経営危機が続いた東芝。上場廃止リスクからようやく解放される(撮影:梅谷秀司)

「1年前を考えれば奇跡的だ」。ある東芝役員はこう振り返る。

東芝は1月18日、米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)関連資産の売却契約の締結と2018年3月末に債務超過を解消できる見通しとなったことを発表した。これにより、東芝は悩まされ続けた上場廃止リスクから解放される。

2017年3月末時点で5529億円の債務超過に転落した東芝。債務超過を解消するために、半導体メモリ事業を分社した東芝メモリを約2兆円で売却した。しかし、中国などの独禁法審査が終わっておらず、売却益はまだ計上できない。いまだ東芝メモリの売却は完了していないにもかかわらず、なぜ債務超過を解消できるのか。

増資資金で違約金を一括支払い

ポイントとなるのは、2017年12月の6000億円の第三者割当増資と税務上の損金確定である。

まず、12月5日にケイマン諸島に籍を置く投資ファンドを中心とした60社に対し第三者割当を実施、6000億円を調達した。そしてその後、この資金を使って米国電力会社に対する親会社保証6540億円を一括で弁済した。

この親会社保証はWHが建設していた原子力発電所の発注者である電力会社2社に対するもの。WHが2017年3月に法的整理を申請し、原発建設契約を破棄したことで、親会社として東芝が違約金を払う必要があった。この支払いは2017年10月から5年間に渡って支払う契約だったが、これを前倒しで一括支払いをしたのだ。

結果、親会社保証はWHに対する東芝の債権(求償権)に切り替わった。これにもともと東芝が持っていたWHに対する債権と合わせて約9000億円分を、米国の投資ファンドに約2400億円で売却する契約を取り交わした。これが今回のディールである。

一見すると約6600億円(9000億円-2400億円)の損失を生みそうなこの取り引きが債務超過解消のラストピースになるのは、税負担の軽減につながるからだ。

東芝は、前期(2017年3月期)に約1兆円の最終損失を計上した。この最大の原因となったのは1兆4000億円ものWH関連損失である。

東芝にとって厳しかったのは、企業会計上はWH関連の資産(債権と株式)をほぼゼロまで減価し損失計上となったにもかかわらず、WHの再建計画が認可されるまでこの巨額損失は税務上では損金としては認められないことだった。

WH関連債権の売却で損失を確定

今期(2018年3月期)は、半導体メモリ事業が絶好調で営業利益は過去最高の4300億円を見込んでいる。にもかかわらず、今期の最終損失予想は1100億円の赤字、2018年3月末の債務超過額は7500億円に拡大するとしていた(2017年11月時点の会社予想)。


東芝の経営再建は次のステージに入る(撮影:梅谷秀司)

最終赤字となるのは税負担が重いからだ。売却を前提とした半導体メモリ事業の分割により、見なしの評価益1兆0800億円に対する税金(計算上は3400億円)が発生する。東芝メモリの会計上の売却益は売却完了まで計上できないが、税務上は分割によって利益が認められてしまうのだ。加えて、事業の利益にも税金(同1270億円)がかかる。前述のようにWH関連損失が税務上は認められていないためだ。

本来、こうした企業会計と税務会計の違いを埋める手段として税効果会計がある。しかし、債務超過で将来収益の実現性が不透明な東芝には税効果会計が適用されない。

このままでは債務超過は7500億円に拡大するため、6000億円の増資だけでは2018年3月末までの債務超過解消には足りない。

WH関連債権を外部に売却すれば、再建計画が認可される前でも当該損失を確定できる。そのために親会社保証を清算する必要があった。しかし、増資前の東芝には実行する資金はない。6000億円の増資はこのディールを行うための資金を得るという意味でも重要だった。

増資資金を使って親会社保証を支払い、WHに対する東芝の債権として一本化。そのうえで投資家に売却する。東芝の簿価は事実上ゼロになっているので、売却によって2400億円(税引き後で1700億円)の利益も出せる。

ちなみに投資家が債権を購入するのはWHの再建計画によっては弁済を受けられる可能性があるからだ。2400億円で購入してもペイするとそろばんをはじいたということになる。

結果、2018年3月末の東芝の自己資本はマイナス7500億円+6000億円(増資)+2400億円(税負担軽減)+1700億円(WH関連債権の税引き後売却益)=2600億円へと回復する見込みだ。

東芝はWHスポンサーに名乗りを上げたカナダの投資会社にWH株を1ドルで売却する契約も締結済み。3月末までに規制当局の承認が間に合えば、会計上は前期に計上済みのWH株式減損も税務上の損失として確定できる。さらに約2000億円の税金軽減が得られる。

3月末に承認が間に合わなくても、WH株を売却できれば、来期以降、国内事業で利益を生み出していければその分は税金の軽減が得られる。また、企業会計上は税効果による繰延税金資産という形で一定を利益上乗せとなる可能性がある。

さらに東芝メモリの売却が完了すれば、1兆800億円の売却益が得られる。これは課税済みであるため、ストレートに自己資本を引き上げる。つまり、5000億円以上の債務超過だった東芝は近い将来、1兆3000億円〜1兆5000億円の自己資本を持つ財務的には優良会社に生まれ変わるわけだ。

リスクはまだ残っている

もっとも、これでめでたしめでたしとなるかはまだわからない。


綱川智社長。新生東芝の絵をどう描くか(撮影:尾形文繁)

天然ガスの液化施設「フリーポート」の使用契約や米国の原発関連訴訟などリスクはまだ残っている。フリーポートは最大損失1兆円までは出ないにしても、現状で2000億円程度の損失を生むと説明されている。増資を引き受けた投資ファンドが、どういう要求を突きつけてくるかも不安が残る。

普通議決権で40.1%持つ東芝メモリの持分法利益は得られるものの、それ以外のインフラ事業でどう成長を実現していくかはまだ見えてこない。

「12月はボーナスをもらって辞める人が増えたが、退職者も少なくなってきている」(東芝役員)というが、人材流出が止まったわけではない。

東芝メモリ売却前に債務超過を解消できるなら、虎の子の東芝メモリを売らなくてもよかったのではないかーーこうした声が出るだろう。実際、増資を引き受けた投資ファンドの一部からはすでに聞こえてきている。ただ個人的には債権超過になったとはいえ、東芝メモリを売却しなければ脆弱な財務体質で、メモリ産業の巨額投資を継続することは難しいと考える。

いずれにしろ、財務的には危機を乗り越えた東芝が本当に復活できるかはまだわからない。