ゲームのオープニングムービーを静止画だけから創る! AIにはできないセンスとデザインにこだわるマウンテンスタジオ 佐藤太郎氏

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任天堂が個人のゲームプレイ動画のネット投稿と配信への許可を表明する画期的な発表があり、ネットでは称賛のコメントが多く寄せられた。

それだけゲームにとって、動画コンテンツの重要性は高い。
ゲームの動画には、発売後のプレイ動画のほかにも、発売前に話題となる動画もある。

そう、ティーザー映像やオープニングムービーだ。
人気ゲームのティーザー映像や衝撃的なオープニングムービーに心躍らせた。
そんなユーザーも多い。

このティーザー映像やオープニングムービーは、どんな人たちが創っているのだろうか?

今回は、株式会社マウンテンスタジオ 佐藤太郎(34歳)氏に聞いた。
佐藤太郎氏は、クリエイティブディレクター 統括マネージャーを務め、ゲームのオープニングムービー制作などの指揮をとっている。


■専門学校での出会いから就職へ
佐藤太郎氏は、幼い頃から絵を描くのが好きだったそう。
父親は中学の美術講師、母親は建築家という家庭に育った。
とくに両親から絵を描くように促されたことはなかったが、物心がついたときには絵を描いていたという。


株式会社マウンテンスタジオ クリエイティブディレクター 統括マネージャー 佐藤太郎氏


佐藤太郎氏
「マンガは好きですね。アニメはそんなに連続して見ていたものがあるわけじゃないですけど、マンガは凄く読みました。(マンガは)とんでもない量が家にもありました。
どこかに投稿するとかはなかったですね。あと音楽も好きだったので、ギターとかも弾きましたね。どれも好きだったけど、仕事にしようとは、そのときは思わなかったです。」

佐藤太郎氏は、ドラゴンボール、幽遊白書、スラムダンクなどを読んでいたそう。
そんな佐藤太郎氏の人生を変えたのが、マウンテンスタジオ代表取締役の宮本清春氏との出会いだという。

佐藤太郎氏
「専門学校なんですけど、日本工学院のアート系コースでした。
マンガや絵画のコースとか、あそこはいっぱい種類があるんですけど、その中でもマルチメディアアートという、いろいろとやっている科を選びました。そこは本当に何でもやるんですよ。

シルクスクリーンというアナログの印刷をしたり、パソコンを使ってデジタルの絵を描いたり、造形物を作ったりとか。その中のCGの授業に宮本が外部講師としてきていたんです。」

佐藤太郎氏はゲームが好きで、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストといったゲームで遊んでいた。ゲームのCGには前々から興味を持っていたが、CG科へ行く予定はなかったという。

佐藤太郎氏
「CG科を見ると、ゲームが大好きな人の集まりなんですよ。
美少女やロボットのCGを作る人たちで。
イラストコースも同じような傾向でした。

(当時)CGには興味はあったんですが、仕事にしようと考えていなくて、初めて宮本の授業のときに触れたんです。
そこでひらめいたわけではないんですが、就活のときに大手ゲーム会社を受けたんです。
でも書類選考で落ちてしまって、そのときに宮本に拾ってもらったんです。」


株式会社マウンテンスタジオ 代表取締役 宮本清春氏


宮本清春氏
「うちの会社は全員、生徒だったんです。
生徒だけで構成していたくらいで。
佐藤以降は学校の選定のつてで紹介してもらう感じでした。
佐藤はクラスでもトップクラスだったんですよ。」

佐藤太郎氏は、実際、専門学校で1位、2位を争うくらいの成績で、常にトップクラスであったそう。

佐藤太郎氏は就職前の夏にインターンとして1カ月くらいマウンテンスタジオで体験学習をした。そのときの経験から、どんな会社であるかも知っていた。それが就職先としてマウンテンスタジオに決定する参考にもなった。


■制止画からオープニングCGが作れる会社
ところで、マウンテンスタジオとはどんな会社なのだろうか?

