サリドマイドによる奇形発生の仕組みを解明 新薬開発に期待 東京医科大など
薬は病気を治療するものだが、同時に副作用を持つという側面がある。過去の大きな薬害のひとつが、1950年代におこった「サリドマイド」による薬害であろう。睡眠薬や胃薬として販売されたこの薬を服用した妊婦から、奇形のある新生児が生まれ大きな問題となり販売中止、回収となっていた。
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しかし、サリドマイドはその後、ハンセン病や血液のがんに大きな効果を示すことがわかってきた。今回の研究では、サリドマイドが奇形を引き起こしたメカニズムが解明された。この結果により、今後副作用を起こさず安全に効果をあらわすサリドマイド系の薬剤開発が期待される。
研究に参加しているのは、東京医科大学の半田宏特任教授と伊藤拓水准教授、東京工業大学の山口雄輝教授、イタリア・ミラノ大学のルイーサ・ゲリーニ(Luisa Guerrini)博士らの国際共同研究グループ。
ユビキチンは、真核生物が持っているタンパク質の一種で、「タンパク質の品質管理」とよばれる異常または不要なタンパク質の除去の他、DNA修復や情報伝達など様々な役割を果たしている。このような働きの違いは、複数のユビキチンがどのように結合しているかによって生じている。
不要なタンパク質にユビキチンを目印としてつける酵素ユビキチンリガーゼを構成しているのが、セレブロンというタンパク質である。サリドマイドが、このセレブロンに作用しユビキチンの働きを変化させることで、薬効を示すことがこれまでにわかっていた。しかし催奇形性が生じるメカニズムはまだわかっていなかった。
研究グループのメンバーであるゲリー二博士は、p63というタンパク質が手足や耳の発生に重要な物質であるとして研究を行ってきた。今回グループは、サリドマイドがセレブロンに作用すると、p63が分解されるようになることを培養細胞を用いて明らかにした。
次いで脊椎動物のモデルとして、ゼブラフィッシュを用いてサリドマイドとp63や催奇形性の関連性を調べた。サリドマイド耐性p63を持たせたゼブラフィッシュにサリドマイド処理したところ、耳や胸びれ(手足に相当)の奇形が抑えられた。つまりサリドマイドによる催奇形性はp63が分解されることと関連していることがわかったのだ。
さらにサリドマイドが、耳や胸びれの形成に重要な増殖因子の発現を抑えることがわかった。つまりサリドマイドがセレブロンに作用すると、これまで分解していなかったp63を分解するようになる。その結果耳や胸びれの細胞が正常に増殖せず奇形が生じることが明らかになった。
ハンセン病や血液のがんの治療のため、現在は厳重な注意のもとで使用されているサリドマイドだが、今回の研究により、p63の分解を誘導しない、催奇形性を持たない安全なサリドマイド系の薬剤開発が期待される。
研究結果は8日、Nature Chemical Biologyに掲載された。
