コミュニケーション用ツールのSlack(スラック)は、シリコンバレーのスタートアップ企業やメディア企業、エージェンシーの間でもはや当たり前のように使われている。だが同アプリの最新の広告キャンペーンのターゲットは、より幅広い一般的な職に就く社会人だ。FOXスポーツ(FOX Sports)をはじめとする企業と提携して行われる同キャンペーンは、ワールドカップ期間中に展開される。

30秒のテレビCMのなかでは色とりどりの服を着た社会人とオフィス、そして拡大されたSlackの画面が映し出される。CMでは登場人物のアナ氏が同社の新しい休暇のルールをシェアし、画面にはバーチャルな絵文字と本物のビーチボールが飛び交う。Slackがこの夏に展開する広告キャンペーンは、ほかにもデジタル向けの15秒の動画広告、オンラインのディスプレイ広告、パンドラ(Pandora)やシリウス(Sirius)向けの音声広告、ポッドキャストのスポンサー、そしてペイドソーシャルなど多岐に渡る。

「誰もがSlackやSlackのこうした使い方を知っていると決めつけるのは、視野が狭い考えだ。知識労働者の世界は、もっとずっと広い」と語るのは、Slackのブランドコミュニケーション部長を務めるアンナ・ピッカード氏だ。同氏はSlackについて、「Slackはスタートアップ企業だ。だが、当社にいる社員は誰もこの業界にいて長い。たとえばサンフランシスコでごくありふれた隣人のためのソリューションを作るといったことは行ってこなかった」と、指摘する。

「働く人のためのツール」



Slackの利用者は毎日800万人にのぼる。そのうち有料会員は300万人に達し、有料会員グループは7万、そしてフォーチュン100企業のうち実に65%がSlackの有料会員グループのメンバーとなっている。Slackがいま取り組んでいるのは企業のカスタマーをさらに増やすことだ。ライバルはFacebookのWorkplace(ワークプレイス)と、ほかの昔から使われてきた職場コミュニケーション用ソフトウェアとなる。

とはいえ、今回のキャンペーンがSlack初の大規模広告キャンペーンというわけではない。ただ、CM構成はファンタジー的なCMからより身近なCMへと変わった。SlackのはじめてのテレビCMは2015年12月に放送された。そのCMは動物たちが空を飛ぶ傘を作るという内容だった。2017年に放送された次のCMは、白黒アニメの動物たちが宇宙船を作るというものだ。今年のキャンペーンは「仕事のためのコラボレーションハブ」と銘打たれ、クリエイティブエージェンシーのレッドペッパー(Redpepper)の協力を得て制作された。このCMがこれまでのSlackのCMと違うのは、登場するのが動物ではなく予算の承認や広告キャンペーンの立ち上げといった一般的な業務に携わる本物の人間ということだ。



Slackの素晴らしい点(同時に恐ろしい点でもあるのだが)は、どこにいても使えることだ。仕事中でもいつでも、インターネット接続さえあれば使える。だから今回の広告キャンペーンにも、実際のオフィスで働く人たちが登場する。

これについてピッカード氏は「このCMで伝えたいのは、Slackは場所にとらわれず仕事ができるような恵まれた人たちだけのツールではないということだ。Slackは従来のようにオフィスで働く人たちのためのツールでもある。ほかの人とうまく力を合わせてやっていきたいというニーズは万人に共通なのだから」と説明する。

CM動画の露出戦略



実際、SlackのCMは朝の9時以前の時間帯はグッドモーニングアメリカ(Good Morning America)やCBSディスモーニング(CBS This Morning)といったテレビ番組で、勤務時間帯はCNBCやブルームバーグTV(Bloomberg TV)といったテレビ局で流れている。これも従来型のオフィスワーカーの目に入るようにする狙いだ。

Slackのブランドマーケティングマネージャーを務めるバイロン・フルマー氏はこれについて、「朝はみんな通勤準備をしていて、仕事のことを考えている。その時間帯に流すことで、もっと良い働き方ができることを知ってもらいたい」と狙いを明かす。

Slackは勤務時間帯でも、オンラインのディスプレイ広告やYouTube広告を流している。内容は財務、マーケティング、営業にそれぞれ特化した3種類の15秒間の動画CMだ。

これについてもフルマー氏は「もちろん雇い主はそうしてほしくないだろうが、たとえばパワーポイントの作成を終えて財務部の人と雑談をしているあいだ、SNSや深夜番組での出来事をチェックするオフィスワーカーは少なくない」と語る。

W杯の機会も利用



それ以外にも、Slackは盛り上がりを見せるワールドカップの勢いも利用している。Slackは「コラボレーション」キャンペーンの一環で#PoweredBySlackと銘打ちFOXスポーツとマーケティング面で提携しているほか、メディアエージェンシーのノーブル・ピープル(Noble People)ともパートナー関係を結んでいる。Slackはロサンゼルスに拠点を構えるコメンテーターのためのスタジオ、FOXスポーツハブの出資者だ。

FOXスポーツはほかにもSlack関連の広告を放送しており、そのなかでニューヨークやロシアをはじめとした各地でFOXスポーツのチームがどうやってSlackを活用しているかを伝えている。たとえば ある動画では、FOXスポーツのソーシャルメディアチームが利用できるように制作チームがリオネル・メッシ氏の動画をSlackでシェアしている様子が映し出されている。

これについてフルマー氏は「当社のパートナーがどのようにSlackを活用しているかに焦点を当てたかった。Slackのマーケティングに関する15秒のCMを見れば、どのようにSlackが活用されているかが分かるだろう」と説明し、自身についても次のように述べた。「エージェンシー(ノーブル・ピープル)と提携して2年になるが、私自身も彼らとeメールで連絡をとったのはせいぜい6回くらいだろう」。

Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)