トヨタ自動車とソフトバンクは10月4日、移動サービス事業での提携を発表した。笑顔で握手を交わすトヨタの豊田章男社長とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(撮影:風間仁一郎)

「え?! まじか?!」

トヨタ自動車との合弁会社設立の話が進展していると聞いて、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は思わずこう言ったという。しかも豊田章男社長のほうから孫社長のところにわざわざ出向いてくるという。「なおさら、え!? まじか!?と思った。と同時にいよいよだという思いもあった」(孫社長)。トヨタからソフトバンクに打診があったのは半年前。その後、若手を中心としたチームで合弁設立の可能性を模索してきた。

合弁会社の社名は「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」。出資比率はソフトバンクグループの通信子会社ソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%。モネの代表取締役社長兼CEOにはソフトバンクの宮川潤一副社長兼CTOが、代表取締役兼COOには柴尾嘉秀・トヨタ自動車コネクティッドカンパニーMaaS事業部主査が就任する。資本金は当初20億円だが100億円まで増資する予定だという(資本準備金を含む)。

交通事故を起こさない自動運転の実現

新会社は2020年代半ばをメドに、交通事故を起こさない自動運転の実現を目指す。2020年まではスマートフォンで乗り合い車両を呼ぶなどの「オンデマンド・モビリティ・サービス」を展開する予定だ。「日本連合で世界に打って出ようと握手した」。ソフトバンクの宮川副社長はそう言い放った。

トヨタの豊田社長は「なぜトヨタがソフトバンクと組むのか、と皆さんお思いでしょう」と切り出し、「実は20年前、(中古車検索システム〈当時〉の)GAZOOを始めた頃に、孫さんからアメリカのネットディーラーのシステムを導入しないかという提案があった」と打ち明けた。

そして「当時課長だった私は孫さんのところに出向き、お断りした。血気盛んな課長時代のことで失礼があったと存じている。若気の至りだが、寛大な対応をしていただいた。感謝申し上げたい」と、20年前に水面下の交渉があったことを披露。「ソフトバンクとトヨタの相性が悪いという噂がちまたであるようだが、そんなことはない」と付け加えた。


日本企業の株式時価総額トップであるトヨタと2位のソフトバンクとの電撃提携にメディアの注目が集まった(撮影:風間仁一郎)

豊田社長は「今は100年に1度の大変革期」とし、トヨタは自動織機で創業し自動車に展開したこと、そして今、自動車メーカーからモビリティカンパニーに変わろうとしていることを強調。

やがて来る自動運転の時代を見据えて、ビッグデータを取ろうと海外でライドシェア(自動車の相乗り)サービスを手掛ける企業に出資を始めると「ドアの向こうには常に孫さんがいた」(豊田社長)。出資先にはすでにソフトバンクやソフトバンクが出資する巨額ベンチャーファンド「ソフトバンクビジョンファンド」が主要株主として存在していたと明かした。

ライドシェアの世界シェアは9割

「ソフトバンクが出資するウーバー、グラブ、ディディなどを合計すると、ライドシェアの世界シェアは9割」(孫社長)。自動運転で世界覇権を争うためには、すでに海外ライドシェア大手に出資しているソフトバンクと組むしかなかったというのが真相だ。

「今回はあくまで第1段。第2弾、第3弾のより広い、深い提携があるのを願っている。それを思うとわくわくする」とする孫社長に対し、豊田社長は「そういう風に持って行きたい」と気前よく応じた。

会見では両首脳の距離が一気に縮まったことを印象づけた。「豊田社長のプレゼンに感動した。情念に訴えて、心から言っているから惹きつけられる」と孫社長が言うと、「心からしか言えませんから」と豊田社長が応える。逆に豊田社長は孫社長のことを「成長する企業を見付ける目利き、においをかぎ分けられるんですよね」と持ち上げると、「有望な起業家とトヨタを結びつけていきたい」と笑顔で語っていた。

一方で、合弁会社が具体的に何を始めるのかには不明な点が多く、”日本連合”を結成しなければならない理由も明らかにされなかった。「頑張れ2人、2社と言ってくれたら嬉しい」。豊田社長はそう言って会見を締めくくった。