自己肯定感を高めるために大切なこととは?(写真:ふじよ/PIXTA)

SNS上や書籍などのメディアで、自己肯定感という言葉を目にしたり、聞いたりすることが多くなりました。

拙著『職場の人間関係は自己肯定感が9割』でも詳しく解説していますが、自己肯定感とは、「ありのままの自分を、かけがえのない存在として、好意的・肯定的に受け止める」感覚のことです。自己肯定感は、仕事や人間関係、自己実現など、あらゆる領域の質を上げるための土台となります。

4カ国の自己評価の結果

国立青少年教育振興機構が発表した、日本、アメリカ、中国、韓国の4カ国比「高校生の心と体の健康に関する意識調査」という報告書があります。結果は、次のようなものです(質問に対し、「そうだ」「まあそうだ」と回答した人の割合を紹介)。

「私は価値のある人間だと思う」――日本44.9%、アメリカ83.8%、中国80.2%、韓国83.7%。

「私は今の自分に満足している」――日本41.5%、アメリカ75.6%、中国62.2%、韓国70.4%。


(出所:『職場の人間関係は自己肯定感が9割』)

自己肯定感に関する項目では、他国との数値の開きが顕著であると指摘されています。

謙遜や照れ、思春期という要素を考えて、それを差し引いたとしても低い結果だと言えます。残念ながら、大人の自己肯定感の調査をしたものはこれまでありませんが、大人になっていきなり自己肯定感が高くなるとは考えにくいでしょう。

自己肯定感が下がってしまうと、自分を信用できなくなります。自信がなくなり、もともと持っている能力を下げてしまうのです。自己肯定感は、いつからでも高めることができますが、その方法を知らなければ仕事に支障が出ることが多くあります。

自己肯定感が下がると、仕事の成績も下がる

ビジネスパーソンが抱えるストレス調査(2018年)がチューリッヒ生命によって行われました。

「勤め先でどの程度ストレスを感じているか」という質問に、「非常にストレスを感じている」「ややストレスを感じている」という回答をした人は、男性71.6%、女性75.2%となりました。その原因1位は、「上司との人間関係」、2位「同僚との人間関係」となりました。

以前、私のもとにご相談にいらっしゃったHさんのお話は、自己肯定感と人間関係が密接につながっていることを証明しています。

Hさんは、成果を上げて部長に昇進しましたが、配属された部署で部下との関係で悩むようになりました。Hさんは、若くして部長になった、能力が高い人です。

部長となり、部下とのコミュニケーションに苦慮し始めると、仕事で思うように結果を出せなくなっていきました。「自分はみんなに受け入れられていない」と感じるようになり、部下とのコミュニケーションはどんどんぎこちなくなってしまったのです。

この頃から疎外感を抱くようになります。年上部下がいたこともあり、とても気を使っていたようです。なんとかしたいと思いながらも、傷つきたくない気持ちから、誰も寄せつけない雰囲気を自分でつくってしまいました。そのような状態の日々が続くと、取引先との関係もうまくいかなくなったのです。

Hさんは、実績もあり、社内ではエース的な存在でした。自信満々の人でしたが、売り上げを伸ばすことができなくなり、追い詰められていきました。もともと、Hさんを支えていたのは仕事の成果と、上司からの評価でした。その支えがなくなると、一気に自己価値が保てなくなったのです。自己肯定感が下がったと言えます。

私が自己肯定感を高めるステップをお伝えすると、Hさんは徐々に自己肯定感は高めていきました。3カ月を過ぎた頃には、部下に自分から声をかけられるようになり、周りとの関係が見違えるほどよくなったのです。そこで、やっとHさんはスランプを抜け出すことができました。

もともと能力が高い人でも、自己肯定感が下がってしまえば、結果が出せなくなる代表例です。さまざまな要因で自己肯定感が下がってしまったとしても、それを挽回することはいつからでも可能です。そのためには、自己肯定感には2つの種類があることを知ることが大切です。

