『「若者」をやめて、「大人」を始める』より

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結婚相手を決めるとき、なにを基準にすれば幸せになれるのか。年収やルックスにとらわれると、落とし穴にはまる。精神科医の熊代亨氏は、「『性格』のいい人、つまりストレスのたまりにくいパートナーを選んだほうがいい。そのためには相手の表情や言葉遣いを注視すべきだ」と説きます――。

※本稿は、熊代亨『「若者」をやめて、「大人」を始める「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)の第6章「『若者』の恋愛、『大人』の結婚」を再編集したものです。

■なぜ多くの女性がパートナーの年収を気にするのか

非婚化や晩婚化のあおりを受けてか、メディアで「婚活」の話題を目にする機会が触れました。そうした婚活の話題で一番目に付くのは、お金の話です。

結婚後の家計が左右される以上、パートナー選びに際して年収に目を付けるのは自然なことです。とりわけ、男性のパートナーに主に働いてもらって、自分は専業主婦かパートタイム労働でやっていくつもりの女性からすれば、稼ぎの大きなパートナーを求めたくなるのは当然でしょう。明治安田生活福祉研究所が発表している『20〜40代の恋愛と結婚(第9回結婚・出産に関する調査より)』によれば、「結婚相手として重視したい条件」に「相手の年収・経済力」を挙げる割合は男女で大きく差があります。

しかし、パートナーの年収を気にすることと、パートナーの年収ばかり気にすることはイコールではありませんし、それがすべての人に必要なこととも限りません。

世の中には、自分自身が職場の第一線で働いていて、相当な額を稼いでいるにも関わらず、男性の年収にとらわれてパートナー選びをしている女性が少なからずいます。世間の大半の女性よりも多額のサラリーを稼いで、社会的にも十分に活躍しているなら、結婚相手の年収を気にしなければならない程度は少ないはずです。にもかかわらず、そのような女性の多くも、医者、弁護士、一流企業の正社員……と、男性の年収や地位にこだわります。

同研究所の『25〜34歳の結婚と男女交際(男女交際・結婚に関する意識調査より)』は、25〜34歳の未婚女性に対して結婚相手に希望する最低年収額をたずねたところ、本人の年収が高いほど相手に求める年収額も高くなるというデータを示しています。

年収の低い女性が少しでも年収の高い男性をパートナーとして選びたいと考えることの必然性はあります。しかし、一家の稼ぎ頭になってもおかしくないような女性、一流大学を卒業して一流企業に勤めているような女性までもが、結婚相手の年収や地位を求めることにどの程度の必然性があるでしょうか。

年収の高い男性のなかには、派手な暮らしぶりを好む人、年収や地位を誇示したがる人、女性遍歴のたえない人がいます。そういった身ぶりのおかげで、彼らの高収入・高ステータスぶりははた目にもわかりやすいものの、そのための経済的・社会的コストは小さくありません。いくら年収が高くても、浪費癖のある男性、浮気性のある男性、鼻高々で他人を見下すこともある男性などは、結婚相手としては最悪です。

にもかかわらず、派手な暮らしぶりに引き寄せられ、ぬか喜びと失望を繰り返す女性があとを絶ちません。若干年収が低いけれどもつつましい生活をしている男性のほうが結婚相手としてはよほど有望でしょうに、目に留まりやすいところしか見ていない女性には、それがわからないのです。

似たようなことが男性側にも言えます。

古今の統計がこぞって示すところによれば、男性は若い女性に魅力を感じる傾向にあります。若い女性のほうがそうでない女性より妊娠適齢期が長いことを思えば、男性が若い女性を好む背景には、本能的・遺伝的な要因もあるのでしょう。

しかし、若い女性の肌の張りやプロポーションを追いかけたところで、どんな相手でもやがて年を取っていきます。遅かれ早かれパートナーが若くない=魅力がないと思えてしまうのがオチでしょう。そのことを考慮せず、若さだけを基準にパートナーを選びたがるのは、あまりに短絡的といわざるを得ません。

そのうえ、人格形成の真っ最中でアイデンティティも確立していないような若い女性はまだまだ移り気なうえ、社会経験や人生経験が足りていないぶん、一家を支えあうパートナーとしても力不足です。

■「お金」「若さ」で異性を見る人は何も見ていない

男性の年収しか見ていない女性も、女性の顔や胸しか見ていない男性も、何も見ていないし、何もわかろうとしていません。一番目立つところ、一番見つめたいところだけを見て、目立たないけれども優れたところや、目配りしておかなければあとで困るところを見ようとしていないのです。

