日本橋高島屋の本館(右)に隣接する形で、新館(左)が竣工した。新館には115の専門店が入居する(撮影:今井康一)

江戸時代から商業や文化の拠点として発展してきた東京・日本橋。この地で、長年しのぎを削ってきた老舗百貨店の高島屋と三越が、既存店舗を大幅にリニューアルして、真っ向勝負を繰り広げようとしている。

高島屋は9月25日、都市型ショッピングセンター「日本橋高島屋S.C.」を開業する。1933年に開業した「日本橋高島屋」は横浜、大阪と並ぶ高島屋の基幹店舗の1つ。今回、隣接地に三井不動産が建てた高層タワーの低層部(地下1階〜地上7階)に、「新館」を竣工した。

この新館と本館(既存の日本橋店)、そして3月に先行開業した「東館」など4館態勢で、売り場面積約6万6000平方メートルの大型ショッピングセンターとして運営を開始する。

日本橋で増加する若い層を取り込む

「オフィスワーカーや東京湾岸のニューファミリーなど世代を問わずに、幅広い層の顧客に楽しんでいただける施設だ」。日本橋高島屋S.C.の開業に先立って開かれた21日の記者向け内覧会で、高島屋の木本茂社長はそう強調した。

日本橋は現在、オフィスビルやタワーマンションの開発ラッシュで、地域人口が急増している。「特に、30歳代のパワーカップル(購買力のある共働き夫婦)が街にあふれている」(高島屋の田中良司常務)。高島屋はこれまで、50歳以上のシニア層を主顧客としてきたが、今回の改装により日本橋で増加している若い層の取り込みを狙う。


新館の地下には東京・千駄ヶ谷のカレー専門店「東京カレースタンド HATONOMORI」が出店した(撮影:今井康一)

115店舗の専門店が入居する新館は、路面旗艦店級の広さを持つ「TOMORROWLAND」を筆頭に、数多くのファッションや雑貨テナントが入居する。だが、高島屋が最も力を入れて誘致したのは、食関連のテナントだ。

地下には施設初出店となる千駄ヶ谷のカレー専門店「東京カレースタンド HATONOMORI(ハトノモリ)」、1階には代々木八幡のベーカリーショップ「365日と日本橋」、7階には人形町で人気のグルメバーガー専門店「BROZERS’(ブラザーズ)」など注目店舗が顔をそろえる。実に、新館のテナントのうち4割が、食関連という構成である。


高島屋ではコト消費を意識して、女性専用のヨガサロンなどを誘致した(撮影:今井康一)

そのほかにも、女性専用のヨガサロンなど全般に”コト消費”を意識したテナントを数多く誘致した。朝7時30分から開店、あるいは夜11時に閉店する店舗もあり、オフィスワーカーの出勤前、出勤後の需要にも照準を定める。

この新館は従来の百貨店業とは違い、専門店からテナント賃料を得る「脱・百貨店モデル」を採用する。高島屋は子会社を通じて玉川高島屋S・C(東京・世田谷区)などを運営している。

黒字化は3年目以降に

そのような施設に入居するテナントからの賃料を軸とする不動産事業は、現在、全体の営業利益のうち3割をたたきだす高島屋の収益柱となっている(前2017年度実績)。日本橋高島屋S.C.の開業により、賃料収入のさらなる積み上げを目指す。


グルメバーガーの専門店として2000年に日本橋人形町にて創業した「BROZERS’」も高島屋に出店した(撮影:今井康一)

とはいえ、日本橋高島屋S.C.は広告費、内装などの償却費といった費用が当面先行する見込み。黒字化は3年目以降となる予定で、もくろみどおり、若年層を引き付けることができるかどうかが、勝敗の分かれ目になりそうだ。

テナント賃料で収益安定化を図ろうとする高島屋に対し、三越は接客サービスに磨きをかけ、従来の百貨店業での売り上げを伸ばす方針だ。

同社は、段階的に改装を進めてきた「日本橋三越本店」の第1期改装部分を10月24日にオープンする。今回、新館1階の高級品ブランドや、本館1階の化粧品・雑貨などの売り場を改装。建築家の隈研吾氏がデザインを手掛け、白い大理石の柱にアルミパネルを組み合わせ、その内部にLED 照明を仕込み現代的な空間に仕上げた。

今回の改装はハード面だけでなく、ソフト面の充実にも重きを置いている。接客の専門家であるコンシェルジュを各階に設置するために、それぞれ常駐するデスクを設ける。


日本橋三越本店では第一期改装部分が10月24日にオープンする(編集部撮影)

コンシェルジュは食料や紳士、婦人、リビングなど7つの専門領域に分かれ、日本橋本店で働く従業員のうち約90人が着任。顧客は本館1階に新設されたレセプションに立ち寄ると、ガイドが来店の目的に応じてコンシェルジュに引き合わせてくれる。

日本橋本店は情報武装も強化する。コンシェルジュが携行する端末を通じて、購買履歴などの顧客情報を共有し、時にはコンシェルジュ同士が連携して顧客の要望に対応する。

また、端末から得た情報を蓄積・分析することで、今後の店舗運営に役立てる。日本橋本店では、今年6月に販売員30人が情報端末を携行して接客する店頭実験を実施したところ、6万1000件ものデータが集まった。「販売員がどこで顧客を誘導し、どういう動き方をしているのかが見えてきた」と、日本橋三越本店の浅賀誠店長は語る。

「百貨店の存在価値は明確になった」

日本橋本店が接客向上や情報強化を打ち出した理由について、浅賀店長は次のように説く。「百貨店はショッピングセンター、セレクトショップ、カテゴリーキラー(特定分野の商品を低価格で販売する量販店)といった業態に顧客を奪われてきた」。


三越日本橋本店の浅賀誠店長は接客向上や情報強化を打ち出した(記者撮影)

さらに、「近年はEC(ネット通販)サイトがドン、と台頭してきた。だが、逆に言うと、百貨店の存続価値は明確になった。スタイリストなどの店舗販売員が顧客に提案する力こそが、あらためて百貨店の強みとして認識されるのではないか」(同)。

三越は1673年に呉服店「越後屋」として日本橋で創業。1904年に「デパートメントストア宣言」により、日本初の百貨店として現在の日本橋本店が開業した。長い歴史を持つ日本橋本店は顧客も高齢化し、現在は60歳以上の顧客が多い。1日の入店客数は平日が3万人、土日祝日が5万人で、「その多くのお客さんが、目的買いで来店される」(ベテラン販売員)という。
 
つまり、同店はデータ蓄積などにより接客の質を高めて、目的を持って来館する固定顧客を中心とした富裕層を徹底的に囲い込む狙い、というわけだ。日本橋本店は第2期改装部分が2019年度に完成する。2020年度の売上高は改装前に比べて100億円の増加を見込む。

新装店舗の戦略で、方向性の違いが明確になった高島屋と三越。それぞれの施策は思惑どおりの成果を出せるのか。