【LINEの答えあわせ 前編】少し時間をおいて返信する“じらし”テクは正しい?
「東京カレンダーWEB」で2017年に連載され圧倒的な人気を誇った連載「LINEの答えあわせ」が、一冊の本にまとまり『LINEの答えあわせ 男と女の勘違い』として宝島社から発売されました。
同連載が東カレWEBの人気No.1コンテンツになった秘密は、LINEのメッセージのやりとりに潜む嘘と本音と建前が、男性と女性それぞれの目線から語られている点でしょう。
今回は本書に掲載されているストーリーを1つ特別に公開。まずは女性の視点で描かれたストーリーを見てみましょう。
「少し時間をおいて、返信する」じらしテク。
女の恋愛バイブルは正しいの?
――今恵比寿で飲んでるんだけど、独身のいい男がいるからおいでよ!
水曜日の21 時。女友達の春香から突然の呼び出し電話を受け、カジュアルにスペイン料理が楽しめる『恵比寿18 番』へ向かった。
そこにいたのが、和樹だった。
「私の親友・千沙です」
春香から紹介され、和樹の隣の席を勧められる。元々商社におり、今は自分でアパレル関連の会社をしているという和樹は焼けた肌に、白いTシャツがとても似合っていた。
「ごめんね、突然呼び出して。今日何してたの?」
和樹の問いに、「仕事をしてました」と答える(本当は慌てて化粧を直し、一瞬家に帰って着替えていた)。
「遅くまで仕事お疲れさまだね。千沙ちゃんって、仕事できそうだよね〜。話し方もハキハキしてるし」
和樹の無邪気な笑顔に見つめられ、どきりとする。
――顔良し、性格良し、経済力あり。
やはりもつべきものは、人脈のある友達だ。春香に改めてお礼しなきゃと思うくらい、和樹は素敵な人だった。
「今、彼女募集中なんだ。千沙ちゃんのように、サバサバしてる姉御肌系の人がいいな」
帰り際にそう一言を言い放った和樹に、胸が高鳴る。そして帰宅後、和樹からLINEが入っていた。
携帯の画面を見つめながら、何かが始まる予感がした。
“気になる人からのLINEは即レス禁止”が基本ですよね?
今すぐにでも“ぜひ行きましょう♡”と返信したい気持ちを抑え、少し考える。
――男性をその気にさせるなら、即レスは禁止。
多くのマニュアル本に書いてある、LINEのやり取りの基本中の基本ルールだ。
うっかり既読にしてしまったが、すぐに返信するとこちらが和樹からのLINEを待ちわびていたように思われる可能性が高い。
翌朝送っても良かったが、仕事でひと休憩しているであろう、昼休みの時間を狙って送ることにした。
――昼休みに、一息ついたあたりで、LINEをもらったら嬉しいはず。
和樹からの返信はすぐに来た。とはいっても、今回はすぐに既読マークをつけないよう、携帯のロック画面で、LINEを確認する。
和樹の前のめりな姿勢に、思わず口角が上がる。男性は分かりやすいから、自分のことを気にしているか否か、態度で分かる。具体的な日程を聞いてくる時点で、私のことが気になっている証拠だ。そしてもちろん、こちらもしばらく置いてから返信する。
しかしその間に、春香とのLINEのやり取りは急ピッチで行われていた。
和樹から誘われたことを報告し、逆に春香からは和樹のバックグラウンドなどの情報が矢継ぎ早に入ってくる。女同士のLINEは面白く、スピーディーに進む。
そんな春香との鬼LINEの合間に、もう一通、和樹からLINEが入った。
こちらはすでにLINEのアプリを開いてしまっている状態のため、LINEのホーム画面で確認する。しかし文章が長いので、開封しないと何が書いてあるのか分からない。
本当はもう少し時間を置いてから既読にしたかったが、仕方がない。
どのように返すべきか、頭の中で計算する。正直に言うと、今週末は確か予定が空いている。しかし暇な女だと思われるのも嫌だ。「なかなか会えない、忙しい女性のほうが男性は追いかけたくなる」と、これも何かの本で読んだ記憶がある。
――簡単に落とせる女よりも、苦労して手に入れた女のほうがずっと愛される。
そんな一文を思い出し、和樹には再来週の日程を送った。
追わずに、追わせるのが愛され女の極意。
忙しいと思わせ、“あなたからのLINEなんて待ちわびていません”と見せる。
作戦は、功を奏したようだ。和樹とのLINEのやり取りを見返して、思わず職場でふふんと鼻が鳴ってしまった。
ミステリアスな女がモテるから。
「彼氏いるの?」と聞かれたらはぐらかす?
