取りに行くなら、ほかの道は切り捨てることもやむなし、と舵を切ったオーナーを誰も責めることはできない。だって、まさか、五輪が延期になるなんて、誰も思ってもいなかったのだから――。

今まで当然だったことが当然ではなくなり、“まさか”が起こりうる世の中になっている。

情報すら不確かななかでも、都内を中心に、お客様ファーストでホスピタリティマインドの高いラブホテルは、ホームページに「コロナ対策」を掲載している。ホテルスタッフ全員マスク着用、多くの人の手が触れるロビーの手すりやドアノブや客室内の除菌などを実施している旨を伝え、顧客に安心して利用してもらえるよう積極的にアピールしているのだ。

こういったホテルは、日頃からアンケート調査を積極的に行い、利用者からの意見をサービスに反映し、口コミサイトの投稿には御礼とともに返信するなどして、顧客との繋がりを大切にしてきた。つまり、風俗客や一見さんメインで運営せず、一度でも利用してくださったお客様の声を大事にし、長い年月をかけて顧客との信頼を築いてきたホテルだ。そういったホテルは今回の新型コロナでも、それほどダメージを受けているとの話は聞かない。

■東横イン・アパホテルに続け、ラブホテル

それでは、観光客にシフトしたホテルが多い関西はどうだろうか。

「サンテレビジョン」という関西のローカル局には、古くは「おとなの子守唄」「今夜もハッスル」「おとなのえほん」など、数々のお色気深夜番組を生み出してきた“伝説のエロ枠”というものがある。その“伝説のエロ枠”の企画制作を長年担当しているダイフク企画の吉田氏に、関西ラブホの景気動向を伺った。

「全体的には良くないけれども、一般客を大切にしていたホテルは持ち堪えています。むしろ、売り上げが伸びているホテルもあります」

世の中の情勢や景気、災害など、状況が厳しい中でも、それらに左右されず、売り上げを伸ばすラブホテルがある。勝ち組負け組の二極化が進んでいるが、最後に勝つのは、やはり、「顧客に愛され続けるホテル」だ。

災害時には、自主的に客室やお風呂を市民に開放したラブホテルもある。厚生労働省は4月2日、新型コロナウイルスの軽症、無症状の感染者に対し、状況によっては自宅や自治体が借り上げたホテルで療養してもらう考えを明らかにした。

ホテルの借り上げ費用は、新型コロナの緊急経済対策の財源を裏打ちする補正予算案へ盛り込む方向だという。

東横インは新型コロナウイルスの軽症、無症状の感染者を収容すると発表した。アパホテルも、全面的に受け入れる意向がある旨を伝えている。

ラブホテルは、建設時に学校や病院など公共施設から200メートル以上の距離を置くという規制はあるが、繁華街から近く、何かあれば近隣の病院から医師や看護師が駆けつけることができる距離にあることが多い。入浴設備も整っており、ルームサービスでの食事も可能だ。最近では大きな窓のあるラブホテルも増えているから、換気だって問題ない。

たとえば今回、大阪府は100室以上の一棟単位で貸し切れることを借り上げの条件にしていた。今後、さらなる感染拡大にともないこの条件も変わるかもしれない。客室数の少ないラブホテルでも、従業員の安全を確保できるのであれば、患者の受け入れ、医療従事者の宿泊について、喜んで挙手するオーナーも出てくるはずだ。

ラブホテル評論家 日向 琴子)