青函トンネルを抜け青森県に入ったJR北海道のH5系。共用区間では新幹線列車も最高時速140km運転となっている(写真:久保田 敦)

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2019年2月号「北海道新幹線と青函トンネル その課題と取り組み」を再構成した記事を掲載します。

本州と北海道を結ぶ北海道新幹線の核心の施設が、全長53.85kmの青函トンネルである。


東洋経済オンライン「鉄道最前線」は、鉄道にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら。

1964(昭和39)年に国鉄が計画路線として定めた当初は在来線鉄道として考えられていたが、1970年に全国新幹線鉄道整備法が定められ、翌年、鉄道公団に「将来新幹線を通しうるよう設計上配慮しておかれたい」との通達が出され、ここに新幹線規格へ設計変更されて建設されることとなった。

この一方、新幹線計画は大きく遅れたため、新幹線規格の路盤等に狭軌在来線の線路を敷設し、1988年3月の開業は在来線の「津軽海峡線」として迎えた。その後、2004年末の政府と与党の判断で、北海道新幹線の函館までの着手が決まり、翌2005年に工事実施計画が認可されて建設に入った。

貨物列車と線路を共用

開業から約30年、新幹線列車が走ることになってからも物流の動脈としての重要性は変わらず貨物列車の運行継続が求められたため、2016年3月26日に新青森―新函館北斗間が開業した路線は、本州側の新中小国信号場と北海道側の木古内駅の間約82kmについて、在来線1067mm軌間に新幹線1435mm軌間用のレールを追加した三線軌とし、新在共用走行区間とされた。

青函トンネルには現在、定期列車として上下26本の北海道新幹線列車と、同51本の貨物列車が運転されている。北海道新幹線の利用実績は開業1年目が1日平均約6300人で在来線の前年に対して164%を記録したが、2年目は約5000人となり開業景気も沈静化している。2018年は青函トンネル開業から30周年を迎え、同時期に開業した本四間の瀬戸大橋線とともに記念行事やキャンペーンなどが展開された。

だが、北海道新幹線はこの青函トンネルや共用走行区間を有することで特殊性や固有のコスト増要因を抱え、JR北海道にとって大きな負担の一つとなっている。

整備新幹線である北海道新幹線の最高速度は時速260kmとされているが、共用走行区間では貨物列車とのすれ違い時の安全確保の点から在来線特急列車と同じ最高時速140kmに抑えられ、所要時間が増加している。その分、競争力が減衰し、航空などほかの交通機関に需要が流出している。


青函トンネルを挟む共用区間を走る下り貨物列車。新幹線列車に対し倍の列車本数があり、現状は貨物輸送主体といえる(写真:久保田 敦)

また、在来線専用レールや構造が複雑な三線軌分岐器があり、途中駅や信号場の貨物列車待避線や在来線専用の区間にかかわる経費負担も、従来の制度ではJR北海道に負わされている。三線軌分岐器は言うに及ばず、三線軌そのものも締結装置の数は1.5倍になり、さらに新幹線専用レールと在来線専用レールの間は狭い範囲に多数の部材があるため保守作業がしにくく、わずかな部材のずれでも軌道短絡等の輸送障害につながるおそれがある。

貨車の落下物や脱線で新幹線の線路内に影響が発生したことを自動検知するため、光ケーブルによる限界支障報知装置を設けているが、この装置を冬期の落雪氷もある環境の中でもメンテナンスしてゆかなければならない。

メンテナンスの時間も不足

さらに、新幹線は通常、終電と始発の間に6時間程度の設備保守間合が確保されるが、共用走行区間はより多くのメンテナンスが必要であるにもかかわらず、深夜や未明に多数の貨物列車が走行するため短い作業時間しか確保できない。当然それに合わせた体制が必要になる。JR貨物などと調整し、定期的に作業時間を拡大するなども必要になる。

一方、昨今は青函トンネル本体についての課題も大きくなりつつある。しみ出る海水を汲み上げる排水ポンプや、列車火災対策の装置など、特有の装置が備えられているうえ、トンネル本体も開業から30年を経過し、本坑に先立って建設され、今も換気や排水に使われている先進導坑などは40年以上も経過している。塩分を含む地下水や湿度90%という劣悪な環境があり、そのため設備の更新は必須だ。さらにトンネル本体の老朽化対策も必要になってきた。2014年ごろから、強い地圧により先進導坑の一部で“盤ぶくれ”と呼ばれる変状が認められるようになった。この対策としてロックボルトの打ち込みが施工された。

