渋谷にある夜パフェ専門店「Parfaiteria beL(パフェテリア ベル)」の夜パフェ。左が定番の「ピスタチオとプラリネ」1600円、右が季節商品の「傘 時々…シャイン」1800円(筆者撮影)

「夜パフェ」あるいは「〆パフェ」という北海道発のスタイルが、東京でも密かに支持を集めつつある。

文字どおり、夜間、食事や飲み会の後にパフェを食べることだ。

大人の〆スイーツ、夜パフェの魅力

東京でのブームの震源地となっているのは、夜パフェ専門店「パフェテリア ベル」。運営しているのは北海道・札幌市を本拠地とするGAKUという企業で、ほかにリゾット専門店、夜パフェ専門店などを8店舗展開している。

2017年10月、渋谷に「パフェテリア ベル」をオープン、わずか1〜2カ月の間に行列のできる店となり、2019年6月には池袋に姉妹店の「モモブクロ」をオープンした。

スタートダッシュの決め手は、夜パフェという物珍しさに加えて、なんと言ってもパフェの美しさにある。写真映えからSNSで評判が広まり、マスコミにも早々に取り上げられたようだ。


「パフェテリア ベル」など、東京の夜パフェ専門店をとりまとめているGAKUの河口典剛氏(筆者撮影)

渋谷の店をとりまとめている東京支部長の河口典剛氏に、夜パフェ専門店の狙いを聞いた。

「帰宅後や飲んだ後に甘いものが食べたくなるという一定のニーズがあると思います。しかし、パーラーやケーキ店は早くに閉店するので、凝ったスイーツを食べようと思ってもなかなか難しいですよね。そこで、2015年に本店である『パフェテリア パル』を立ち上げました」(河口氏)

同社はもともと、2006年に立ち上げたリゾット専門店でスタート。

オーナーがスイーツ好きのため、同店でも手作りのこだわりスイーツを提供してきた。別業態であるパフェ専門店に手を広げられたのもそのためだ。

パフェ専門店本店および姉妹店は、かの歓楽地ススキノのはずれにある。
今回取材した「パフェテリア ベル」も、道玄坂の飲み屋が林立する界隈に位置する。


同店は飲み屋街に林立する、古いビルの一隅にある(筆者撮影)

女性のいるバーなども入居するビルの階段は、コンクリート打ちっ放しのなにやら隠微な雰囲気。しかし同店の入り口を1歩入ると、アートでいっぱいの明るくておしゃれな空間が広がる。

営業時間は平日は午後5時から午前12時(金・土・祝前日は午前1時)だが、いちばん混む時間帯は午後9時から10時の間だそうだ。

訪れる客は日に120〜150人で、客層は女性同士やカップルなど。7割は女性客だ。7〜8時間の営業時間で120〜150人ということは、22席がほぼ満席でフル回転が続く状態ということになる。1時間程度の時間制にしているそうだ。

同店のパフェの第一の特徴はオリジナリティー。イタリア料理のシェフで、スイーツにもこだわりの強いオーナーが考案するだけあって、まるでアートのようだ。

メニューは6種類で、定番の「プリンセス ベル」「ピスタチオとプラリネ」の2種類のほかは、旬の果物を使った期間限定のパフェが4種類そろっている。メニューは大まかに、月に1〜2種類を入れ替えているそうだ。

「味の特徴は、甘さ控えめに仕上げていることです。昔ながらの、スポンジや生クリームをたっぷり使ったパフェだと、夜に食べるには重すぎますので。シロップ漬けのフルーツを使ったら、上にかけるジュレは甘味を加えないなど、全体のバランスで考えています。またいろいろな食材を取り交ぜて、味、食感に変化を出しています」(河口氏)

確かに、メニューを見ると、1つのパフェに使われている食材の多さが目を引く。例えば秋限定の「栗拾いボンボン」は、フルーツ、ナッツ、クリームなど全部で18種類が使われている。

価格に見合ったクオリティーとサービスを志す

それだけに、単品で1600〜1800円、飲み物とのセットで2000〜2100円と安くはない値段設定だ(価格は店によって異なる)。


壁に描かれたアートは、美術の専門学校出身の社員の手によるものだという(筆者撮影)

「その分、商品やサービスのクオリティーを高めています。完璧にできているかと言われれば断言はなかなか難しいのですが、オーダーなどをしたいときなど、求められたタイミングでパッと応じられる、毎回お客様をお見送りする、といったところに留意しています」(河口氏)

パフェの制作に2人、ホールに4人という体制で、席数22席のスイーツメインの店としては多めだ。パーツはあらかじめ仕込んでおいたものを、注文を受けてから3〜5分ほどで組み立てるという。とくに金曜日は客が多いため、朝から営業前までの間に仕込み専門の人員を投入して、パフェの具材を準備しておくそうだ。

