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text:Rachel Burgess(レイチェル・バージェス)

もくじ

ー トレンドは「燃料電池車(FCV)」
ー FCV トヨタによる影響大きく
ー 「バリューチェーン」を強みに
ー 番外編 主導権は中国にわたる?

トレンドは「燃料電池車(FCV)」

コンサルタント会社である「KPMG」のグローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイが907名もの業界主要各社の幹部を対象におこなった調査によれば、これから2025年までの間、燃料電池車(FCV)の製造に関する話題が業界の主要トピックになるだろうとのことだ。

各社幹部に近い将来最も重要だと考える自動車のトレンドについて質問をおこなったこの調査では、バッテリーを積んだEVや、自動運転車、それにコネクティビティよりも、FCVの技術が差し迫った課題として上位にランクされている。

電動化モデルに関するものがことしの調査では上位4つのうち3つを占めており、従来型の内燃機関から電動化への業界シフトを裏付ける結果となっている。

2015年まで続いたエンジンのダウンサイジング化が、当時は最も重要なトレンドとして第2位にランクインしていたものの、ことしの調査では9位に沈んでいることにも注目。

調査はオンラインの質問票に回答する形で実施され、回答者の中には229名のCEOが含まれている。彼らはFCVの重要性をより強調しており、うち64%が燃料電池を主要なトレンドだと回答しているが、これは回答者全体の54%を上回っている。ハイブリッドは5位にランクされ、コネクティビティとデジタル化は6位である。

――なぜ、FCVなのか?

FCV トヨタによる影響大きく

英国KPMGの自動車部門トップであるジャスティン・ベンソンは本誌に対して、FCVが第1位にランクされたことは「いささか驚き」だと語りつつ、トップ5に入るだろうことは予測していたと言う。

「トヨタによる影響です。彼らは燃料電池技術に最も投資をしていますから。そして他社も同じように巨額の投資を始めています」

さらに業界では水素を原料とする燃料電池のインフラ整備も始めている。例えば、シェルは英国のM25号線にあるコブハムのサービスエリアに昨年水素の供給施設を設置しており、さらに数を増やす予定だ。

しかし、ベンソンは水素を動力源とする燃料電池車を安価に大量生産できるかどうかが重要だと言う。これは2010年代初め、バッテリーを動力源とするEVが市場に参入してきた際に直面した課題でもあった。

また、2017年の調査に続き、コネクティビティとデジタル化が2番手にランクされているが、ベンソンはこの分野がいかに各メーカーの将来における成功を左右することになるかを強調する。

「コネクティビティが自動車メーカーにとって最も急激な変化をもたらすことになります。なぜなら、必要とされる技術がまったく違うものであり、さらにはこの技術を使いこなしてデータ分析をおこなう事での収益化には、過去のやり方は通用しないからです」

グーグルやアップルが気になってくる。

「バリューチェーン」を強みに

ベンソンは、グーグルやアップルのようなシリコンバレーのデジタル企業の方が、アプリやデータ管理をもとにした将来クルマで使用されることになる技術をより深く理解していることで、これまでの自動車メーカーに対し有利な立場にあると言う。

「従来の自動車メーカー各社は自分たちのクルマをほかの『何か』と繋げることはして来ませんでしたが、グーグル、アップル、アマゾンやその他多くのスタートアップ企業には既に何年もの経験があるのです」

「だからこそ多くの自動車メーカーがこういったデジタル企業とパートナーシップを結んでいるんです。『バリューチェーン』の価値はクルマそのものから顧客データに移って来ています。顧客の満足度を高め、より多くのサービスや製品を提供するためのデータ・マネジメントや分析、そしてその活用といったことに対応できる企業が、新しい自動車世界の勝者になると思います」

多くの自動車メーカーが自立運転モデルのコンセプトを発表し、自動運転について語るいっぽうで、KPMGのレポートによれば、業界幹部たちはこの話題の重要性を8番目としてしか考えていないということだ。

ベンソンいわく、多くのメーカーが既に自動運転モデルに関しては自社の戦略に基づいた対応を進めているため、この分野の重要性が縮小して来ているという。

「自動車メーカーの世界では、自立運転モデルというのは既に長年に渡って検討されてきた課題であり、2023年までには、全ての主要な自動車メーカーが公道走行可能な自立運転モデルを発売することになるでしょう」とベンソン。

さらに、自動運転モデルの本当のゲームチェンジャーは、ウーバーや公共交通機関がこの技術を実際に使い始めた時に初めてやってくるとも語る。

番外編 主導権は中国にわたる?

KPMGのアンケートに回答した業界幹部によれば、中国は自動車販売台数でトップを走るだけでなく、業界における新たなイノベーションにおいても、より長い歴史を持つほかの市場を凌駕しているとのことだ。

アンケート回答者は、画期的な新しい製品やクルマを導入する市場として、中国はドイツや米国を上回り最も魅力的な市場だと考えている。KPMGによれば、この回答結果は中国の電動化への注力によるところが大きいと言う。

中国は自国の大気汚染レベルを下げ、輸入原油への依存を断ち切ると同時に、さらには長い歴史を持つ自動車メーカーを追い越すために、この100年に1度のパワートレイン・シフトを活用しているのだ。

中国政府はSAIC、ジーリーやTrumpchiといった自国メーカーに対して、電動パワートレイン技術に注力するように仕向けており、信頼性のある中国製モデルを世界的に販売することで、自国の自動車産業の繁栄を目指している。

KPMGの調査によれば、世界の業界幹部1/3以上がバッテリー駆動のEV世界市場は中国が支配することになるだろうと考えており、さらに1/4が燃料電池車でも中国が主導権を握ると予想している。