こうした収益構造の弱さや経費負担増の要因を多く抱える中、資産の維持管理の区分にも課題がある。

レールやケーブル、電車線(架線関係)などの改修や更新の費用、検査・修繕費は全般的にJR北海道が負担している。

基本的に貨物列車しか使わない三線軌の在来線専用レールや駅・信号場構内の待避設備、在来線専用区間の設備もJR北海道の担当であり、JR貨物から支払われる線路使用料の算定基準に含まれない。地震や火災などの防災システム、災害対応を含む換気や排水のシステム、変電設備の大規模な改修、設備更新は、青函トンネル改修事業(鉄道防災事業)として国が3分の2を補助しているが、3分の1はJR北海道の負担である。

また、日常的な検査・修繕は全面的にJR北海道の負担とされている。本体の老朽化が見られてきたトンネル本体の検査・修繕や改修の費用負担については、額の規模が異なるため国、鉄道・運輸機構、JRで検討されているが、JR北海道では日常的な負担が重いとしている。

高速化に向けレール削正作業も強化


現在のところ青函トンネルを行き来する唯一の在来線旅客列車がJR東日本の「四季島」。木古内合流部から入って青函トンネルに向う(写真:久保田 敦)

青函トンネルの大きな課題の一つである速度問題に対しては、まずは最初のステップとして2018年度末に現行の最高速度時速140kmから160km(貨物列車は時速100km)への引き上げが予定されており、2018年9月に検証のため青函トンネル内での高速走行試験や貨物列車とのすれ違い試験が実施された。また、高速走行に向けて共用走行区間におけるレール削正も行われている。

青函トンネル内は湿潤な環境で長い勾配も存在するためか、新幹線開業前からレール頭頂面の波状摩耗が多く発生する傾向があった。これが発生すると、閉じられたトンネルの中では騒音が大きくなるばかりか、振動により締結装置の緩み、破損につながる可能性や、レール自体の疲労を進行させる懸念が高まる。その一方、青函トンネルは過酷な環境のためトンネル内に保守基地が設けられず(竜飛と吉岡に保守用車の待避のための横取基地のみ)距離が長いところに保守間合が短いため大型のレール削正車を最奥部まで入れると時間の制約が大きく、給油等の関係から横取基地に留置し続けることもできない。したがって、小さなレール削正機で施工しなければならない部分もあった。

在来線程度の速度ならばさほどの問題にはならない波状摩耗でも、これから速度向上に取り組むにおいては重要な課題となる。そこで改めてレール削正が重視されるようになり、2018年夏以後、本格的に施工されるようになった。


青函トンネル内部。北海道側入り口から約15kmの白符斜坑付近(写真:レイルマンフォトオフィス)

効率の観点からレール更換で対応するケースもあり、9月1日から当面の間、北海道新幹線の一部列車の時刻変更が行われた。変更されたのは上り最終の「はやて100号」新函館北斗発新青森行きで、新函館北斗発を5分、木古内発を2分繰り上げた。このわずかな時間調整により貨物列車の時刻変更が可能になり、従来のダイヤでは2時間30分しか確保できなかった時間帯において、保守間合を4〜5時間に拡大することも可能になる。

今回、レール更換の対象とされたのは在来線専用レールで新幹線が利用するものではないが、波状摩耗のある状態では車輪を伝わって反対側の共用レールに悪影響をもたらすこともあるため、更換することとなった。

時速200km化も検討中

なお、共用走行区間の新幹線速度向上については、国土交通省が主催する交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会整備新幹線小委員会のワーキンググループ(WG)で議論されてきた。2019年春のダイヤ改正で時速160km化を図るとともに、時速200km化についても検討が重ねられている。

在来線貨物列車を編成ごと新幹線サイズの貨車に積載して高速化や安定性を確保するトレイン・オン・トレイン案や、上下線間に隔壁を設ける案などは現状では難しいため、まずは現実的な手法として時間帯を区分しての実施が検討されている。すなわち、新幹線の速度を時速200kmレベルに引き上げると、貨物列車とのすれ違い問題はより懸念が高まるため、新幹線と貨物列車をダイヤの調整により混在させないという発想である。


JR貨物のデータに基づくWGなどによるシミュレーションにより、物流への影響から貨物列車の青函トンネル通過を空白にできるのは、ゴールデンウィークやお盆、年末年始期間であり、その特定時期の新幹線始発時間から15時半ごろまでと導き出された。また、そうした調整は下り線が比較的容易であることが導き出されたため、実施の方針案としては上記の期間に下り線において、始発から夕刻ごろまでの間に限定し、時速200kmで運転することとなった。

東京―新函館北斗間所要時間は現行最速の4時間2分を6分(160km/h走行の場合は3分)短縮することができ3時間台に乗せることができる。誤進入防止システムの開発などに左右されるものの、開始時期は遅くとも2020年度と予定されている。また、上り線での実施や時速260kmへの向上、時間帯拡大の可能性についても検討が行われている。

注:12月14日に発表された2019年3月ダイヤ改正の概要では共用区間の時速160km走行により新青森―新函館北斗間で最大4分短縮、東京―新函館北斗間最速3時間58分とされている。