by kschneider2991

テロによる攻撃は社会に大きな衝撃を与え、直接的にも間接的にも人々の生活を脅かします。そんなテロ攻撃を「銀の価格変動」に基づいて予測するという研究が発表され、金融経済学を研究するBen Marrow氏が研究の内容について解説しています。

Terrorism Financing, Recruitment and Attacks: Evidence from a Natural Experiment by Nicola Limodio :: SSRN

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3384109





Marrow氏が解説する論文はイタリア・ボッコーニ商業大学で金融学の准教授を務めるNicola Limodio氏によるもので、「テロリストの財政、人員募集と攻撃」と題されています。「銀の国際価格の変動によりテロ攻撃の確率を予測できる」と主張するこの論文は、シカゴで開催されたPolitical Economy of Finance conferenceで発表されました。

パキスタンではイスラム教国家としての体制が整えられており、イスラム教の信者に課せられた五行の一つ、ザカート(制度喜捨)の思想を税制に組み込んでいます。ザカートはムスリムが所有する財産のうち2.5%を救貧のために寄付することを義務づけるもので、パキスタンではザカート評議会が宗教省のもと、一定以上の財産を持つ富裕層の銀行口座から2.5%を税金として徴収しています。

ザカートによる課税は、「銀に換算して612.32グラムに値する財産を持つ者」に対して行われます。銀612.32グラムを記事作成時点の価格で換算すると、およそ4万3000円ほど。もちろんこの金額は銀の価格が上下するのに伴って変動するため、パキスタン政府は徴収の際に銀の価格を参照し、対応するしきい値を超える全ての人に対して2.5%を課税します。



by stevepb

ザカートが徴収される時点での銀価格が高かった場合、「例年なら2.5%課税されるところを、たまたま無課税で済んだ人」が現れます。これらの人々はイスラム教の精神に則り、増加した分の可処分所得を慈善団体へ個人的に寄付することが多いとのこと。

以下のグラフでは横軸が銀の価格を、縦軸が慈善団体への寄付金額を示しています。銀の価格が上昇して課税を逃れた人が増えると共に、寄付金額も増加していることがわかります。



こうして寄付された資産のうちいくらかは、意図しているかどうかにかかわらず、テロリストが運営する慈善団体に納められます。この追加資金により、テロリストグループは通常よりも多くのテロ攻撃が可能となるのではないかと、Limodio氏は考えました。つまり、「銀の価格が上昇→ザカートの基準額が上がって課税を逃れた人が増える→慈善団体への寄付が増加→結果的にテロ組織の資金が潤沢となる→テロ攻撃が増える」という仮説が立てられたわけです。

ザカートによる納税義務はイスラム教スンニ派のみに課せられており、ラマダーン(断食月)最初の日に税が取り立てられます。そのため、ザカートによる課税を逃れて寄付するのはスンニ派の人々であり、ラマダーンの時期に寄付が行われるという予測が立ちます。これらの点から、Limodio氏は銀の価格と、ラマダーンの間にパキスタンで発生したスンニ派テロ組織の攻撃に焦点を絞って研究を行いました。

以下のグラフでは青い線が銀の価格を示しており、赤い線はスンニ派とシーア派、どちらのテロ攻撃が相対的に多かったかを示しています。赤い線が上にいくほどスンニ派のテロ攻撃が相対的に多いことを示しており、銀の価格が上昇するにつれてスンニ派のテロ攻撃が増えている傾向が見てとれます。



Marrow氏はLimodio氏の論文について、「信じられないほど素晴らしい」とコメントしました。