厚生労働省は、過重な仕事(長時間労働など)が原因で脳・心臓疾患が発症するリスクが高まると認めている。(PIXTA=写真)

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Q.過労死する前に、親が気づくべきこと、やるべきことは?

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労働時間の問題は、当事者よりも親が「子どもが働きすぎで心配だ」と相談に訪れることが圧倒的に多いです。

電通の事件でもそうでしたが、長時間労働が行われている職場では、多くの場合パワハラも横行しています。月の残業が80時間を超えている、ほとんど寝ずに出勤している、20日以上も休みがない……。普通の感覚なら辞めるはずですが、本人は仕事を終わらせることが当然と思い込んでいるので続けてしまう。いわばマインドコントロールされた状態といえ、うつ病かそれに近い精神状態に追い込まれて、本人は正常な判断ができなくなってしまうのです。

これはまずいと、親が動き出そうとしたときに、「そんなことをしたらクビになる。やめてくれ」と子どもが親を止めてしまうことが多いのも現実です。そうして問題が長引き、最悪の場合、過労死という結末を迎えてしまうわけです。

最悪のケースを防ぐには、やはり家族が強制的に介入するしかありません。「苦労して会社に入ったのに」という思いはわかりますが、命より大事なものはありません。

親が介入するときに、会社に直接訴える親御さんもいますが、その多くの場合は警戒されて、次の一手にマイナスの影響を与えてしまいます。

最初は、労働基準監督署に相談することをお勧めします。労基署から会社に是正などの勧告が入れば社内の制度などが劇的に変わる可能性があるからです。

もう辞めさせると決めた場合には、労働問題に強い弁護士に頼ることです。多額の費用が掛かりそうだと尻込みされる方も多いですが、アドバイスを聞くだけなら、掛かるのは法律相談料のみ。1時間1万円が一般的な相場です。代理人として企業との交渉や法的手続きを依頼される場合は、弁護士事務所によりますが、私の事務所であれば、長時間労働でうつになったケースだと費用は依頼人が得ている月収の7〜8割程度です。

長時間労働の問題で会社と係争になったときに重要なのは、労働時間の記録となる証拠をどう確保するか。未払い残業代の請求はもちろんですが、過労死や、自殺、過労による疾病では、労災認定を目指す際、勤務時間の記録が残っていないことが障害になることが非常に多い。多くの場合、退職とともにパソコンと携帯は会社に返却してしまうため、勤務時間を立証するデータがないのです。

会社で使用しているパソコンのログイン・ログオフ時間や、メールの送信履歴、ソフトの立ち上げ時間、携帯電話の使用履歴や業務日報などの記録をとっておくことを勧めています。最低でも手帳へのメモはしてください。記録をとっておく期間は2年。過労死、過労うつの労災認定に必要な半年分は記録したいところです。

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積極的に介入し、労基署に相談。勤務時間の記録も確保する

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棗 一郎
弁護士。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長。1961年、長崎県生まれ。中央大学法学部卒。日本マクドナルド店長残業代請求事件などを担当。
 

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(弁護士 棗 一郎 構成=伊藤達也 撮影=花村謙太朗 写真=PIXTA)