金正恩委員長の平壌空港への直接出迎えに始まり、北朝鮮側の文在寅韓国大統領に対する大歓迎ぶりが世界に報じられた南北首脳会談。トランプ大統領も評価したこの会談ですが、国内新聞各紙はどのように扱ったのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

今年3回目の南北首脳会談を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「核施設廃棄 米の対応が条件」

《読売》…「北核施設廃棄 米に条件」

《毎日》…「寧辺核施設廃棄に言及」

《東京》…「正恩氏 米の行動誘う」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「核の新提案 米の出方探る」

《読売》…「北、保有核は温存」

《毎日》…「非核化 具体策乏しく」

《東京》…「北 小出し戦略 遠い完全非核化」

ハドル

まだ「形」が見えませんが、テーマは「北朝鮮、核の新提案」ということになります。

基本的な報道内容

今年3回目の南北首脳会談を平壌で行った韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、米国が相応の措置を取った場合に寧辺核施設を永久廃棄することなどを盛り込んだ「共同宣言」に署名。11月からは南北の軍事境界線付近での軍事演習を中止することでも合意。また、正恩氏の年内のソウル訪問も決めた。

不信感をぶちまけ続けた金委員長

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、13面国際面には記事と「考論」、15面も国際面、18面社説まで。見出しから。

1面

核施設廃棄 米の対応が条件南北合意 非核化行程触れず正恩氏 年内ソウルへ廃棄の範囲あいまい(解説)

2面

核の新提案 米の出方探る北朝鮮、交渉再開狙いか核施設申告なし、米は不信感米軍の脅威削減・外貨獲得南北合意 北朝鮮の意向反映融和先行に日本懸念

13面

文氏のすりより 懸念韓国世論 経済協力に抵抗感緊張緩和は評価北朝鮮包囲網ほころび中ロ、南北合意「歓迎」鮮明

15面

もてなす北朝鮮 韓国抱き込む策略

18面

南北首脳会談 和解の機運を広げたい(社説)

uttiiの眼

1面記事とその末尾につけられた解説に、《朝日》の基本的な姿勢が表現されている。

《朝日》は今回の「合意」が「米朝交渉を前進させる契機になりえる」との基本的な評価を与えながら、北朝鮮が「米国の相応の措置」という見返りを要求している点、廃棄の範囲が曖昧な点を指摘。また、東倉里の発射台の永久廃棄は、多様な移動式の発射台を北朝鮮が保有している以上、意味がないことも指摘。さらに、道路や鉄道の連結事業の着工式で合意したことは、国連制裁決議違反との疑いが指摘されているとする。トランプ氏はツイッターで「北朝鮮、韓国からとても良いニュースがあった」と歓迎しているかのようだが、米側が強く求めてきた「核施設の申告」は「共同宣言」に含まれていない。したがって、「非核化と南北協力の均衡のとれた対応」を求めてきた日米は今回の「合意」に反発する可能性もある、としている。

2面の「時時刻刻」は、「宣言」の中に練り込められた米朝双方の“不信感”を解きほぐそうとしているが、何らかの理由で非常に理解しづらい文章になっていて、よく分からない。それでも印象に残ったのは、金正恩氏が文氏に対して、「核実験場爆破などを評価しない米国への不信感をぶちまけ続けたという」、との一文。複数の証言があるようで、これが本当だとすれば、北朝鮮は既に非核化に踏み出しているのに、それに対応する措置を米国が取っていないという考えなのだろう。

記事後半には、米当局者たちが抱くトランプ氏に対する不信感について書かれている。米政府内には、トランプ大統領が、独断で北朝鮮が望む朝鮮戦争の終戦宣言に応じてしまうのではないかとの懸念があるという。今回の宣言内容とトランプ氏のツイッターの中身、中間選挙のことなどを考えれば、その懸念には頷けるものがある。

非核化協議は再活性化する?