「お客様の声を聞くと、丁寧に作られているのに感動する、うれしい、といった内容が多いです。どんなに忙しくても、盛りつけが乱れたりしないように注意しています」(河口氏)


「ピスタチオとプラリネ」1600円(筆者撮影)

では肝心の味はどうか。定番と季節限定の商品をそれぞれ試食してみた。定番から選んだのは「ピスタチオとプラリネ」。プラリネ、ピスタチオなど、ナッツ味のクリーミーなジェラートが味のメインになっている。

さらに、パフェ特有の高いグラスに、ブランマンジェ、ムース、ジェラート、ソースなどが何段階にも積み重ねられているので、1すくいごとに、毎回違う味を楽しめる。そして長いスプーンを駆使しても、なかなか底まで行き着くことができない。チョコレートやカラメル、ナッツなど、味の相性がよい素材を組み合わせてあるのも特徴だ。

季節商品からは、「傘 時々…シャイン」を選んだ。今流行の水玉模様を取り入れた、アンブレラ状の姿がかわいらしい。水玉はグラスに描かれた模様かと思ったら、丸くかたどったゼリーで作られていた。


季節商品の「傘 時々…シャイン」1800円(筆者撮影)

グラスの表面いっぱいに敷き詰められたシャインマスカットの下には、クレーム・ダンジュ(レアチーズケーキ)。そのほかやはり、何段にもわたってさまざまな味のムース、ジェラート、アロエなどが積み重なっている。1さじの中に、いろいろな味わいが交ざって深みを醸し出す。こちらはマスカット主体に、酸味を合わせてサッパリと仕上げてあるので、より夜パフェらしさが際立っている。

すべてを味わい分けるのは難しいかもしれないが、メニューをつぶさに見ると、ジェラート1つとっても、数種類の食材を混ぜ合わせているなど、構成の複雑さ、考案したオーナーのこだわりが見てとれる。

なぜ夜パフェというスタイルが発生したのか

河口氏によると、同店のオープン以来の客足は右肩上がりで、とくに2年目からの伸びが大きいという。一方、池袋にオープンした「モモブクロ」は若干客層が若く、まだ認知度も低いのか、渋谷店ほどの盛況には至っていないようだ。

同社ではほかに、都内で2店舗のオープンを予定しているが、夜パフェ専門店になるのか、それとも他の業態になるのかは未定とのこと。

それにしても、なぜ札幌で夜パフェという特異なスタイルが発生したのだろうか。札幌パフェ推進委員会に聞いた。

同会は、「地域の食文化」である〆パフェを全国に広め、札幌を代表する観光資源にするという目的で、札幌の〆パフェ専門店が2015年に立ち上げた委員会だ。現在はGAKUが運営する店も含め、市内の26店舗が加盟している。

同会によると、飲んだ後の〆パフェは10年以上前からある習慣で、始まった時期も、始めた店も不明だという。

しかし、新鮮な牛乳からつくられる乳製品、とれたての地元の果物など、おいしいものが多い土地であることは大いに関係があるだろう。また「1世帯当たりの酒類支出金額」「1世帯当たりのケーキ支出金額」といった多くのデータから、札幌市民は甘い物やお酒を好む傾向が見て取れるという。

加えて、北海道の冬にアイスクリームを食べる習慣も関係しているかもしれない。これには理由がある。寒さが厳しい北海道では、暖房が完備されており部屋の密閉性も高い。外と中の激しい気温差により、室内では体内の水分が蒸発しやすく、結果的に喉が渇く。そのため、暖房のきいた室内で冷たいアイスを食べたくなるのだという。北海道は家庭における冬のアイスクリーム出費が全国平均より高いというデータもある。

地域や観光活性化にも貢献できるか

このように、「冬でもアイスを我慢しない」という甘い物への寛容性が、「夜でもパフェを我慢しない」に導かれたと考えることはできないだろうか。

また、若者の酒離れも背景にあるようだ。札幌パフェ推進委員会では、「飲みたい人と飲めない人が共存できる、お酒とパフェを提供する〆パフェ店の人気が高まり、さらにカラオケやバーなどの2軒目需要としての選択肢にもなっている」と考察している。

同会では調査をしたわけではないが、〆パフェブームや会の発足が地域や観光活性化に影響していると見ている。また、地域食材を取り入れられることから、札幌以外でも観光コンテンツとして有効なのでは、という。実際に、静岡や名古屋などの地域でも〆パフェがブームになりつつあるそうだ。

「ナイトタイムエコノミーなどを課題としているところでは、起爆剤になりうるのではないでしょうか」(札幌パフェ推進委員会)

このように、大きな可能性を持っている夜パフェ、〆パフェ。インバウンドに向けたナイトライフ観光の充実も視野に、さらに育っていきそうな予感がある。