自己肯定感は、2つの部分から成り立っています。土台となるのが「絶対的自己肯定感」で、その上に積み上げていくのが「社会的自己肯定感」です。

「絶対的自己肯定感」とは、「自分の存在そのものを認める自己肯定感」のことです。他者と比べて優れている点があるから自分を肯定できる、という感覚ではなく、自分の弱いところ、ダメなところも含めて自分が存在していること自体を肯定する、存在レベルの自己肯定感です。

「社会的自己肯定感」とは、「他者からの評価や相対的評価からなる自己肯定感」のことです。仕事の成果や、社会、他者からの相対的な評価、達成の経験、成功の体験を基に自分を肯定的に受け止めることで育まれます。

重要なのは絶対的自己肯定感

どちらの自己肯定感も大事なものですが、必ず持っていなければならないのが絶対的自己肯定感です。なぜなら、社会的自己肯定感は、他者評価や結果などが拠り所となるので、外的要因に左右されやすく、揺らぎやすいからです。あくまでも、社会的自己肯定感は、絶対的自己肯定感を持った後に積み重ねることが大切です。しかし、絶対的自己肯定感が不足している人が多いため、今、仕事の現場では大きな問題が起こっています。

では、自己肯定感はどのように高めればいいのでしょうか。

◇絶対的自己肯定感を高める5ステップ

社会的自己肯定感は、経験や時間が必要で、外的要因にも影響されるので、ここでは絶対的自己肯定感を高める方法をご紹介したいと思います。絶対的自己肯定感が高まることで、自信が生まれ、さまざまな能力も底上げされます。つまり、絶対的自己肯定感が、実績や評価をつくる土台とも言えるので、次のステップを実践してみてください。

ステップ1 ありのままの自分を認める
ステップ2 ありのままの自分を受け入れる
ステップ3 ありのままの自分を大切にする
ステップ4 自分の価値を感じる
ステップ5 自分を信頼する

ステップ1【ありのままの自分を認める】

今の自分を直視して、自分をあるがまま見てあげましょう。いいところだけではなく、嫌だと思うところや弱点、短所も含め、まるごと自分を認めます。さまざまな気質や要素を持っている自分を「いい、悪い」で判断せず、ただ認めるのです。

ステップ2【ありのままの自分を受け入れる】

ありのままの自分を認めたら、その自分をまるごとOKしてあげましょう。ポジティブさもネガティブさも持った人物「これが自分」と受け止めてあげます。

ステップ3【ありのままの自分を大切にする】

心身ともに、自分を心地よくしてあげます。自分の感情や気持ちを理解して、どんなときも自分の1番の味方になり、自分に愛情を注いであげるのです。ステップ3までで、自分をより承認できるようになり、自己評価は高まります。すでに、自己肯定感は高まっていると言っていいでしょう。

ステップ4・ステップ5は?

ステップ4【自分の価値を感じる】

さまざまな経験を重ねていく中で、自分の行動や言動、努力に対して「自分はよくやった」と自分で認めると、自己評価の向上につながります。

ステップ5【自分を信頼する】

自分の価値を感じられるようになると、外的状況はどうあれ、自分を信頼できるようになります。


ここまでできれば、自己肯定感は高まり、自分への絶対的な信頼感が持てます。

これからやることに対して「自分ならできる」「自分がやることはうまくいく」と未来を信じることができるようになります。これを自己効力感と言います。

この感覚が持てるようになると、自分の可能性や能力を信じることができるので、困難に打ち勝つことができるようになるのです。

自己効力感は、カナダの心理学者アルバート・バンデューラ博士によって定義されました。彼は、こう言います。

「自己効力感を持てると、人は逆境にあっても、それがよい方向へ物事を変化させていると信じられ、自分の能力に対して楽観的で肯定的な見方ができる」(『激動社会の中の自己効力感』金子書房より)

5つのステップで自己肯定感は高められ、自己効力感も持てるようになるので、ぜひ実践してみてください。