和樹に指定された『サッカパウ』は前から気になっていたお店だった。クリエイティブ・イタリアンと呼ばれる斬新で美しい品々。女性ならば嫌いな人はいないだろう。
店内に入ると、広々としたメインカウンターに目を奪われる。
「ここ、ずっと来てみたかったんです。さすが!」
興奮を抑えきれずにカウンター席につく。それと同時に、テーブルの上に置いた携帯の画面に、LINEの着信が表示された。
春香からだった。“今日のデートを報告しろ”と言ってきており、気になって仕方がない様子だ。
「ごめんなさい、春香からだ。一通だけ、返信してもいいですか?」
もちろん、と言う和樹の言葉に甘え、春香に手短に返信を打つ。
「千沙ちゃん、忙しそうだね」
「おかげさまで、忙しくて……。予定も、なかなか合わなくてすみません」
シャンパングラスを傾けながらそっと微笑んだ。本当は時間があったなんて、和樹には言わない。女には、噓が必要なときもある。
「千沙ちゃん、どれくらいの間、彼氏いないんだっけ?」
痛いところを突かれ、思わず返答に困ってしまった。デートしている人はいたものの、正式に“彼氏・彼女”の関係だったのはいつだろうか。
たぶん二年間くらいオフィシャルな彼氏はいない。けれども、二年もいないと言うと、大概周囲に驚かれ、そして引かれる。
だから決まって、この質問には言葉を濁すと決めていた。それに、ミステリアスなほうが、男性はもっとその女性を知りたくなる。
「うーん、一年以上かなぁ……和樹くんは?」
「俺は三年くらいいないよ」
私の曖昧な返事とは対照的に、和樹の返答は潔かった。でもきっと、モテる彼のことだ。オファーはたくさんあるに違いない。
「どんな人がタイプなんですか?」
「前に言ったじゃん(笑)。千沙ちゃんみたいな、姉御肌っぽくてサバサバしてる人。天然系とか、“構ってちゃん”が苦手なんだよね」
分かる分かると頷きながら、これは遠回しに好きと言われているのだろうか? と頭の中がプチ・パニックに陥る。
前に会ったときも、和樹はそんなふうに言ってくれた。今回も、タイプは私のような人だと言ってくれている。
――このまま、流れに身を任せてみようかなぁ……。
照れ隠しに、シャンパンをぐいっと一気に飲み干した。隣で、和樹が笑っていた。
お店を出ると、じっとりとした夏の熱気に全身が包まれた。夏の情事も悪くないかも、なんて思っていたが、明日が早いということでお開きになってしまった。
呆気なさと、もう少し一緒にいたかった気持ちを抱えながら帰路につく。
デート後のありふれたLINE。しかしこの会話が最後の会話となった。前のめりだったはずなのに、和樹から連絡は一切来ない。
――“愛され女”になるはずだったのに……。
追わせるつもりが、いつの間にか追っている。
最初は、明らかに向こうが乗り気だったし、LINEのやり取りもうまくいっていた。
何度もLINEを開いては、待ちわびている自分がいる。
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初対面の印象では“愛され女”になれそうだった千沙。彼女はどうして和樹に見限られてしまったのか?
気になる男性側からのストーリー(答えあわせ)は後編で!
『LINEの答えあわせ 男の女の勘違い』
著者:東京カレンダー