【読売】は1面トップに2面関連記事、3面は解説記事「スキャナー」と社説、9面国際面にも。見出しから。

1面

北核施設廃棄 米に条件南北共同宣言 「終戦宣言」念頭非核化の進展 菅長官が期待南北「敵対行為を中止」国防相合意 米の抑止力低下 懸念

2面

日本、米朝を注視 「一定の評価」

3面

北、保有核は温存南北会談小出し戦術 見返り狙い核の全容申告、米譲らず非核化進展と見るのは早計だ(社説)

uttiiの眼

《読売》は日本政府の反応に従って、今回の「合意」について比較的前向きな捉え方をしているように見える。2面の記事は、今回の「宣言」によって、日本政府は「停滞気味だった米朝間の協議が再び活発化する可能性があるとみている」として、外務省幹部が「菅官房長官が文氏だけでなく、南北両首脳の合意に至るまでの努力に敬意を表すると述べたのは、期待を込めてのことだ」と述べたことを紹介している。

しかし、《読売》自身も指摘するさまざまな問題を孕んだ「宣言」であることは明白で、留保をつけながらも、両首脳の努力に「敬意を表する」官房長官の言葉を引き、「一定の評価」をしてしまうのはどうなのだろうか。トランプ氏がツイッターで北朝鮮の対応を評価していることに引きずられているとしたら、問題は決して小さくない。「蚊帳の外」感が強まるばかりだ。

「労働新聞」に現れるホンネ

【毎日】は1面トップに3面の解説記事「クローズアップ」、8面国際面に記事と「ミニ論点」。見出しから。

1面

寧辺核施設廃棄に言及南北共同宣言 米の対応が条件

3面

非核化 具体策乏しく正恩氏、小出し戦術米肯定的、交渉前進か

8面

南北、緊張緩和を推進軍事衝突 歯止め合意中国、米の出方注視露歓迎 日米をけん制

uttiiの眼

各紙、似た傾向があり、1面の本記では比較的前向きな扱いで、解説になると問題が次々に出てくるという形。《毎日》も例に漏れず、1面見出しは「寧辺核施設廃棄に言及」と、寧辺について言い及んだこと自体を評価するかのような見出しになっているのに、3面になると、一転「非核化、具体策乏しく」、「小出し戦術」などと批判的な文言が目立っている。

《朝日》の「時時刻刻」に、金委員長が米国への不満をぶちまけ続けたと書かれていた。それに照応するように見える内容が、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に書かれている。「労働新聞」は、その論評の中で「朝米協議が進まない責任は、全面的に米国にある」としていて、これを《毎日》は、「非核化の行動を先に求める米国に対し強い不満を表明している」と解している。北朝鮮の「小出し戦術」(既視感が拭えない…)を、米国が認めるのか認めないのか。認めない場合に、北朝鮮は「小出し戦術」を撤回するのか。この点に、非核化協議の進展如何がかかっているということだろう。

紙とフォントが違う共同宣言

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、5面社説、12面関連記事。見出しから。

1面

正恩氏 米の行動誘う南北会談「核施設廃棄の用意」文氏、平壌市民に演説

2面

北 小出し戦略 遠い完全非核化核施設150? 廃棄合意1カ所経済改善へ 韓国と融和深化狙う「具体的進展なし」日本政府分析

5面

非核化 後回しせずに(社説)

12面

韓国内「安保体制の無力化」非核化停滞で懸念大きく南北「敵対行為を中止」文書大きさ違うけど内容同じ「正恩氏訪韓」周囲は猛反対韓国高官明かす両首脳きょう白頭山訪問へ中朝国境の名所

uttiiの眼

外交交渉のなかで実際に何が話されており、どんな意味があるかをその時点で正確に知ることは困難だということもあるのだろう、《東京》は基本的な内容に加えて、可能な限りディテールを記録しておこうとしている。どこに“意味”が含まれているか分からないからだろう。

南北首脳がきょう「革命の聖地」である白頭山を訪問することは他紙も書いているが、両首脳が署名した「九月平壌共同宣言」の宣言文書の大きさが違っていることについては、《東京》だけが報じている。12面の記事は、首脳が並んで文書を掲げている写真を材料に、使用する紙やフォントが異なっていること、さらに一部単語にも違いがあることを記している(南北で言葉遣いが微妙に違っていることの影響と説明されている)。

また2面の「核心」の見出しのなかには「核施設150? 廃棄合意1カ所」というものもあり、北朝鮮には最大150カ所の核兵器関連施設があると米シンクタンクが試算していることを記事で紹介している。

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