利用者が急増中の加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」(右)。「有害物質9割減」をうたうが、第三者研究機関から”待った”がかかっている(記者撮影)

利用者を急速に増やしている「IQOS(アイコス)」などの加熱式たばこ。街でよく見掛けるようになったと感じる読者も多いだろう。

加熱式たばことは、専用端末にたばこ葉の入ったスティックやカプセルを挿入し、加熱して出る蒸気を吸引するもの。従来の紙巻きたばこと違って煙が出ず、においも少ないのが特徴だ。英調査会社のユーロモニターによれば、2017年末に日本のたばこ市場の約18%を占めた。

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第三者機関による研究がまだほとんどない


本特集でも追いかけた加熱式たばこの市場はフィリップ モリス インターナショナル(PMI)が販売するアイコスの独走状態。端末の販売台数は300万台を超え、アイコス用のスティックの売り上げシェアは、全たばこ製品の約15%を占めるようになった。

そのアイコスは「有害物質9割減」をうたっている。はたしてこれは本当なのか。

PMIによると、紙巻きたばこの煙に含まれる化学物質は6000種類以上。アイコスはその中で、WHO(世界保健機関)が特に有害、またはその可能性があると定めた9種類の化学物質(ホルムアルデヒドや一酸化炭素など)を、紙巻きたばこに比べて平均9割削減できているという。

だが、アイコスや「健康懸念物質99%減」をうたうJT(日本たばこ産業)の加熱式たばこ「Ploom TECH(プルーム・テック)」の場合も、こうした研究結果は自社の研究機関から出されている。第三者機関による研究がまだほとんどないことは、意外に知られていない。

第三者による数少ない研究として、2017年7月に米国の医学雑誌に掲載された、スイスの研究チームによるアイコスの有害物質に関する論文がある。PMIの研究結果と同じように、紙巻きたばこに比べ有害物質の量はある程度減っていたことが示されたものの、一部の有害物質の削減率に関してはPMIの研究と大きな差があった。


特にWHOが発がん性物質に指定するホルムアルデヒドは、PMIの研究結果では9割以上減っていた一方、スイスの研究では26%しか減っていなかった。

これに対し、PMI日本法人の担当者は「第三者機関の検証は歓迎するが、スイスの研究は詳細な実験方法がわからないのでコメントできない」と話す。

PMIがアイコスとの比較対象にしたのは、WHOなどがこうした実験に用いる「標準たばこ」と呼ばれるもの。対してスイスの研究チームでは、一般に出回っているブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の「ラッキーストライク」の銘柄の1つを比較対象にしているなど、実験方法は多少異なっている。

加熱式たばこだけの健康影響を測ることは難しい

PMIは、加熱式たばこをハームリダクション製品(健康リスクを低減する可能性がある製品)と位置づけている。紙巻きたばこを吸い続けるよりも、加熱式たばこに切り替えたほうが健康へのリスクが低いかもしれない、という考え方だ。

大阪府立成人病センターで調査部長を務めた大島明氏は、「健康のためには紙巻き、加熱式ともやめるのが理想。だが、紙巻きたばこをやめられない人にとって加熱式たばこは“まだまし”な代替品になる」と話す。

一方、日本呼吸器学会はこのハームリダクションの考え方について、「有害物質の量がどこまで低減されれば健康被害の低減につながるのか、科学的根拠はない」と反論する見解を示している。


PMIによれば、アイコス利用者のほとんどが紙巻きたばこからの切り替えだ。しかし、アイコスと紙巻きたばこの併用者も依然として多い。アイコス利用者が1日に吸うたばこの本数の3割ほどは、まだ紙巻きたばこだという。そのため、加熱式たばこだけの健康影響を測ることは難しい。

たばこ業界に詳しいジャーナリストの石田雅彦氏は、「紙巻きたばこでも健康への影響がわかるデータがそろうまで20〜30年かかった。加熱式たばこを論じるにはまだ研究が足りない」と話す。

たばこメーカーがうたう「有害物質9割減」を信じて良いか。有害物質削減で健康影響はどれだけ減るのか。検証にはまだ時間がかかりそうだ。

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