設備投資はピークアウトか。写真は東芝のメモリー新工場(岩手)建設の模様(撮影:編集部)

11月14日に公表された2018年7〜9月期実質GDP(国内総生産)一次速報はマイナス0.3%(年率マイナス1.2%)に反落した。これまでプラスが続いてきた実質民間設備投資は前期比マイナス0.2%(年率マイナス0.9%)と、8四半期ぶりの前期比マイナスとなった。7〜9月期は自然災害が相次いだことから、一時的な影響によって下押し圧力がかかったことは割り引いて考えるべきだが、年初から輸出や生産の増加ペースが鈍化しており、設備投資の増加も曲がり角に差し掛かっている可能性がある。


一般に設備投資の減少は輸出や生産が落ち込むよりも事態が深刻であることが多い。

それは、景気循環(設備投資循環)が「売上増→生産増→設備投資増→売上減少→生産減→設備投資減→……」というサイクルを経ることが一般的で、設備投資の減少は本格的な景気後退入りのサインであるとみられるからである。経済規模(GDP)対比の設備投資がピークを付けた後、景気後退局面入りした例は多い。

2018年7〜9月期の名目設備投資の対名目GDP比は16.65%と、現行統計(1994年以降)で最高となった。過去最大の1997年10〜12月期の16.45%を2期連続で上回った格好だ。すでに設備投資が過剰な状態で、7〜9月期の減少をきっかけに、設備投資のGDP比が低下していく可能性もあるだろう。

一方、足元の設備投資の増加は過去とは異なり、対GDP比が高くても過剰ではない、との見方がある。それは、当面の日本経済は人手不足問題の解消に向けた設備投資が継続的に期待できる局面にあるという主張で、その分の設備投資は増え続けるといった見方である。

そこで今回は、2016年10〜12月期以降の設備投資がなぜ増加してきたのかに焦点を当て、今後の設備投資の動向を議論したい。具体的には、〃糞こ搬腓砲茲訐瀏投資の増加、⊃夕衂埖問題への対応を含む既存設備の維持更新投資、E豕オリンピックに関連した建設投資の増加などに注目した。

稼働率対比では設備投資は過剰、企業収益には暗雲


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能力増強を企図した設備投資の増加には、第1に十分に企業収益が改善していること、第2に既存設備に逼迫感が生じている(設備稼働率が上昇している)ことが条件となる。

企業収益の改善だが、4〜6月期の法人企業統計調査によると、全産業の経常利益は前年同期比プラス17.9%、製造業では同プラス27.5%、非製造業では同プラス12.4%だった。4〜6月期時点では製造業・非製造業ともに好調であり、設備投資を継続的に行うための追加原資は十分にあったといえる。しかし、7〜9月期時点では貿易戦争の影響などによって増益率が鈍化し、「企業業績に減速感」があるという(日経新聞11月5日付け)。


企業の経常利益と実質民間設備の時差相関によると、経常利益と実質民間設備はラグ2四半期程度を伴って高い相関がある。企業収益の改善ペースが鈍化すれば、2四半期程度遅れて設備投資にも影響が出てくるだろう。

なお、研究開発の関連投資が多く計上される知的財産生産物についても、企業収益に対して4四半期程度のラグを持って高い相関があることが分かる。先を見据えた投資も、企業収益の改善なしに増加は見込みにくい。

また、設備稼働率の状況をみると、能力増強のための投資の条件が満たされているとは言いがたい。製造業・非製造業ともに足元で稼働率が高まっている様子はないからだ。設備稼働率対比でみれば、製造業を中心に設備投資は過剰であると言える。

意外にも人手不足対応の設備投資は大きくない

足元で必要以上に設備投資が行われている理由として「人手不足問題」への対応が考えられる。

設備投資の目的は、大きく分けると(a)生産能力増強のための設備投資、(b)既存設備の維持・更新、の2つとなり(下記の式)、「人手不足問題」への対応は概念的には後者に含まれる。

設備投資額=生産能力の増強投資(a)+ 既存設備の維持更新投資(b)


ここで、上式の右辺第1項は、製造業については製造工業生産能力指数の推移を代理変数にできる。非製造業については、能力指数が存在しないことから、第3次産業活動指数の長期平均(今回は過去6年平均)を代理変数とする。

これらを用いると、上式の関係から人手不足問題への対応を含む既存設備の維持更新投資の規模を逆算することができる。

今回の推計によると、人手不足問題への対応を含む既存設備の維持更新投資は直近では年率換算で製造業が15.3兆円、非製造業は24.4兆円程度あることが分かった。

製造業については、2016年以降、急激に増加しているが、金融危機前における維持更新投資の規模と比べて金額が大きいわけでない。むしろ、金融危機以降に抑制されていた維持更新投資が回復してきたと解釈できる程度の水準である。既存設備の維持更新投資を行う中で、人手不足問題への対応を考慮した投資が含まれている可能性もあるが、製造業においては人手不足問題による設備投資の押し上げ効果はそれほど大きくないとみられる。

一方、非製造業(第3次産業)については、既存設備の維持更新の規模が緩やかに拡大している。2015年末以降では、年間0.3兆円程度は維持更新投資が増えている。しかし、これは民間企業設備投資全体の約0.3%に過ぎない。非製造業においては、人手不足対応のための設備投資のニーズがゼロではないが規模は小さい。「人手不足問題があるため、設備投資は継続的に伸び続ける」というには頼りない規模である。

日本の総固定資本形成(民間企業設備と公的固定資本形成が大勢を占める)のうち最も大きな割合(住宅を除く)を占めるのが「その他建物・構築物」34.1%、2番目は「その他の機械設備等」32.1%、3番目以降は「知的財産生産物」26.3%、「輸送機械」7.6%である(実質ベース、2017年実績)。


このうち「その他建物・構築物」については東京オリンピックのための建設投資などが含まれている(景気循環上で必要とされる以上に金額をカサ上げしている)可能性には留意が必要である。

日銀が2015年12月に発表した「2020 年東京オリンピックの経済効果」によれば 、「過去のオリンピック開催国のパターンを参考にすると、関連する建設投資は、2017〜2018 年頃にかけて大きく増加したあと、2020 年頃にかけてピークアウトしていくと予想される」という。

建設総合統計によると、民間・公共ともに南関東における建設投資額の増加が2017年度から顕著である。東京オリンピックの関連投資の影響を直接的に求めることはできないが、建設投資の押し上げ効果はある程度出ているとみられ、2019年以降は反動減が懸念される。

世界経済の減速と輸出鈍化で設備投資も反落へ

今回のコラムで注目した設備投資の3つのテーマのうち、△凌夕衂埖問題への対応を含む既存設備の維持更新投資の押し上げ効果は、非製造業ではゼロではないものの、設備投資全体への影響は大きくないと考えられる。また、の東京オリンピックに関連した建設投資は、日銀がレポートで示唆した通り、2017年以降の建設投資を押し上げてきたとみられ、今後は反動減が懸念される状況である。

結局は、,侶糞こ搬腓砲茲訐瀏投資の増加の部分がどのように変わるかが、今後の設備投資の動向を左右するとみられ、世界経済の減速とそれに伴った輸出の伸び悩みが、設備投資を抑制する懸念が大きそうだ。貿易戦争の激化などによって世界経済の成長鈍化が一段と鮮明化すれば、日本経済は外需に続いて設備投資という経済成長のドライバーを失うだろう。8四半期ぶりの設備投資の減少は景気後退のサインである可能性が高い。