「進化するゲーム、進化するストーリーテリング:『WIRED』日本版が選ぶベストゲーム 2018」の写真・リンク付きの記事はこちら

本や映像、音楽と並んで、ゲームもまた物語やアイデアを伝える手段のひとつだ。そして、自分視点でも第三者視点でもないあいまいな視点を提供するゲームならではの「伝え方」の手法は、デヴァイスの進化や技術の進歩、ゲームとプレイヤーの多様化などを通じてどんどん進化してきた。

今年もまた多くの新作ゲームが発表されたが、そのなかにはゲームという体験を通じたストーリーテリングの可能性(とプレイヤーの想像力)を試すような作品も多かった。そこで2018年に日本語版が発表された作品から、実験的かつ短時間で遊べるゲームをピックアップした。

ゲーム内の情報だけではストーリーが完結しない推理ゲーム。タッチスクリーンの可能性を広げた「指先で読む」ラブストーリー。音声とヴィジュアルがそれぞれに語るふたつの物語が交差するアドヴェンチャー。ジャンルや対応デヴァイスこそ違えど、どれもゲームというインタラクティヴメディアならではのストーリーテリングを模索した作品だ。

数時間でプレイできるものばかりなので、年末年始に時間をとってゲームが語る物語にどっぷりと浸かってほしい。

無人の商船を舞台にした推理アドヴェンチャーゲーム。時は1807年。4年前に行方不明になった商船「オブラ・ディン号」が突然イギリスに帰還する。プレイヤーは調査官となり、1冊の手記と死者の「残留思念」を頼りに船員たちの行方を推理する。製作者いわく「バッドエンドなら3時間ほど。グッドエンドは6時間から40時間かかるだろう」。

Return of the Obra Dinn

骨の髄までしゃぶり尽くすようにプレイするゲームだ。ミッションはシンプルで、無人のオブラ・ディン号で死体をみつけ、モノクロの1ビットで描かれる死の場面を眺め、60人分の名前と死因を書き留めるだけ。簡単そうに聞こえるが、これがめっぽう難しい。

まず、ヒントとして与えられる情報は必要最低限になるよう計算し尽くされている。探索スペースはそれほど広くないが、隅々まで目をやらないと糸口が見つからない。さらに正解を導き出すためには、言語や文化、船に関する知識など、ゲーム自体からは知り得ない情報も必要になる。ゲーム内の情報と、ゲーム外の情報、プレイヤーの思考と行動が全部集まって初めて完成する物語というのは新鮮だ。

かなり手間がかかるが、それでも途中で投げ出せないのは巧妙な手法で語られる魅力的なストーリーゆえ。プレイするうちに60人の安否確認という量的目標は忘れ、この船での出来事の全貌を知りたいという好奇心に駆られるのだ。ちなみにこのゲーム、ストーリーから音楽まで一人でつくっているというのだから驚きである。(PC)。

デジタルデザインスタジオのustwoが開発した「Monument Valley」。そのリードデザイナーを務めたケン・ウォンが自らの新スタジオ設立後に初めて制作したのがこの「Florence」だ。タッチスクリーンを活用したストーリーテリングの追求という点では(具体的な手法は違えど)インタラクティヴ小説『PRY』[日本語版記事]と通じるものもある。プレイ時間は1時間ほど。

Florence

「Florence」は、25歳の主人公・フローレンスの恋と成長を描いたインタラクティヴストーリーブックだ。正直ストーリー自体に意外さはなく、1、2時間ほどで終えられてしまう短いゲームだが、インパクトは強烈だ。その理由はこの作品がボタンやスティックではない「タッチスクリーンならでは」の体験を模索していることにあるのだろう。

Florenceには文字要素がほとんどなく、代わりにミニゲームが媒体となって主人公の感情や体験をプレイヤーに伝えている。気になる人と初めて言葉を交わすときのぎこちなさ、喧嘩のときの売り言葉に買い言葉、二人の関係をどうにか修復しようともがくときの不安や焦燥感。こうしたものがすべて巧妙にパズルに落とし込まれ、プレイヤーは指先を通じて主人公の体験や感情を共有する。それが、平凡とも言える物語を印象的な体験へと変えているのだ。

ヴィジュアルノベルとも絵本アプリともウェブコミックともパズルゲームとも違う、新しいストーリーテリングを楽しめるはずだ。(iOS、Android)

2つの物語が交差するアドヴェンチャーゲーム。PC版(英語)は2017年に発表されていたが、2018年に新たに日本語版が追加され、11月にはNintendo Switch版とPS4版、Xbox One版も発売された。プレイ時間は2時間ほど。

The First Tree

「The First Tree」はキツネの視点で進行する探索ゲームだ。プレイヤーは親ぎつねを操作して、離ればなれになってしまった子ぎつねたちを探して走り回る。

しかし、本作にはもうひとつのメインストーリーがある。父親と疎遠になってしまった男・ジョゼフの物語だ。マップ内にはジョゼフの思い出の品であるアイテムが落ちており、それらを掘り起こすとジョゼフとその恋人の会話が聞こえてくる。キツネが探索を続けるにつれ、ジョゼフの父親との関係や想いが明らかになっていく仕組みだ。

ヴィジュアルで語られるキツネの物語と音声で語られるジョゼフの物語というふたつのストーリーがパラレルに進むため、プレイヤーは想像力をフル活用しなくてはいけない(そのなかで、いつのまにか自分の体験を重ねていることもあるだろう)。そうした余白が、このゲームの大きな魅力のひとつである。

『風ノ旅ビト』に影響を受けたという美しいグラフィックで描かれた雄大な自然のなかを走り抜け、エンディングを迎えたあとには、なんとも言えない余韻が残るだろう。(PC、Nintendo Switch、PS4、Xbox One)