佐藤太郎氏
「うちはCG会社の中では凄く変わっています。
CG会社はキャラクターを作って、それを動かすというのが9割方を占めています。
テレビアニメも最近、CGに置き換わっていますけど、そういうものをやりたいという人たちがたくさんいるんで。

うちはそういうのを全然やっていなくて、基本はデザインの世界にCGを使うというのをメインとしています。」

宮本清春氏
「最初は普通に雑誌のデザインとか、紙媒体でした。
自分はデザイン畑でずっとやってきて、CGにふったはいいけど、CGの中でもデザインのほうが将来性あるということで、デザインにぐっとふった結果が、オープニングムービーとかなのです。CG会社は制作部隊がたくさんいますが、その中の誰も作れないので、うちに発注していただける感じです。」

大手ゲーム会社の中には100名を超えるスタッフがいて、外注会社にも開発を頼んでいるところもあるが、オープニングムービーは制作できないところも多いのだそう。

マウンテンスタジオは、キャラクターの静止画だけを提供してもらい、静止画から動きのあるCGムービーのオープニングを作ることができるのだという。

ちょっとした魔法のような作業だ。

佐藤太郎氏
「イラストが何枚かあって、企画が走りだしているだけで、何もできてないなか、ティーザーとして打たなくちゃいけないんですよ。
そういう注目を浴びて行かなければいけない。
そんなメーカーさんの要望にこたえています。」

マウンテンスタジオが制作したオープニング映像の中には、なんとオリジナルのラフスケッチしかないものもあるという。
CGを駆使することによって、それだけでも雰囲気が伝わる作品を制作しているのだ。


コンセプトイメージ・アバン・プロモーション・エンディングを手がけた「BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣」(画像=左)
オープニング映像を手がけた「ソードアート・オンライン フェイタル・バレット」(画像=中央)
プロモーション映像を手がけた「夜廻と深夜廻 for Nintendo Switch」(画像=右)
(画像提供:マウンテンスタジオ)



PS4(R)/Xbox One/STEAM(R)「ソードアート・オンライン フェイタル・バレット」オープニング映像



■創造力とデザインセンスはAIに置き換えられない
佐藤太郎氏は10代の頃から現在までマウンテンスタジオに勤めている。

佐藤太郎氏
「最初はそもそも、ある程度のステップを踏んだら、大手ゲーム会社へ行きたいという時代がありました。

そこで凄いなと思ったのが、3年経ったときに、
こっちが忘れているのに、宮本が聞いたんですよ。

俺の中ではそれが嬉しくて、ちゃんと考えてくれてたんだというのが。
それが(現在まで)やっていこうというひとつ(の理由)になりましたね。」

マウンテンスタジオの良いところは、いろいろな仕事に関われることだという。
実写を撮ったり、監督をしたり、ゲームだけでなく、企業ものもある。
仕事の幅が非常に広いのだそう。

佐藤太郎氏
「大手ゲーム会社で完全に分業化されているところでは、テクスチャーチームであったら、ずっとテクスチャーをやっていくことになります。
たとえば、40歳を超えてテクスチャーだけで次の就職先を見つけるのは、かなりリスキーだと思います。
さらにずっとテクスチャーだけだったら、(自分にとっては)それが楽しいとは全然考えられなくなって、夢はとうに消えていたと思います。」

現在のソフトウェアの進化が目覚ましく、アニメーションも例外ではなく、最近はAI化も押し寄せている。
しかし、創造力とデザインセンスだけは、AIにも置き換わらないという。
佐藤太郎氏は、創造力とデザインセンスに特化させていきたいと語る。




佐藤太郎氏
「センスって、学校で覚えてくるってものではないじゃないですか。
生きてきたなかで、たぶん集合体があると思うんですよ。

自分の中では、音楽をやってきたことがあると思うし、何でも経験してきたことが培われていると思うんです。
経験の幅がたぶん狭いと、センスがなくなるんじゃないかなと思います。
いろんなことをやっているやつのほうが、センスは良いと思いますね。」

