治癒証明書について、医師の受け止め方とは?

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 インフルエンザが猛威を振るっていますが、感染して会社や学校を休んだ人にとって気がかりなのは、どのタイミングで会社や学校に出勤・登校したらよいのか。その“担保”として、医療機関が発行する「インフルエンザ治癒証明書」がありますが、厚生労働省は昨年11月、治癒証明が難しいなどの理由から、「季節性インフルエンザの治癒証明書の発行を求めるのは望ましくない」との見解を示しました。

 治癒証明書を求められることについて、現場の医師の受け止め方とは、どのようなものでしょうか。内科医の市原由美江さんに聞きました。

「陰性」でもウイルス排出の恐れ

Q.インフルエンザで会社や学校を休むとき、休む必要がある日数はどれくらいですか。

市原さん「学校保健安全法施行規則では『発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで』出席停止とされています。発症とは、一般的に発熱したことを指します。発熱した日や解熱した日はカウントに含めず、発熱した翌日から数えて5日、かつ、解熱した翌日から2日は自宅で安静にする必要があります。

大人の場合、法による基準が設けられていないので、それぞれの会社の判断にはなりますが、学校保健安全法と同じ期間で出勤停止期間を設けているところが多いようです」

Q.この冬、インフルエンザ治癒証明書を発行しましたか。

市原さん「私の勤務先のクリニックは、高校生以上の人が受診します。この冬の流行期に入って、インフルエンザ治癒証明書を発行したのは、今のところ学校から治癒証明書の提出を求められた高校生1人のみです。地域差が大きいと思いますが、大人で会社から治癒証明書の提出を求められるケースは少ない印象です」

Q.大人の場合、会社に何らかの証明書の提出を求められることは少ないのですか。

市原さん「大人の場合、インフルエンザの診断と同時に、会社へ提出する診断書を求められることがあり、約3割の人に発行しているのが現状です。この診断書は『インフルエンザの診断のため○日から○日まで自宅療養を必要とする』という内容です。

しかし、『○日まで』とした日に診断をするわけではなく、本当に治癒しているかどうかは分かりません。要望があるので対応していますが、形式的な文書と対応であり、実際に症状が軽くなって働けるかどうかの判断は本人次第です」

Q.「インフルエンザが治癒した」とは、どのような状態になってそういえるのですか。

市原さん「インフルエンザウイルスは、発症後3〜7日間体外に排出されるといわれています。抗インフルエンザ薬を服用すると、インフルエンザウイルスの増殖が防げるため、この期間よりは短くなる可能性が高いです。しかし、個人差が大きく、咳(せき)やくしゃみなどの症状が続いていれば、ウイルスを体外に排出している可能性があります」

Q.インフルエンザが治癒したことを検査で見極めることは可能ですか。

市原さん「そもそも、検査で証明することは不可能です。インフルエンザが治癒しているかどうかを確認するために『インフルエンザ迅速キット』で検査する方法がありますが、まだインフルエンザウイルスが体外に排出されていたとしても、結果が陰性になることがあるからです。

解熱後はウイルス量が減っていきますが、個人差が大きく、何日たてばウイルスが体外に完全に排出されないかは医師が診察しても分かりません」

別の感染症にかかるリスクも

Q.治癒証明書のシステムをどのように思われますか。

市原さん「そもそも、治癒を証明することは難しいため、会社や学校は治癒証明書の提出を求めることを自粛してほしいと思います。医療機関は、患者さんから治癒証明書の作成を依頼されたら断れません。依頼する側が変わってもらえると助かります」

Q.治癒証明書を求める人は再度、医療機関を受診する必要がありますが、証明書を求める受診者により、通院中の患者が不利益を被ることは。

市原さん「冬の時期は、風邪やインフルエンザで病院を受診する人がかなり増えます。また、医師が治癒証明書を書く時間が必要なため診察時間が長くなります。会計時の事務的手続きもプラスされ、定期的に通院している患者さんや急患の方の診察待ち時間、会計待ち時間が長くなると考えられます」

Q.治癒証明書を求める人が再度、医療機関を受診する際、ノロウイルスなど他の感染症や別のタイプのインフルエンザにかかってしまう恐れはないのですか。

市原さん「インフルエンザが治癒したばかりの頃は、まだ免疫力が低い状態です。再度医療機関を受診して、他の感染症をもらう可能性は考えられます。また、A型のインフルエンザにかかった後でも、再度A型にかかることもありますし、B型にかかることもあります。感染対策をしっかり行って再受診することが必要です。

逆に、他の患者さんにインフルエンザを感染させてしまう可能性もあります。解熱して2日経過していたとしても、ウイルスが体外に排出されていることもあるからです。どうしても証明書が必要であれば、感染を広げないためにもマスクをして受診しましょう」

Q.栃木県大田原市などでは、子どもを対象にインフルエンザの「受診報告書」を治癒証明書の代わりにしています。医師が診断を書いた後、保護者が、発症後5日、解熱後2日経過するまで子どもの体温を測定して記載し、報告書とするそうです。

市原さん「受診報告書を活用することは、とてもよい取り組みですね。再受診するための時間や費用、家族の負担も軽減されます。繰り返しますが、治癒の証明は難しく正確ではありません。解熱して2日経過してもウイルスが体外に排出されていることもあります。咳などが残っている場合は、無理をせず休む。家族も休ませるようにしましょう」