男性の年収や、女性のルックスやプロポーションというのは、ある意味、中学生でも理解できる評価尺度です。それを評価すること自体は、おかしなことではありません。しかし、20代後半とか30代前半とかいった年齢になってもなお、中学生でも理解できる評価尺度だけでしか異性を評価できないのは、異性を見る目が育っていない……もっと言えば、人を見る目が育っていないということにほかなりません。

「大人」の恋愛や結婚の成否を左右する要因はさまざまですが、「人を見る目がどこまで育っているか」が非常に重要だと私は考えています。年収や若々しいルックスばかり見つめるのはやめて、もっと見るべきところに目を向けましょう。

では、異性のどんなところに目を向けて評価していけば良いかというと……率直に言えば「全部」です。

言葉の選び方、衣食住に対する感覚、生活習慣、人間関係、職場での評価、知識教養、どんなスポーツや趣味にどんな姿勢で取り組んでいるのか、人生哲学などなど、すべてが含まれます。

私はあえて、ここに「性格」という言葉を入れませんでした。というのも、その人の内面に宿る「性格」とは、言動や表情に表れるものだからです。言葉や表情は、一番外側に現れてきたその人の「性格」です。逆に言うと、内面ではどんなに良い人だったとしても、言葉遣いがしばしば荒々しくなったり、表情が優れなかったりすれば、他人には「性格の悪い人」にしか見えません。相手に求める条件としてしばしば挙げられる「性格の良いパートナー」とは、実質的には「自分にとって付き合いやすく、ストレスのたまりにくいパートナー」と言い換えられます。

■相手の生活習慣の細部をよく見ること

たとえば生活習慣がしっかりしている人、衣食住のメンテナンスができている人は、そうでない人より付き合いやすいでしょう。不規則で偏った食事を続けたり散らかりっぱなしの環境に住んだりしていると日中の活動の質が落ちてしまいますし、病気のリスク要因としても軽視できません。付き合いやすいパートナーについて考える際に、そうした部分に着眼しないのはバランスを欠きます。

表情や言葉遣いはもっと重要です。

どんなに顔立ちや体形が優れていても、表情が乏しい人は付き合いやすくありません。そのような人をパートナーにすると、表情を通して相手の気持ちを知るのが難しく、意思疎通にたびたび苦労するでしょう。対照的に、わかりやすい表情を適切につくれる人なら意思疎通しやすいぶん、誤解やすれ違いも起こりにくく、パートナーとして長く付き合うには適しています。

言葉に関しても、無思慮な言葉遣いの人と、配慮の行き届いた言葉遣いを心がけている人では付き合いやすさは大きく異なります。とげとげしい言葉を次々に口にし、他人の悪口ばかり言う人などは、一緒にいて疲れるだけでなく、その人以外の人間関係にまで悪影響を及ぼしかねません。

これらは「性格」という内面的なものというより、コミュニケーションに際して現れてくる「ソーシャル・スキル」とでも呼ぶべきものです。ソーシャル・スキルは先天的に身に付いているものではなく、社会経験を重ねるなかで磨かれていくものですから、年下よりも年上のほうが洗練されていることがしばしばです。そのうえ、若い頃より容貌が衰えたとしてもソーシャル・スキルは衰えません。

■趣味との向き合い方から相手を知る

趣味への取り組み方も、異性について多くのことを教えてくれます。最近は「オタクの婚活」が話題になったりもしますが、自分に近い趣味を持っているかどうかだけを気にするのでは不十分です。

多趣味な人にもいろいろな人がいて、単に飽き性な人もいれば、上達のコツを素早くつかむことによってたくさんの趣味をこなしてしまう人もいます。ひとつの趣味に打ち込んでいる人も、ひとつの趣味を深く追求しながらソーシャル・スキルもしっかり身に付けて生活している人もいれば、お金にも生活にもだらしないまま趣味に溺れている人もいます。趣味への取り組み方ひとつを見ても、その人について相当のことが類推できます。

そのほか、仕事や人間関係も含めて、あらゆるものに目を向けて、それらが何をほのめかしていて、どんなことを想定させるのか読み取りましょう。ひとつひとつの要素を切り取って読むのでなく、いくつもの要素を並べて、まとめて、その人がどんな人なのかを考えましょう。スポーツでも、オンラインゲームでも、SNSやInstagramでも、なんでもそうですが、その人の性質を反映していないものなど存在しません。分別の有無、虚栄心の強弱、社会経験の多寡、そういったものはあらゆる活動に現れ出てきますから、それらを総合して読み取るのです。

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熊代亨(くましろ・とおる)
精神科医
1975年生まれ。信州大学医学部卒業。専攻は思春期/青年期の精神医学、特に適応障害領域。ブログ『シロクマの屑籠』にて、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。著書に『ロスジェネ心理学』『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)、 『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)がある。

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(精神科医 熊代 亨 写真=iStock.com)