マウンテンスタジオの社内では毎週、かっこいいと思ったものをお互いに見せ合っているそう。
それをしないと、
・何が最近のはやりなのか?
・何をかっこいいと思うのか?
そういったことがわからなくなるという。


佐藤太郎氏
「入社して凄く変わったなと思うのは、
自分の先輩方が早い段階でいなくなったことから、宮本に進言することが多くなったんです。こういう仕事がやりたいというのを、言えるところが大きいですね。」

宮本清春氏
「けっこう前は凄く怒鳴っていたんですよ。
佐藤(の入社)以前はけっこう怒鳴っていて、(スタッフに)反感を買っていたんですが、(佐藤の入社以降は)効果がないと思ってやめました。」

現在は、たとえそれが社員やスタッフのために良かれと思っても、怒鳴ったり、強く叱咤することはパワハラと受け止められてしまう。最悪、SNSなどにアップされてしまい、批判を受けることもある。佐藤太郎氏の助言を受け入れながら、宮本清春氏もまた時代に適応して進化しているそう。


■会社をもっと世の中に認知させたい



佐藤太郎氏
「ゆくゆくは、いろいろな仕事がAIに置き換わって、なくなってくるじゃないですか。
もしくは、海外発注の方が安いからと、(海外に仕事が)とられるとか。

CGのモデリング系は、まさにそうだと思うんですよ。
今だったら、ベトナムとか、インドとか、に投げたら、向こうのエリートが作業して、下手すると1/2くらいの価格でできちゃう。
リアルだと絶対にかなわないですよね。

それでも、さっき言ったようにセンスやデザインのところは、
そういった海外(の業者)やAIには置き換わらないと思っている。

センスを磨き続けて、かっこいいおっさんになれるといいんです。
それができたら、ずっとこの仕事を続けていられると思います。
会社としても、そこは変わらないと思います。」

宮本清春氏
「センスですね。センスを見極めるのは、本当に難しいですよね。
佐藤も自分も才能があると思っているんですよ。
そう思えるか、思えないか、そこじゃないですかね。
そういうやつをどう見極めるかですね。」

佐藤太郎氏
「確かに自信はありますね。
といっても、自信屋とビビリを共有しているんですよ。

ビビリがないと、ただの無鉄砲になってしまうので、(自分は)そのバランスが良かったんだと思います。
自信家で、ビビリで、センスのあるやつを探しています。」

佐藤太郎氏は、
センスだけは、どうやっても教えられないと語る。
たとえば、20代で雇ったスタッフが、そこからセンスを磨いていく場合、その伸びしろはどのくらいあるのか? なかなか判断しづらいという。


宮本清春氏
「同業者で、うちがトップに立っているわけではないので、国内のみならず海外も、自分たちのセンスがどこまで通用するのかというのは凄く知りたい。
そのために、いろいろと挑戦したいとは思っています。」


mountain CM16 9



マウンテンスタジオは、会社を認知させるために、独自の動画配信も考えているそう。
ゲームのオープニング映像などでは活躍しているが、そういった映像でマウンテンスタジオと社名がわかるのは、動画のクレジット部しかない。

マウンテンスタジオというネームを、もっと広く認知させたいという。
そこで現在、コスプレイヤーを巻き込んだ動画配信も検討している。
これは、非常に楽しみなアクションだ。


BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣
株式会社コーエーテクモゲームス
(c)2017 コーエーテクモゲームス All rights reserved. 

ソードアート・オンライン フェイタル・バレット
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
(c)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project
(c)KEIICHI SIGSAWA/REKI KAWAHARA
(c)BANDAI NAMCO Entertainment Inc. 

夜廻と深夜廻 for Nintendo Switch
株式会社日本一ソフトウェア
(c)2015-2018 Nippon Ichi Software, Inc.

マウンテンスタジオ


執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm