シリア情勢が複雑さを増している(写真:Bassam Khabieh/ロイター)

シリア情勢の複雑さは世界が手に負えるようなレベルをはるかに超えている。事態は急速に変化し、利害関係者の数は増え続け、戦線は絶えず移動し、すべてが泥沼と化していく。

シリアの内戦に2つの流れがはっきりと見えていたのは、わずか6カ月前にすぎない。1つは、アサド政権がロシア、イラン、イスラム教シーア派武装組織ヒズボラの支援を受けて着々と勝利への道を歩んでいたこと。

もう1つは、米軍主導の有志連合による掃討作戦を前に、過激派組織「イスラム国」(IS)の完敗が迫っていたことだ。しかし今となっては、IS掃討作戦はひいき目に見ても、犠牲が多すぎてとても勝利とはいえないような戦いだったように思える。多数の命を犠牲にしながら、紛争解決のメドはまるで立っていない。

米国の任務は膨大に

それどころか、事態は緊迫の度合いを増している。2月10日には、イスラエルがシリア南部にあるイランの軍事施設を攻撃した。国内でクルド人の分離独立問題を抱えるトルコは、国境を挟んでクルド人同士が結び付くのを防ぐためにシリア北部のアフリンへ侵攻。クルド人勢力の掃討に着手した。

一方の米国は、反体制組織シリア民主軍(SDF)の支援を得てスンニ派アラブ人兵士を組織するのに、過去6年を費やしてきた。

SDFの混成部隊はクルド人を軸とし、IS掃討作戦の前線で戦ってきた。だが、ISの掃討がほぼ終了した今、SDFはアサド政権だけでなく、同政権を後ろ盾とするロシアや、イランが操るシーア派民兵からも銃口を向けられる存在となっている。

確かに、米国がIS掃討に照準を合わせたのは間違いではなかった。だが今や米国が直面する任務は膨大なものとなっている。米国と連携して前線で戦うさまざまな協力者を見殺しにするわけにはいかず、他国、とりわけロシアとじかに衝突する危険性が高まっている。実際、米国が最近行ったシリア空爆で複数のロシア人戦闘員が死亡したもようだ。

シリアに侵攻したトルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国だが、米欧の同盟国は強く非難するのをためらい、トルコのエルドアン大統領に自制を促すにとどめている。

トルコは傍若無人に振る舞い続け、ロシアから最新鋭の地対空ミサイル「S400」を購入し、またもやNATO加盟国をあぜんとさせた。今後の和平プロセスの可能性をくじくような動きだ。というのも、ロシアの戦略的関心は中東をも覆っており、西側諸国がロシアに対抗するにはトルコの協力が欠かせないからだ。

オバマとトランプの功罪

未来の歴史家はISを徹底的に追い詰めたことについて、オバマ、トランプの両米大統領を称賛するだろう。だが、この戦争が持つ、より大きな意味合いを理解しなかった点で両人は非難されよう。

2011年にシリアのアサド大統領に退陣を求めたとき、オバマ政権に先の展開が見えていなかったのははっきりしている。同年7月、シリア駐在のフォード米大使はシリア中部の町ハマを訪れた。1982年にアサド大統領の父が住民を虐殺した場所だ。

米国務省によれば、訪問の目的は「平和的に意見表明するという、シリア国民の権利に対し強い支持を表明する」ことにあった。だが、民衆が立ち上がれば、父親がかつてそうしたようにアサド大統領は暴力で応じてくる。そのことをオバマ政権は本当に予見できなかったのか。

7年前に反アサドのスタンスを取ったとき、米国はトルコやロシア、イラン、イスラエルなど他陣営の思惑は無視して自らの国益を主張していた。だが、事ここに至って米国がどっちつかずの状況に陥る中、米ロ代理戦争の危険性が極めてリアルに立ち現れている。

トランプ政権にリーダーシップを発揮するつもりがあるのなら、まずは関係する各勢力の利益を理解し、和解の可能性を探るところから着手すべきだ。しかし、各勢力が何を望んでいるかを聞く前にトランプ政権は自問せねばならない。シリアが急速に混迷を深めていく中で米国が拠って立つ足場とは何なのか、と。